取材

手描きとデジタル作画の差とは?「鋼の錬金術師 FULLMETAL ALCHEMIST」や「灼熱の卓球娘」の入江泰浩監督がお絵かきしながら熱弁


ACTFとは「アニメーション・クリエイティブ・テクノロジー・フォーラム」の略で、日本アニメーター・演出協会(JAniCA)が「Wacom Cintiq Pro 24」などの液晶ペンタブレットを販売するワコムおよび、「CLIP STUDIO」などのペイントツールを提供するセルシスと協力し、アニメーションにおけるデジタル制作技術の共有を目指す取り組みを行うものです。そんなACTFがマチ★アソビ vol.20の中で、手描きの作画とデジタル作画では何がどのように違ってくるのかを解き明かすためのイベントを開催してくれました。

ACTFマチアソビ出張講座 - マチ★アソビ
http://www.machiasobi.com/events/actf.html

イベントの司会進行はJAniCAの大坪英之さん(奥)が担当し、ゲストは「灼熱の卓球娘」や「鋼の錬金術師 FULLMETAL ALCHEMIST」で監督を務めた入江泰浩さん(手前)です。


イベント開始前から司会の大坪さんと入江さんは雑談形式でディスカッションをスタートさせており、「アニメーションにおいてキャラクターを描く時に注目する部分はどこ?」という問いかけに、成人男性は特徴ができあがっているので描きやすいけど、子どもは全体的に似通ったイラストになってしまって描きづらい、という意外な回答が飛び出していました。

そんなこんなの雑談タイムが終了して、さっそくACTFマチ★アソビ出張講座がスタート。アニメ業界でデジタル作画がどのように使われているのかや、デジタルの利点・欠点などについて語る1時間のイベントです。まず最初は「半年ぶりのマチ★アソビはどう?」というライトな話題から。

13時の飛行機で東京から徳島までやって来て、まだお昼を食べたくらいで特に何もしていないという入江さん。自分の近況やお昼に食べたご飯について簡単に話をしながら、手元にある液タブの「Wacom MobileStudio Pro 16」でスラスタと話している内容に登場するご飯などを描いていました。さすがアニメーター。


今回はデジタル作画と手描き作画の違いについて追及する会ということで、入江さんがいつ頃から鉛筆での作画からデジタル作画に以降していったかについても語られました。入江さんは18歳で高校を卒業した際にアニメ制作会社に入社したそうで、当時はもちろんのこと鉛筆を使った手描きの作画を行っていたそうです。もちろん現在でも鉛筆を使うケースはあるそうですが、最近は仕事の内容が「絵コンテを描く」というものが多くなっており、デジタルで絵を描くことが多くなっていることを明かしています。入江さんが監督を務めた「灼熱の卓球娘」の前までは、紙と鉛筆を使って手描きで絵コンテを作成していたとのこと。

絵コンテはA4サイズの紙にコマとメモ欄があります。アニメ制作会社によってフォーマットは違うそうですが、紙のサイズはA4で同じだそうです。劇場版作品でもTVシリーズと同じ16:9のアニメならば同じA4サイズの絵コンテ用紙を使用するそうです。ただし、シネマスコープのような縦横比が異なるものの場合は通常とは異なるフォーマットの絵コンテ用紙が用意されている場合もあるそうです。また、昔は画角が4:3だったので1コマ1コマが縦長でメモ欄部分が大きかったとのこと。


デジタルで作成した絵コンテは、プリントアウトして提出する際に各社の絵コンテフォーマットに合わせるそうで、フォーマットが違うから描き方が異なってくるということはないそう。また、手描きだろうとデジタルだろうと絵コンテを描く際は「やることに違いはない」とのこと。なお、入江さんに「現場ではデジタルと手描きどちらの方が多いか?」という質問が投げかけられたところ、「自分は完全デジタルだけど、まだ紙に描いている人の方が多い」という回答でした。

