サイエンス

電気信号で舌の働きを「ハック」して塩味や酸味を感じさせるお箸と汁椀が開発される


塩分の摂り過ぎは高血圧などの症状を引き起こすことにつながりますが、食べ物に塩を加えるとおいしさがアップするためについ多く使ってしまいがち。そんな問題を解決するかも知れない「お箸」と「みそ汁椀」がシンガポール国立大学で研究を行っていたニメーシャ・ラナシンハ博士によって開発されました。

Augmented Flavours: Modulation of Flavour Experiences Through Electric Taste Augmentation - ScienceDirect
https://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S0963996918303983

Hacking the Flavor of Food With Electric Chopsticks - IEEE Spectrum
https://spectrum.ieee.org/the-human-os/biomedical/devices/hacking-the-flavor-of-food-with-electric-chopsticks-and-soup-bowls

ラナシンハ博士が開発したのは、電極から信号を送ることで舌の味蕾(みらい)を刺激して擬似的に味を感じさせるという装置です。箸とお椀の2タイプが作られており、いずれも舌に接する部分に電極が内蔵されています。


箸タイプの装置は、箸の「頭」にあたる部分にマイコン「Arduino」を内蔵するコントロールユニットが取り付けられており、内部で作り出された信号が箸を経由して舌の器官を刺激するように作られています。本体にはリチウムイオンバッテリーを内蔵するため、使用時に外部装置に接続しなくても済むようになっています。


実際に使っているイメージはこんな感じ。いかにも重そうな装置が箸頭に鎮座しているので、少し食べにくそうな感じがしないでもありませんが、今後さらに開発が進めば、装置を箸本体に内蔵してしまうなどの改良が加えられることも考えられそう。


お椀タイプの装置を使っている様子はこんな感じ。お椀の台「高台」の下にコントロールユニットが取り付けられ、電極に信号が送られるようになっています。お汁を飲む時に電極に舌を接触させなくてはいけないので、日本の食事マナー基準で考えると少しお行儀が悪く感じてしまいそうではあります。ちなみに、この写真のモデルになっているのがラナシンハ博士本人だとのこと。


ラナシンハ博士は、人間の味蕾を刺激することで擬似的に味を感じさせる研究を行ってきた人物です。研究の中では「苦み」と「酸味」「塩味」を効率的に再現することができたそうですが、「甘み」と第5の味覚とも呼ばれる「うまみ」の2つは再現が難しかったそうです。

これらの装置で難しいのは、「舌に電極を接触させること」にあるとラナシンハ博士は語ります。実際にお箸を使ってものを食べる時のことを想像してみると実感できますが、食べ物を口に運んだ時に実際にお箸が舌に触れることはほとんどありません。そこでラナシンハ博士は、実験に使う食べ物として「マッシュポテト」を選びました。ご飯や野菜などの食べ物とは違い、マッシュポテトのような食べ物は箸に食材が付着するため、人は唇と舌を使って残留物を拭い取ろうとします。この動きを利用することで、電極をうまく舌に接触させようとしたというわけです。

実際にマッシュポテトを使った実験では、塩分を加えたマッシュポテトと塩分抜きのマッシュポテトを用意して被験者に食べさせてみたとのこと。すると、塩分を含まないマッシュポテトでも、舌に電気信号を与えることで塩分と酸味を感じながら食べさせることができたそうです。

味の世界に革命を起こすかも知れないこの装置ですが、実はラナシンハ博士がシンガポール国立大学を離れ、アメリカのメーン大学のMultisensory Interactive Media Labに移籍したために研究はストップしている状態にあります。ラナシンハ博士によると現段階の技術はまだまだ最初の段階にあり、まだまだ進化させるべき余地は残されているとのこと。ラナシンハ博士はテレビの進化になぞらえて「これは、1950年代のテレビとよく似た状況であるといえます」と述べています。今はまだ粒子が粗い白黒映像のような段階ですが、今後さらに研究が進むと、白黒映像がカラー映像のように鮮やかになり、さらにはハイビジョンや4Kといった画質にテレビが進化したように、「バーチャル味覚」もリアルさを増していく可能性があるようです。

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in サイエンス,   , Posted by logx_tm