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「レンタル家族サービス」を外国人が体感した感想とは?

by J3SSL33

「結婚式などで数合わせの親戚が欲しい」「家に誰もいない寂しさを紛らわせたい」など、いろいろな事情で「家族」を求める人の要望に応じる「レンタル家族」は日本発祥のサービスです。あまり海外では出会う機会がないようで、作家のエリフ・バチューマン氏が日本を訪れた際、実際にサービスを経験。さらにサービスの創業者や利用者にも話を聞いた内容がThe New Yorkerに掲載されています。

Japan’s Rent-a-Family Industry | The New Yorker
https://www.newyorker.com/magazine/2018/04/30/japans-rent-a-family-industry

・妻と娘をレンタルするニシダ氏
バチューマン氏が話を聞いたサービス利用者の1人が、東京に住むニシダ氏という60代の男性。ケンカが原因で娘が家を出ていき、さらに半年後には妻が亡くなって独りになりました。

ニシダ氏は60代になってもメーカーの営業部で働いていて、飲み会やゴルフなど付き合いのある友人はいたものの、家にいると孤独感を拭えなかったことから、妻と娘をレンタルすることにしたそうです。

最初の機会は3時間の夕食会で、費用は4万3000円でした。ニシダ氏のもとにやってきたレンタル妻は「本当に普通の女性」、レンタル娘は「本物よりファッショナブル」だったとのこと。ニシダ氏が妻の髪型や娘のしぐさを伝えると、2人はその情報通りに演技を行い、夕食会はスムーズに行われました。

by Dean Shareski

その後も継続的にサービスを利用したニシダ氏。時には2人に合鍵を渡して、帰ってきたときに「お帰りなさい」と迎えてもらうこともありました。次第に3人は打ち解け、ニシダ氏は本当の娘のことをポロリと漏らしたそうです。

すると、レンタル娘は「あなたの娘は、自分からは連絡できないと考えていて、連絡が来るのを待っています」とニシダ氏に告げたようです。このアドバイスを受けて、娘と連絡を取ったニシダ氏は「今では娘に合いたいと思っている」と語ったそうですが、この話を聞いたバチューマン氏は「レンタル娘という立場だからこそ聞ける話を聞き出し、一方で本当の娘がどう感じていたかを伝えたレンタル娘は、いったいどういう思いだったのでしょうか?」と、不気味に思ったと記しています。

by spaceglue

・娘のために父親をレンタルするレイコさん
歯科衛生士のレイコさんはシングルマザーとして娘のマナさんを育てています。しかし9年前、マナさんが10歳のとき、父親がいないことを理由としていじめられていて不登校になったため、父親をレンタルするようになりました。

レイコさんは「イナバ」という男性と21歳の時に結婚しましたが、マナさんが生まれるとすぐに離婚しました。レイコさんは「理想の父親」という条件でレンタル父を求め、4人の候補者からもっともいいと思った男性を選び出して、10年にわたって父親を演じてもらっています。

初めて家を訪れたとき、「イナバ」役のレンタル父は「なかなか会いに来られなくてごめん」と声をかけましたが、マナさんは顔を合わせようとしませんでした。しかし、マナさんの部屋に「嵐」のポスターがあったことから、レンタル父が「昼ご飯の後、時間があるから一緒に嵐の映像をYouTubeで見よう」と声をかけ、打ち解けるようになったとのこと。

by Catherine Roy

「イナバ」が来る頻度は月に2回、それぞれ4時間~8時間ほどで、月に2万円~4万円の費用を、レイコさんは倹約して捻出しています。「どうしてイナバさんは夜になると帰ってしまうの?」というマナさんの問いに、レイコさんは新しい家族がいるからと答えているそうです。

