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山火事の消火にあたっていた消防局のデータ通信回線を通信キャリアが速度制限していたことが判明

By Michael Gabelmann

火災の現場で決死の消火活動を行っている消防隊員も、現場で必要なデータをやり取りするために携帯電話の回線を使った通信を利用しています。効率的な消火活動はもちろん、隊員の命を守るためにも不可欠なデータ通信ですが、アメリカの通信キャリア「Verizon(ベライゾン)」は回線契約の関係で緊急出動中だった消防隊のデータ通信に速度制限をかけていたことが明らかにされています。

Verizon throttled fire department’s “unlimited” data during Calif. wildfire | Ars Technica
https://arstechnica.com/tech-policy/2018/08/verizon-throttled-fire-departments-unlimited-data-during-calif-wildfire/

この事実は、アメリカで議論の的となっている「ネットワーク中立性」に関するルールを復活させるための訴訟の中で提出された証拠書類の中で明らかにされたもの。カリフォルニア州サンタクララ郡の消防長をつとめるアンソニー・ボウデン氏は書類の中で「郡消防局はインターネットプロバイダであるベライゾンによる通信速度制限を経験した。この制限は、我々が緊急時活動を提供する能力に明確なインパクトを与えるものである。ベライゾンは速度制限を実施することにより郡消防局による緊急対応および重要な緊急活動が支障を受けることを知らされておきながら、これらの制限を実施した」と述べています。

この訴訟は、22人の各州知事、コロンビア特別区、サンタクララ郡、サンタクララ郡中央防火区、およびカリフォルニア州公共事業委員会が2018年4月23日に廃止された「ネットワーク中立性」のルールを復活させるべく起こしたもので、ボウデン氏が明かした事実は提出書類の末尾に添えられる補遺の中に記されていたものです。

ボウデン氏はその中でさらに、大規模火災などの現場ではインターネットが必要不可欠なツールとなってきており、特に何千人という隊員や大量の消防車両、航空機、ブルドーザーなどの建機が投入される現場において欠かせないものになってきていると主張。郡消防局とベライゾンの間でかわされたメールの記録には、消防局がベライゾンに対して制限解除のための費用を支払ったにもかかわらず、さらに追加の費用を払うまでベライゾンが制限解除に応じなかった状況が記されているとのことです。

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その影響を最も大きく受けたのが、消防局が運用している車両「OES 5262」です。この車両には通信設備が搭載されており、ベライゾンのSIMカードを使ってデータ通信を行うことで必要な情報や指示をやり取りできるようになっています。しかし、2018年8月に発生したカリフォルニア州史上最大の山火事の消火に出動した際、OES 5262の通信速度はベライゾンによって制限されている状態となっており、通常の200分の1にまで低下していたとのこと。この制限によりOES 5262の活動は大きく制限を受けたため、消防局のITスタッフがベライゾンに制限解除を打診したものの、ベライゾンはそれに即座には応じませんでした。

ボウデン氏によると、その際にベライゾンは速度制限がかかっていることを確認したものの、その制限をすぐには解除せず、かわりに料金が2倍以上となる別のデータプランに切り替えるように促し、追加の料金が支払われるまでは制限解除に応じられないと返答したとのこと。データ通信が使えないと活動ができなかったことから、消防局の職員は私物のデータ通信デバイス使って車両の通信を復活させる対処をとったそうです。

ベライゾンはこの一件に対し、データプランの契約状況に関わらず、緊急時には制限を解除することもあるとしており、今回の大規模災害の場合ではデータ制限を解除すべきだったとArs Technicaの取材に対して回答を寄せています。その上でベライゾンは、消防局が結んでいた契約は制限量に達すると通信速度が低下するプランだったことを明らかにした上で、消防局との間で用語に関するコミュニケーションに「間違いを犯していた」と述べています。

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ベライゾンはネットワーク中立性のルールが廃止された直後の2018年6月29日に、今後は速度制限の措置がとられるケースがあるということを消防局に伝えていたとのこと。同日、消防局の上位職員のジャスティン・ストックマン氏はベライゾン宛に主要な機器の通信速度が50Mbpsから約30kbpsへと大きく制限されていることを知らせました。

それに対し、ベライゾンの政府担当者であるシラス・バス氏は消防局に対し、それまでの37.99ドル(約4200円)のプランから39.99ドル(約4400円)のプランに乗り換えないと通信速度を復活させられないと回答。さらにバス氏は消防局に対し、月額99.99ドル(約1万1000円)のプランに乗り換える必要があると告げたそうです。

どうやらこの時点でベライゾンと消防局の間で契約プランの内容に関する理解の食い違いが生じていた模様で、消防局は「通信制限はかからないと以前の担当者から聞いている」、ベライゾンは「政府向けの契約プランでも通信制限は存在する」という立場から離れることができないままのやり取りが続けられた模様。そんな中で発生したカリフォルニア州史上最大の山火事の現場で、データ通信速度制限による弊害が改めて浮き彫りとなった一件というわけです。ベライゾンはこの一件とネットワーク中立性の問題には関係はないと述べています。

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in メモ,   モバイル,   ネットサービス, Posted by darkhorse_log

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