生き物

伝染病を媒介する蚊の生殖能力を奪うことで個体数を80%以上も減少させる実験に成功



オーストラリア連邦科学産業研究機構(CSIRO)は、デング熱ジカ熱チクングニア熱などの媒介者として知られるネッタイシマカのオスの生殖能力を人為的に喪失させ放出する実験を行い、実験地区内の個体数が80%以上も減らすことに成功したと報告しています。

Trial wipes out more than 80 per cent of disease-spreading mozzie - CSIRO
https://www.csiro.au/en/News/News-releases/2018/Trial-wipes-out-more-than-80-per-cent-of-disease-spreading-mozzie


CSIROの衛生・生物安全局長であるロブ・グレンフェル氏によると、世界中の感染症の伝染のおよそ17%がネッタイシマカ・ハマダラカイエカによるものだとのこと。特に、全世界の熱帯・亜熱帯地域に分布するネッタイシマカはデングウイルスやジカウイルスを媒介する種として有名です。都市化が進んで気温が上昇すると、ネッタイシマカの活動範囲が広がり、都市圏でのデング熱・ジカ熱などの感染率が上昇すると予想されるため、ネッタイシマカは今や世界で最も危険な蚊だとグレンフェル氏は論じています。


CSIROは、ジェームズクック大学と、Googleと同じくAlphabetを母体企業に持つVerily Life Sciencesと協力し、ネッタイシマカに対抗する手段を研究していました。

ジェームズクック大学では、今回の実験のためにネッタイシマカのオスを約2000万匹に至るまで繁殖し、より分けたオスにボルバキアという細胞内共生細菌を寄生させました。そして2017年11月から2018年6月まで、繁殖させたオスをクイーンズランド州北部にあるイニスフェール近郊の実験地区に放ちました。その結果、実験地区でのネッタイシマカの個体数が80%以上減少した様子が確認されました。

ミトコンドリアのように細胞内共生を行うボルバキアは、共生する昆虫の生殖能力を操作することで知られていて、ボルバキアに感染したオスと感染していないメスが交配すると「細胞質不和合」と呼ばれる現象を引き起こします。細胞質不和合が起こると、受精後の胚の発生初期に異常が発生して致死となり、卵はふ化しません。新しい個体が生まれないため、必然的に共生主の個体数が減るというわけです。ジェームズクック大学のカイラン・ストーントン博士によると、ネッタイシマカの性別を迅速かつ正確に判別し、オスだけを選別、さらにボルバキアを寄生させる技術はVerily Life Scienceから提供されたそうです。

by Scott O'Neill

Verily Life Scienceは2017年にアメリカ・カリフォルニア州のフレズノでボルバキアに感染させたネッタイシマカを放出することでデング熱やジカ熱の感染を抑える実験を行っていました。今回のイニスフェールでの実験はVerilyによる積極的な技術提供によって成功したといっても過言ではなく、ストーントン博士はVerily Life Scienceとイニスフェールの住民に対して謝意を述べています。

Verily Life Scienceのプロダクトマネージャーを務めるナイジェル・スノード氏は「人を刺す危険なネッタイシマカのメスをかなり減らすことができ、とてもうれしく思っています。ネッタイシマカが生息する熱帯の環境においても私たちが培ってきたアプローチが通用するかを調査し、実際に危険な蚊を駆除できる新しい技術を開発することができました」と語っています。

CSIROのCEOであるラリー・マーシャル博士は「私たちの研究によって、オーストラリアは地球上で最も衛生的な国の1つになるという目標を達成することができました。Verily Life Scienceのような協賛企業が、CSIROが構築してきた第一線の衛生技術を利用することで、私たちは世界が抱える難題に科学で取り組むことができるのです」とコメントしています。

なお、今回のオーストラリアでの実験で放出されたのは人間を刺さないオスの蚊でしたが、ボルバキアに感染した蚊はデング熱やジカ熱の伝染能力がきわめて低くなることも判明しており、ブラジルではボルバキアを感染させたネッタイシマカを放出することでデング熱の感染・症状を抑える試みが2014年に行われています。

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in サイエンス,   生き物, Posted by log1i_yk