生き物

アリのコロニーは世代を超えて過去の記憶を受け継いでいる

by Sancho McCann

アリは人間にとって非常に身近な虫であり、子どものころに近所でアリの巣を見つけて長いこと観察し続けたことがある人も多いはず。アリは産卵行動を行う少数の女王アリと大多数の働きアリによって構成されるコロニーを作りますが、そのアリのコロニーが「世代を超えて過去の記憶を受け継いでいる」と、スタンフォード大学の生物学者であるデボラ・ゴードン氏が述べています。

Ant Colonies Retain Memories That Outlast the Lifespans of Individuals | Science | Smithsonian
https://www.smithsonianmag.com/science-nature/ant-colonies-retain-memories-outlast-lifespans-individuals-180971022/

人間の脳はニューロンのネットワークによってさまざまな経験や出来事を学習して記憶し、それによって人々は過去に本などで読んだ内容や、自転車に乗る感覚などを覚えることができます。また、「インフルエンザにかかった時の状態」と「平常時の状態」をそれぞれ覚えていることで、「インフルエンザにかかると非常に苦しいので、予防接種を受けよう」といった風に過去の経験から未来の行動を変えることもあります。

記憶を持つのは人間に限らず、アリを含む他の生物についても同様です。たとえばクロオオアリは食べ物を見つけた場所を数分間記憶しており、一度巣に戻った後でも再び食べ物があった場所へとたどり着くことが可能。また、サハラサバクアリは砂漠をグネグネと曲がりながらさまよってエサを探しますが、巣を出てから歩いた距離または歩数を記憶できるとのこと。

by Hossam Taha

ヨーロッパの森林などに生息するアカヤマアリは、コロニーで何年にもわたって同じ木に登り、アブラムシの排せつ物などの食料を入手しています。コロニーが住む巣穴は何十年にもわたって同じ場所に存在し続けますが、アカヤマアリの寿命はそれほど長くありません。それにも関わらず何年もコロニーのアリが食料を得るために同じ木に登り続けられるのは、コロニーの年老いたアリから若いアリに対して、登る木を伝授しているからだそうです。

アカヤマアリは冬の間、巣穴から外に出ることはできず、大勢が雪の下に広がる巣の中で暮らしています。フィンランドのアリ学者であるRainer Rosengren氏は、春になって若いアカヤマアリが誕生すると、冬になる前から生きている年老いたアリが若いアリを連れて、以前から登っている木に登ることを発見しました。これによって年老いたアリが死んでも若いアリが以前から登っている木を記憶し、何十年にもわたって同じ木に登り続けられる仕組みになっています。


日本をはじめとする東アジアに生息するクロナガアリは、エサを探すアリが隊列を組んで行進することがありません。エサとなる植物の種を見つけても周囲に他の種があるかどうかわからないため、それぞれのアリは単独で巣穴の外に出てエサを探し回り、種の回収作業も1匹だけで行います。

最大で巣穴から20m離れた場所まで種を探しに出るクロナガアリは、種を見つけたら太陽の角度をガイドにして巣穴まで戻ります。そして種を巣穴内の貯蔵庫に置いた後は、他のアリが貯蔵庫に種を持ち帰ってきたタイミングまで待機し、種を持ち帰ったアリと出会ったら再び巣穴の外へ食べ物を探しに出かけるとのこと。


毎朝クロナガアリがエサを探す範囲は変わり、アメーバのように伸縮を続けるそうです。個々のアリはその時点のコロニーがどのような探索範囲を持っているのかを知りませんが、同じ方向に出かけた他のアリよりもなるべく遠くに行こうとする傾向があります。それによって次第にエサの捜索範囲は広がっていきます。

ゴードン氏はクロナガアリのエサ捜索を妨害した場合、次の日の行動パターンに影響が出るのかどうかを実験しました。アリの進路を妨害するつまようじを巣穴の周りに置いたり、捜索範囲内に邪魔なブロックを置いてエサの捜索を困難にしたり、働きアリが防御反応を取るような攻撃を仕掛けたりしたとのこと。

その結果、妨害行為自体はコロニー全体から見て少数の働きアリに対してのみ行われたものの、妨害行為による行動の変化はコロニー全体に現れたそうです。働きアリは妨害行為が終了した後も、まるで妨害行為が行われているかのような行動を取り続け、持ち回りで仕事を受け持った「実際には妨害行為を受けていないアリ」までもが、特定の地点で妨害行為に対する反応を見せました。

by Stavros Markopoulos

一般的にクロナガアリのコロニーは20年から30年も続きますが、個々の働きアリは1年ほどの寿命しか持っていません。そのため、コロニーの寿命のうちに何度も働きアリの世代が交代し、数年前のできごとを実際に経験して記憶している働きアリは存在していないことになります。

しかし、ゴードン氏がクロナガアリのコロニーを妨害したところ、誕生から間もない「若い」コロニーは妨害に対して過剰に反応したのに対し、歴史の長いコロニーは混乱に対しても落ち着いて対処し、エサを探す行動がおろそかにならなかったとのこと。つまり、若いコロニーも年老いたコロニーも実際に働いているアリの年齢は同じであるにもかかわらず、コロニー成立からの年月によって不測の事態に対する賢さに差が出たのです。

アリは、他のアリが放出する化学物質や匂いに応じて次の行動を決めます。そのため、コロニーで接触する他のアリの数が増えれば増えるほど入手できる情報が多くなり、結果としてより巨大かつ歴史の長いコロニーのアリの方が、年月の若いコロニーよりも賢くなっているとのこと。個々のアリが生まれていない時代に起きた事件の記憶が、直接その事件を経験していない後世のアリに引き継がれているとゴードン氏は述べました。

by Tim Keppens

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in サイエンス,   生き物, Posted by log1h_ik