サイエンス

赤ちゃんが生まれてすぐに呼吸できるようになる理由

by Filip Mroz

「呼吸」は人間の生命活動にとって欠かせないものですが、生まれた頃から無意識のうちに行っていることであるため、とても簡単なものであると思ってしまいます。しかし、実際のところ「呼吸」は多種多様なニューロンを含んだ複雑な生物学的機能であるそうで、そんな呼吸を赤ん坊がどのようにして自然と行えるようになるのかを、科学系メディアのScicastsが記しています。

How to 'Jumpstart' Rhythmic Breathing at Birth
https://scicasts.com/channels/neuroscience/2157-neurochemistry/14256-how-to-jumpstart-rhythmic-breathing-at-birth/

血液中の酸素および二酸化炭素レベルを感知するには化学感覚ニューロンが必要であり、筋肉の動きを制御するには運動ニューロンが必要となります。これらのニューロンは呼吸に必要なものですが、赤ん坊が生まれた際に呼吸を始めるには、さらに別の特別なニューロンが必要となるようです。しかし、多種多様なニューロンによる作用から正確な呼吸リズムが生み出されることは明らかになっているものの、具体的に「どのような機構が呼吸リズムを生成しているのか?」についてはこれまで明らかになっていませんでした。

そんな中、ベイラー医科大学でHuda Zoghbi氏が率いる研究チームが、後脳内で呼吸を制御する2つのニューロンを発見しました。このニューロンは赤ん坊が生まれた際に重要となる「最適な呼吸リズムを確立・維持すること」において特に大きな役割を担っており、人体のさまざまな器官から得られる情報を呼吸回路のリズム形成ニューロンへと中継する役割も担っているそうです。

by Brytny.com

分子生物学の教授であるZoghbi氏は、「酸素や二酸化炭素の濃度変化に応じて呼吸リズムを調節する能力は、ヒトや他の動物の生存にとって不可欠なものです。赤ん坊の場合、母親の体内で既に神経回路が呼吸リズムを練習できるようになっており、フィードバックに基づき正しい呼吸のリズムへと調整していくことが可能となります」と語っています。

この呼吸に関する神経回路は、マスター遺伝子が作り出す転写因子と深い関わりを持っていることが研究から明らかになっています。転写因子がニューロン集団の発達を監督したり、ニューロン間で起きる反応を調整したりして、遺伝的な神経回路の設計図を基に、呼吸のための神経回路を構築するように後脳全体を操るそうです。

「これらの重要な遺伝子がどのように呼吸回路を構築するかを理解すれば、呼吸に関する神経回路がどのように誕生するかについての貴重な洞察を得ることができるでしょう」とZoghbi氏は語っており、加えて、乳幼児突然死症候群(SIDS)のような疾患で「呼吸不全で死んでしまった乳児」の死因解明にもつながると考えられていました。

by Daniel Hjalmarsson

そんなZoghbi氏らの研究チームが見つけたのが、呼吸の制御に深く関わる調節遺伝子の「ATOH1」です。ATOH1遺伝子は後脳で発現し、この領域におけるいくつかの神経系統の発生に大きく寄与する遺伝子として知られています。

これまでの研究ではATOH1遺伝子が後脳下部に存在するretrotrapezoid核(RTN)から特異的に欠損した場合、マウスは体内の二酸化炭素濃度が高まっても呼吸リズムを調整することができないこと、さらに生まれたてのマウスの場合、呼吸不全で死亡することが確認されていました。これらの結果からATOH1遺伝子が呼吸にとって重要な役割を担っていることは明らかでしたが、最新の研究では傍小脳脚核複合ニューロン(PBCニューロン)が酸素や二酸化炭素レベルが危険域に達した際に特に活発になることが発見されています。これは、呼吸においてPBCニューロンが重要な働きを担っていることを示す重要な結果だそうです。

研究に参加したマイク・ファン・デル・ハイデン氏は、「新生児期に小傍神経細胞を欠損したマウスは、新生児期に生き延びても、不規則なリズムの呼吸になったり無呼吸状態に陥ったりと、呼吸器系でいくつかの問題が見られました」と語っており、このことからPBCニューロンが呼吸に関する神経回路の形成にとって重要な役割を担っているのでは、と考えられるようになったとのこと。

by Chiến Phạm

また、最新の研究結果から、Zoghbi氏らは化学感覚ニューロンによって酸素および二酸化炭素の濃度変化が検出され、PBCニューロンおよびRTNニューロンによりそれらの情報が呼吸回路へと伝達される、というモデルを提唱しています。そして、PBCおよびRTNニューロンは、これらの情報を呼吸リズム生成ニューロンに伝達し、運動ニューロンを用いて筋肉を活性化し、より多くの酸素を取り入れられるように体を動かして速く深い呼吸を行えるようにしている、と研究チームは主張しています。

これらのニューロン系統の発達および活性を調整する遺伝子に変異をきたした新生児は出生後に呼吸障害などのリスクを増大させる可能性が高く、また、新生児の神経呼吸回路は未成熟なため、酸素または二酸化炭素濃度のわずかな変化が致命傷となりSIDSで死亡してしまう可能性がある、と研究チームは指摘しています。

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in サイエンス, Posted by logu_ii

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