デジタルで作成した絵コンテはプリントアウトするそうで、JPEG画像120枚くらいになるそうです。


続いて「デジタル作画に切り替えようと思ったタイミング」についてのトーク。紙と鉛筆を使った手描き作画だとペンと消しゴムを持ち替えたり、消しゴム使用時にのカスが出たりという問題があります。他にも、連続するコマでほとんど同じ構図のキャラクターなどが出てくる場合、もう一度同じ絵を描く必要があるなど、手描きには「デジタルだと省略できる無駄が多い」そうです。例えばデジタルなら、消しゴムを使ってもカスが出ず、同じ構図で表情だけが異なるシーンなどでは丸ごとコピペして表情だけ描き変えることができ、単純に効率が上がります。

「消しゴムのカスってどれくらいでるの?」という質問に対しては、入江さんの場合は筆圧が高めなため、大量に消しゴムを消費してしまい「余計に煩わしく感じてしまうのかも」としていました。また、手描きの場合、鉛筆から消しゴムに持ちかえる際に一息ついてしまい作業が途切れてしまう場合があるそうなのですが、デジタルならばペンを持ち替える必要がなく、ショートカットなどで一瞬でペンと消しゴムを切り替えられるので、単純に作業を中断させずに集中力を持続することが可能になるとのこと。1日の作業量は紙だろうがデジタルだろうが同じですが、デジタル作画に移行したことで作業効率が上がり、作業時間は短くなったと明かしてくれました。


手描き作画だと紙のどの部分に絵を描くかが決まっています。しかし、デジタル作画の場合は画面を拡大できるので、小さな絵でもしっかり描き込みが可能となります。それではデジタルの場合、どれくらい描き込みが行われるのかというと、入江さんは「確かにデジタルだと描き込める」と認めつつ、いくら小さなスペースに描き込んでも原画になると小さすぎて飛んでしまうため、絵コンテの枠が画面一杯になるほど拡大して描き込むことはない、と明かしています。絵コンテだけでなく、原画にしてもデジタルで画面を拡大しまくって詳細に描き込みまくっていると、いつまでたっても絵が描き上がらないため、拡大しても実寸(絵コンテならA4サイズの紙)までにするようにしているそうです。


続いて、「デジタル作画だからこそクオリティが上がるだとか、表現の幅が広がるだとかはあるのか?」という質問。入江さんはあくまでも「自分的にはだけど」と前置きしつつ、絵コンテにおいてはデジタルだろうが紙だろうがクオリティに差が出ることはないとしています。入江さんは頭を悩ませて手描き作画の良い点を挙げようとしていましたが、「正直もう紙の利点が思い付かない」というくらいデジタル作画が肌に合っていることも明かしています。


3DCGの制作などではインターネット上にマニュアルなどが複数存在しますが、デジタル作画ではそういったマニュアル的なものは存在するのでしょうか。入江さんはデジタル作画向けのオススメ教本として「ショートアニメーション メイキング講座 ~吉邉尚希 works by CLIP STUDIO PAINT PRO/EX」を挙げていました。これを一部抜粋して薄い冊子にしたものが参加者全員に無料配布されており、CLIP STUDIO PAINTを使ってアニメーションを作る場合に使える機能などが細かく紹介されています。この冊子は「アニメーションを描ける人がアニメーション制作者向けに書いたもの」であり、アニメーターがデジタルツールを使う方法を学ぶためのマニュアルとして最適と言われていました。


その他、絵の描き方などについては、アニメ私塾の室井さんのTwitterが「わかりやすい」としていました。


続いて、イラストは1枚の絵なので何となく良し悪しはわかりやすいものの、アニメは動きなのでその動きを良い悪いと批評するのは難しい、と大坪さんがポツリとこぼします。これには入江さんも「言語化するのは難しい」としつつ、業界内でよく言われる表現としては「気持ち良い動きかどうか」というものがあると教えてくれました。そしてその「気持ち良い動き」をどのようにして学ぶのかというと、これまでの仕事の中で例えば「作画監督からされた動きの修正」などを参考に、仕事の中で「こう直せばいいんだ」というノウハウを吸収しながら覚えていったと話してくれました。

