ネットサービス

著作権フリーの文学作品を無料公開する「プロジェクト・グーテンベルク」がドイツからの閲覧を一部禁止される


著者の死後から一定期間が経過したことでアメリカにおける著作権が消滅した文学作品を電子化し、インターネットで公開する「プロジェクト・グーテンベルク」がドイツ国内の権利者から訴えられ、裁判の結果ドイツからのアクセスを遮断する処置を取ることを命じられました。その背景には、世界各国で異なる著作権の保護期間にまつわる問題が存在しています。

Court Order to Block Access from Germany
https://cand.pglaf.org/germany/index.html

ドイツの都市フランクフルト・アム・マインの地方裁判所で2018年2月28日、プロジェクト・グーテンベルクを運営する団体「Project Gutenberg Literary Archive Foundation」(PGLAF)に対して、プロジェクト・グーテンベルクで公開されている18件のドイツ語で書かれた作品の公開を停止し、最高で25万ユーロ(約3300万円)の罰金などを支払うことを命じる判決が下されました。この判決に対してPGLAFは決定を受け入れ、求められた措置を実施することを発表しています。


この訴えは、2015年12月30日にドイツの文芸出版社であるS. Fischer Verlag, GmbH(フィッシャー)が原告となり、PGLAFとそのCEOであるグレッグ・ニュービー氏を相手に起こしていたもの。訴えの中で原告は、プロジェクト・グーテンベルクがドイツ国内の著作権法で保護されている18編の文芸作品をインターネット上で公開し、ドイツからアクセスできる状態にしていることで損害を受けたとしていました。

1971年に当時イリノイ大学の学生だったマイケル・S・ハート氏によって創始されたプロジェクト・グーテンベルクは、アメリカの著作権法において著作権が消滅した作品を文字起こしすることで電子データ化して無償で公開するというもので、いわば「電子図書館」にあたるサービスといえるもの。ハート氏はイリノイ大学の材料研究所にあった大型汎用コンピュータ「Xerox Sigma V」にアクセスする権利を得ており、当時は非常に高価でなかなか触れることができなかったコンピューターへのアクセスを許されたことに対する「お返し」として、このプロジェクトを始めたとのこと。

以下の写真に写っているのがハート氏(左)とニュービー氏(右)。ハート氏は2011年に64歳で死去しています。

By "Marcello"

このコンピュータは、のちにインターネットに発展するコンピュータネットワークの15個のノードの一つであり、「コンピュータが一般人にも扱えるようになる時代がくる」と信じていたハート氏は、文学作品を電子的な形で自由に利用できるようにしようと決意。たまたまハート氏のカバンの中にはアメリカ独立宣言の冊子があったので、これがプロジェクト・グーテンベルクの最初の電子テキストになりました。なお、「プロジェクト・グーテンベルク」という名前は、15世紀に印刷革命を起こしたドイツ人、ヨハネス・グーテンベルクから取られたもので、ハート氏が名付けています。

プロジェクトが始まった頃は、冊子に記された文字を手打ちでテキストデータ化して公開するという作業が行われていましたが、後にOCR技術などの発達によりかなりの作業が機械化されています。2018年3月時点の所蔵数はおよそ5万6000点にのぼり、その中には赤毛のアンあしながおじさんオズの魔法使い海底2万マイルロビンソン・クルーソーの冒険アルプスの少女ハイジなどの名作の数々も含まれています。その多くは文字コードがUS-ASCIIのプレーンテキストが用いられますが、中にはHTML形式やPDF形式、EPUB形式やAmazon Kindleで読むことができるmobi形式のものも入手可能になっています。

今回の判決では、原告側の訴えがほぼ全面的に認められる内容が示されており、PGLAFもすでにその訴えを受け入れる意向を示しています。ドイツ向けに公開を禁止されたのは、ドイツの作家であるハインリヒ・マンとその弟で小説家のドイツの小説家トーマス・マン、そして同じくドイツの小説家であるアルフレート・デーブリーンらが発表した18作品。ただし、PGLAFのサーバーからデータが削除されるということではなく、あくまで「ドイツからのアクセスを禁止する」というものであるため、ドイツ以外の国からアクセスした場合は従来通り閲覧できる状態になっているとのことです。

判決文と判決文の英訳のPDFファイルは、以下の画像をクリックすると閲覧できます。

(PDFファイル)Im Namen des Volkes Urteil(ドイツ語の原本)



(PDFファイル)In the Name of the People Judgment(英語訳)


