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ニコラス・ケイジ主演のスプラッタホラー「Mandy」を使ってノスタルジーをかき立てる「フィルムグレイン」がいかに映画の美的効果を進化させたのかを説明


血にまみれたニコラス・ケイジの姿や、巨大なチェーンソーを持った男とのバトルシーンが話題となっている映画「マンディ 地獄のロード・ウォリアー」はパッと見た感じはよくあるB級スプラッタホラー映画に見えます。しかし、この映画は「フィルムグレイン」という美的効果を使った実験的な映像作品であり、映画好きにはたまらない仕上がりになっているとして、YouTubeチャンネルのNerdwriter1がそのすごさを熱く語っています。

Mandy: The Art Of Film Grain - YouTube


技術の進歩に伴いあらゆるものがデジタル化されるなかで、「物理的なものへのノスタルジー」が目立ってきています。


作家のJames Bridle氏は、「電子書籍が紙の書籍を脅かすまで、誰も紙の匂いなんて気にしなかった」ということを指摘しています。


同様のことが音楽業界でも起こっており、ストリーミングサービスで高音質の音楽が聴けるにも関わらず、近年、アナログレコードの売上は上昇しているとのこと。


もちろん、アナログレコードの音は素晴らしいものですが、これらの人気はその「質」によるものではなく「アナログな世界の象徴」としてもたらされたのではないかとみられています。


このような傾向は物理的な「物」に限りません。Instagramでは高品質の写真をあえて粒子の粗い、古いカメラで撮影したかのように見せるフィルターが人気です。これらのフィルターは、Instagramのユーザーが実際には触れることのない道具を模しています。


また、ブライダル業界では、デジタルの写真をあえて歴史を感じさせるような形で加工することがあるとのこと。


このような「ノスタルジーの美」は映画でもよく着目され、「フィルムグレイン」という効果として登場します。


フィルムグレインは、粒子が残ったざらざらとしたノイズがある映像効果を指します。


基本的に写真家や映像作家は作品のノイズをできるだけ排除しようとしますが……


映画、特に低予算のインディペンデント系映画は安価な16mmフィルムを用いることが多く、スタジオのライティングも不十分です。そこでフィルムグレインが活用されるようになりました。


インディペンデント系映画の中でフィルムグレインはしばしば使われるようになり、1つの美的効果として認められていますが……


この美的効果をさらに発展させることはできないのか?という実験を行ったのが、2018年11月10日(土)公開予定の、ニコラス・ケイジ主演映画「Mandy」(マンディ 地獄のロード・ウォリアー)です。


Mandyはパノス・コスマトス監督の長編2作目で、報復をテーマにしたホラー映画です。70年代のグラインドハウス映画を連想させる仕上がりで、よくある感じのホラー映画に見えますが……


ドラッグを使った時のようなサイケデリックな映像にその特色があります。


コスマトス監督は明らかに「精神的な映像」に焦点を置いており、作中の映像は汚く、原色が使われ、フィルムグレインが多様されています。ぼんやりと写っている赤と黒とコントラストに近づくと……


血にまみれたニコラス・ケイジでした。


このような効果は、コスマトス監督の1作目である「Beyond the Black Rainbow」にも見られました。Beyond the Black Rainbowの予告編はYouTubeで公開されています。


コスマトス監督にとって、このような視覚効果は単に古い映画のオマージュというわけではありません。現存する美的効果の潜在的可能性をさぐり、どのような感情やトーンを呼び起こすことができるのかを見るための実験なのです。


Beyond the Black Rainbowを見た観客は、「フィルムグレインは単なる映像処理の副産物ではなく、ライティングや色調といった効果と同じではないか?」ということを考えさせられるとのこと。


フィルムグレインの重要な性質の1つは「動き」だといいます。


これはつまり、画面の中に現れる粒子は、被写体に「動き」を与えるということ。


粒子があるゆえに静止しているものであっても「動き」の効果が生まれ、まるで幻覚剤を飲んだ時に見る映像のようになります。


Mandyにおいて、フィルムグレインは夢のような宇宙のような印象、あるいはバッドトリップのような印象を映画に加えています。


また粒子はものとものとの境目をあいまいにします。フィルムグレインによって1つの画面が微粒子化し、粒子が分散や重複して映像を作っているように見せるとのこと。


作中にはスモークを使って粒子の効果を高めている画面も。スモークがたかれることで、確実なものがなくなり、「次に何が起こるのか」というサインもなくなります。このような映像の中では全てが曖昧で、常に全てが崩れ去るリスクにさらされているような印象になります。


これらの効果が特に現れているのが、ニコラス・ケイジ演じるレッドの妻マンディが、カルト団体に誘拐され、幻覚を伴うドラッグを無理やり服用させられた場面。画面は紫とピンク色のぼんやりしたグラデーションで描かれています。


また、カルトのリーダーであるジェレマイアが動くと、その動きが粒子によって可視化されます。


そして膝をつき、マンディに語りかけるジェレマイアの顔は……


徐々に変化し……


いつの間にかマンディ自身の顔にすり替わっています。微妙に顔が変化していくため、粒子の効果もあって、見ている人は最初この効果に気づきません。このような効果は「映像の装飾」となっているのではなく、ストーリーに複雑に絡み合っているのが映画Mandyのすごいところ。「マンディの顔がカルトリーダーの顔に流れ込んでいく」というワンシーンで、マンディのアイデンティティが失われ、カルトリーダーのそれに置き換わっていったことが表現されているのです。


このような視覚効果なしでMandyは語れません。時間を経る中で、これまでの歴史がノスタルジーになり、ノスタルジーが1つの美として認められ、そして若い映像作家に大きな可能性として示されたわけです。

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