「イナバ」が来るようになってから、マナさんは普通の女の子になれたと語ったレイコさん。バチューマンさんが「いつかマナさんに真実を打ち明けるつもりですか?」と聞くと、レイコさんは「絶対にマナには言えません」と答え、「時には私と『イナバさん』が結婚できたらいいなと思うこともあります」と語ったそうです。

by Ron St. Amant

・バチューマン氏の体験
バチューマン氏もレンタル家族がどのようなものなのかを体験するため、「レンタル母」を利用しました。母親との間に通訳を挟むのは不自然なため、キャストには英語のできる人が選ばれました。デパートのカフェでバチューマン氏と会ったレンタル母は小柄な中年女性で、「母親はバチューマン氏が幼いころに諸事情で日本へ引っ越し、会うのは久しぶり」という設定で役割を演じることを2人で決めました。

この設定をふまえてレンタル母から「あなたと最後に会ってから、本当に長い時間がたってしまいました……本当に、長かった」と語りかけられたバチューマン氏は、その柔らかい口調に自分の感情が揺れ動くのを感じたとのこと。さらに娘と一緒にいられなかったことを後悔する「母」を、思わず慰めてしまったそうです。

一連のロールプレイング後、バチューマン氏はレンタル母にも話を聞いています。レンタル母を担当したのは「アイリ」という女性で、父の仕事の都合で幼少期をアメリカとカナダで過ごし、14歳で日本へ戻ってきた帰国子女でした。ただ、英語なまりの日本語をからかわれ、完璧な日本語が話せるようになるまでは決して人前で話さなかったそうです。その後、大手企業に就職したアイリさんは2年前に退職し、レンタル家族サービスで働くようになりました。しかし「いつまでもこの仕事を続けられるわけではない」とも語り、バチューマン氏はひどく罪悪感を覚えたと述べています。

by sammagfunk

・レンタル家族サービスを展開する石井裕一氏
アイリさんが働いているレンタル家族サービス「ファミリーロマンス」を創業したのが石井裕一氏。石井氏が目標とするのは「自分たちのようなサービスを誰も必要としない社会」だとのこと。

石井氏は「ファミリーロマンス」創業以前、モデル・俳優として活動するほか、老人ホームで介護士として働いていた経験もあるそうです。2006年に「はげまし隊」というレンタル家族サービスに登録してキャリアを積み、2009年に独立して「ファミリーロマンス」を創業。フリーの俳優を含む100人以上の従業員が所属するほか、石井氏自身も合計で100人以上の「夫」を演じてきたとのこと。前述のレイコさんがレンタルしていた「イナバ」も、石井氏が演じているものです。

創業当初、石井氏は並行して10人の「夫」を演じましたが、「常に別の人間の人生が肩に乗っている気になってしまう」と感じ、現在では従業員が同時に5つ以上の家族を演じることがないように気を配っているとのこと。

by Spyros Papaspyropoulos

石井氏によれば、レンタル家族サービスで「クライアントがキャストに依存してしまう」というのはよくある事態だとのこと。「レンタル夫」の事例だと、継続的に利用するクライアントのうち、最終的に3~4割の人がレンタル夫に求婚してくるそうです。こうして依存性がみられた場合は、次第に会う回数を減らし、それでもダメなら強制的に契約を打ち切ることになるとのこと。

数多くの「夫」を演じて、何人もの婚約者の両親に会い、花嫁にキスをし、不倫について謝罪し、出産に立ち会った石井氏は「実際の家族ではない、契約に基づくレンタル家族でも、家族の一形態になり得るのです」と語っています。一方で、「女性の理想的なロマンスは男性にとって非常に負担であり、現実世界ではほとんど不可能に近いでしょう」とも述べました。

by Justin Schuck

海外ではあまりみられない「レンタル家族」が日本で広がる理由について、バチューマン氏は、もともと日本に「家」を存続させることに重きを置いた価値観があり、家が断絶するよりも、血のつながりがない義理の息子を迎えて家を継がせるという考え方があったことを指摘しています。

バチューマン氏は自らサービスを体験してみて、「家族愛は『お金で買うことのできない愛』といわれますが、家族というだけで無償で働くことを強制されるより、『正当な報酬を受け取って家族としての愛を与えるという方が正しい』という考え方も理解できるようになった」と記しています。

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in メモ, Posted by log1h_ik

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