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中国で常態化する長時間勤務「996」の実態とは?


日本の企業で長時間の残業など異常ともいえる勤務実態が判明し、女性社員が過労自殺に追い込まれた事件があったのと同じように、中国ではハイテク企業を中心に「朝9時から夜9時」「週6日勤務」の「996」と呼ばれる就業実態が常態化しており、社会問題となっています。イギリスのBBCは実際にこのような勤務体系で働く中国人労働者に話を聞き、996勤務の実態に迫っています。

BBC - Capital - Young Chinese are sick of working long hours
http://www.bbc.com/capital/story/20180508-young-chinese-are-sick-of-working-overtime

上海の郊外にある電子商取引会社に勤める25歳のリー・ジーペンさんは、朝9時から勤務を開始し、夜8時に退勤するという生活を週6日行っています。リーさんは午後8時に退勤できているものの、中国で職に就く若い労働者の多くは、朝9時から夜9時までの勤務を週6日続けるという996勤務を行うことが常態化しています。

リーさんは電子商取引会社の平社員として、会社で扱っているオモチャやバックパックの商品説明を行う仕事を担当し、オーストラリアやアメリカ、ヨーロッパなどの海外の顧客に対応する仕事を行っています。海外企業の営業時間に合わせるには、毎日働くのが望ましいと考えた社長は、リーさんに休日なしの勤務を行うことを期待していました。しかし、リーさんは休日なしの勤務を断り、週6日の勤務を行っています。


リーさんの月給は3500元(約6万円)ですが、この金額は上海の郊外でワンベッドルーム(1LDK)を借りるために必要な家賃の半額たらずに相当します。この収入で部屋を借りるのは困難であることから、リーさんは3人のルームメイトと4人で1つの部屋を借りて生活を行っています。

リーさんはランキングで下位に位置する大学の出身で、科学技術ではなく英語を専攻していました。このため、就職活動でも圧倒的に不利な立場となっており、「会社を選べる状況ではありませんでした」と話しています。

996勤務は以前からあったにもかかわらず、近年の若い社員たちが雇用主の提示する勤務形態に逆らえるようになったのには理由があります。リーさんによると「特に1990年代以降に生まれた人が、時間外労働に対して消極的です」と述べています。この1990年代以降に生まれた人々の意識が変化したのは、経済環境の変化に関係していると考えられています。中国国内で年収9000ドル(約100万円)~3万4000ドル(約370万円)に達する中産階級の人口は、2000年時点では中国の都市部に居住する人口のわずか4%相当でしたが、2012年には約70%を占めるようになりました。


この大きな経済環境の変化により、1990年代以降に生まれた人の多くは成人後に、家族からの経済支援を受けられるようになりました。当然、家族からの経済支援だけで都市部で生活するのは困難ではあるものの、彼らは最低限度のお金を確保することができるため、安い給料のために長時間働くことを良しと考える人が減少しました。リーさんもその一人で、上海で最初に就いた会社は、家で寝る以外にプライベートの時間が取れなかったという理由から、入社して20日で退職しました。

このようなケースは一般的なものになってきており、さらに深刻なケースになると、若い従業員が996勤務は違法であるとして会社を訴えることもあります。ただし、中国では996勤務は原則的に違法とされていますが、企業に正当な理由があれば、996勤務を行う特別許可を得ることも可能です。たとえば、パイロットや電車の車掌のような業務であれば、中国の法律で規定された8時間勤務より長時間のシフトを組むことが可能です。

By Matthias Damert

しかし、リーさんが働いているような会社の場合、国に申請しても許可を得ることはできません。弁護士のジャン・シャオリン氏によると「特別許可を得るためには、給与体系も条件の1つとされています。実際、私たちの法律事務所がインタビューした企業の4割以上が、時間外労働の給与体系すらありませんでした」と語っています。

996勤務の登場には歴史的な背景があります。2000年代初頭に中国のハイテク企業が登場したとき、多くの企業は休日なしで働ける従業員を募集していました。たとえば、テクノロジー企業のテンセントも、その企業の1つです。テンセントは残業代を支払わない方針にしたことで人件費を大幅に削減し、大きな利益を上げて世界でも5本の指に入る企業にまで成長しました。そして他の企業も同じように成功するために、テンセントと同じ方針を採用。社員の長時間労働が常態化する文化が根付き「996」という言葉が誕生することになりました。

近年、中国では996勤務について議論が行われるようになり、成長するために何をすべきかを考えていた企業から、従業員にとって過ごしやすい企業へと変化しようとしています。

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in メモ, Posted by darkhorse_log

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