さらに、ひとつの作品の中で吸収した「気持ち良い動き」について、作品が変わったり表現方法が変わったりすることで、「気持ち良い動きの定義」が変わることはないのか?という質問が飛び出します。端から聞いていると確かに演出を行う側次第で「気持ち良い動きの定義」は大きく変わりそうと思わされすが、入江さんはハッキリ「いいえ」と答えており、素体で動きを決めてしまえば、頭身などが変わっても動きは大きく変わらないように、「気持ち良い動きの定義」が基本的には共通であらゆる場面で通じるものであるとしています。


教わったり覚えたりした「気持ち良い動き」は他の作品でもいかせるということなので、自分が面白いと感じた動きなどを忘れないようにしておく、自分のものにしておくことが重要というわけ。この話を聞いた大坪さんは、「入江さんの話を聞くと、デジタル作画はあくまでも作画をする際のツールのひとつというだけであることがよく伝わってくる」と語っていました。デジタルに移行することで仕事のクオリティが劇的に上がるなどではなく、あくまでもアニメーターとしての自分の力を最も効率良く発揮できるのがデジタルである、というのが入江さんのスタンスのようです。

ただし、人によっては「Hの鉛筆だと微妙でHBだといい手の動き、気持ち良さになる」という部分まで突き詰めて把握している手描き作画の人もいるそう。「こう描いた時のこの手の動き」「線の入りと抜きが……」といった部分まで突き詰めてしまった人の場合、デジタル作画ではどこまでいっても描きごたえに違和感を感じてしまうかもしれないため、今のところ「デジタルで描いて」と強制することは非常に酷なことかもしれないとも。

現在のアニメ業界では以前よりも原画段階で独特の線の風合いなどを求められるケースは少なくなっているそう。かつてはそういったニュアンスも含めて表現するのが原画の仕事だったそうで、「線の濃淡のニュアンスが違うから描き直し」というケースもあったそうです。今でもそういった部分を突き詰める人もいるそうですが、確実に少なくなっているとのこと。

入江さんの場合、最近の仕事はもっぱら絵コンテを描くことだそうです。絵コンテは「動き」や「動きのラフ」などを作成することが仕事となるので、原画などの他の仕事よりも微妙な線のニュアンスなどを求められるような繊細な作業が少ないので、雑な言い方をすると「絵コンテは大ざっぱな仕事だからデジタルを導入しやすい」とも言えるとしています。


アニメ業界とデジタル作画についての未来については、入江さんは将来的にデジタル作画と手描き作画が両極化していくのではと考えているそうで、手描きの「鉛筆の味」というものが表現方法として残っていくのではと考えている模様。「鉛筆の良さを残したアニメ」と「デジタルで無駄を省いたアニメ」という風に二極化していくとのでは、ということです。

また、ニンテンドー3DSの「うごくメモ帳 3D」のように簡単にパラパラ漫画が描けるソフトなどの登場により、アニメーション制作にこれまでよりも多くの人が興味を示すようになり、その結果CLIP STUDIOのようなソフトを使ってアニメを作る人も増えてくるのではないかと指摘。CLIP STUDIOで1、2秒のアニメを描いて投稿、というのは記事作成時点でも比較的簡単にできるので、楽しんでチャレンジして欲しいとのことです。

なお、最後に来場者から投げかけられた「アニメの動きなどを勉強するのにオススメのアニメは?」という質問に対して、入江さんは1998年公開の「プリンス・オブ・エジプト」を挙げていたので、「気持ち良い動き」を学んでみたいという人はチェックしてみてください。

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in 取材,   アニメ, Posted by logu_ii