なお、ドイツからのアクセスが禁止された作品は、以下のとおりとなっています。

◆ハインリヒ・マン(1950年没)
Flöten und Dolche
(1905年刊:1961年アメリカ国内でパブリックドメイン化:2010年2月8日電子版公開)

Flaubert und die Herkunft des modernen Romans
(1917年刊:1973年アメリカ国内でパブリックドメイン化:2010年8月2日電子版公開)

Der Vater
(1917年刊:1973年アメリカ国内でパブリックドメイン化:2010年8月2日電子版公開)

Professor Unrat, oder, Das Ende eines Tyrannen(邦題『ウンラート教授』)
(1906年刊:1962年アメリカ国内でパブリックドメイン化:2011年2月13日電子版公開)

Der Untertan(邦題『臣民』・「帝国」三部作)
(1918年刊:1974年アメリカ国内でパブリックドメイン化:2011年11月4日電子版公開)

Die Ehrgeizige: Novelle
(1920年刊:1976年アメリカ国内でパブリックドメイン化:2013年7月28日電子版公開)

◆トーマス・マン(1955年没)
Gladius Dei; Schwere Stunde(邦題『神の剣』)
(1903年刊:1959 年アメリカ国内でパブリックドメイン化:2004年4月15日電子版公開)

Der Tod in Venedig(邦題『ヴェニスに死す』)
(1912年刊:1968年アメリカ国内でパブリックドメイン化:2004年4月22日電子版公開)

Tristan(邦題『トリスタン』)
(1903年刊:1959年アメリカ国内でパブリックドメイン化:2004年10月20日電子版公開)

Tonio Kröger(邦題『トーニオ・クレーガー』)
Tonio Kröger(2度めの電子版公開)
(1903年刊:1959年アメリカ国内でパブリックドメイン化:2007年11月6日および2012年1月27日電子版公開)

Buddenbrooks: Verfall einer Familie(邦題『ブッデンブローク家の人々』)
(1901年刊:1957年アメリカ国内でパブリックドメイン化:2011年1月1日電子版公開)

Königliche Hoheit: Roman(邦題『大公殿下』)
(1901年刊:1965年アメリカ国内でパブリックドメイン化:2011年3月6日電子版公開)

Der kleine Herr Friedemann: Novellen(邦題『小フリーデマン氏』)
(1897年刊:1953年アメリカ国内でパブリックドメイン化:2011年7月17日電子版公開)

◆アルフレート・デーブリーン(1957年没)

Die Ermordung einer Butterblume und andere Erzählungen(邦題『たんぽぽ殺し』)
(1913年刊:1969年アメリカ国内でパブリックドメイン化:2010年3月16日電子版公開)

Die Lobensteiner reisen nach Böhmen: Zwölf Novellen und Geschichten
(1917年刊:1973年アメリカ国内でパブリックドメイン化:2011年7月20日電子版公開)

Wallenstein. 1 (of 2)(邦題『ヴァレンシュタイン』1/2)
(1920年刊:1976年アメリカ国内でパブリックドメイン化:2013年10月11日電子版公開)

Wallenstein. 2 (of 2)(邦題『ヴァレンシュタイン』2/2)
(1920年刊:1976年アメリカ国内でパブリックドメイン化:2013年10月11日電子版公開)

Die drei Sprünge des Wang-lun: Chinesischer Roman(邦題『王倫の三跳躍』)
(1916年刊:1972年アメリカ国内でパブリックドメイン化:2013年10月21日電子版公開)

この記事のタイトルとURLをコピーする

・関連記事
「アンネの日記」が著作権切れで無料公開へ、アンネ・フランク財団は「法的措置を取る」と警告 - GIGAZINE

著作権侵害申し立てを受け「アンネの日記」がWikisourceから削除される - GIGAZINE

「ハッピーバースデートゥーユー」がアメリカの映画やテレビドラマであまり歌われていない理由 - GIGAZINE

「ハッピーバースデートゥーユー」の歌の著作権はワーナーに帰属しないとの判決が下る - GIGAZINE

「ミッキーマウス」の著作権を守るため、これまでどのような著作権法の変更が行われてきたのか? - GIGAZINE

国会図書館のデジタルアーカイブから電子書籍を制作・配信する実験を実施 - GIGAZINE

大英図書館が100万点以上の画像をFlickrで公開、誰でも無料で利用可能に - GIGAZINE

in ネットサービス, Posted by darkhorse_log

You can read the machine translated English article here.