サイエンス

心が満たされることで病が回復に向かう現象「healing(癒やし)」とは一体何を指し示すのか?

By wader

病を負った患者が前向きな心持ちを持つことで体が回復する現象は、一部の人から「healing(癒やし)」と呼ばれています。この現象による回復の度合いには幅があり、また発生する引き金はいくつもあることから、科学的な研究が進んでいません。そんな不思議な現象を患者たちと介抱する家族のために調べようとした人物のエピソードを、アメリカの科学系メディアScientific Americanが紹介しています。

Measuring the Magic of Healing - Scientific American Blog Network
https://blogs.scientificamerican.com/observations/measuring-the-magic-of-healing/

アメリカ・ミネアポリスに住む47歳の男性マイケル・ビショフさんは、脳のがんである脳腫瘍で「余命18カ月」という診断を受けました。しかし、その診断から3年がたった今でも病気に立ち向かい続け、病状は改善に向かっています。家族を持つ夫であり、子どもの父親であるビショフさんは、病気が治り、より長く生きることを願っています。


ビショフさんが患っている病気は、アメリカの上院議員であるジョン・マケイン共和党議員が病状を発表して話題になったものと同じ「多形性膠芽腫」(グリオブラストーマ)で、その病状の進行には手の施しようがほとんどありません。ビショフさんはいま、あらゆる瞬間において健康であることに意識を向けており、「ヒーリング」(癒やされること)に重きを置くようになりました。

ビショフさんは、手術や化学療法、放射線治療などの治療法と同じぐらい、「ミシシッピ川のほとりに腰掛けること」や「いろいろな天候の時に自転車に乗ること」「家族と一緒にソファーに座って時を過ごすこと」などの「自分が愛していること」に自分の気持ちを寄せています。そんなビショフさんは「もし、明日死ぬことになっても、私はいまのこの奇跡的な回復に感謝したいと思います」と語っています。

By Jim Brekke

医療方法を探して続けている家族を支援する非営利団体「CaringBridge」のCEOであるリワナグ・オハラ氏は、患者の体に癒やしが起こるのケースをこれまでにいくつか見てきました。オハラ氏は「私たちのチームは、患者が医師からの宣告や病気、ケガ、早産や想像を絶するあらゆる健康危機に直面した後に、再び家族がひとつになるありとあらゆる状況を目にしてきました」と語ります。

オハラ氏は「患者たちと介抱をしている家族のことをオンラインジャーナルで公開すると、公開した反応により患者が愛されることを支援でき、私たちは『癒やし』が起こると思っています。そして、私たちはこの活動に価値があると信じています。癒やしは健康結果につながるかにかかわらず、残すものと共に、家族を前向きにさせます」と述べています。

しかし癒やしとは正確にはどのようになものでしょうか。オハラ氏ら非営利団体CaringBridgeのメンバーは、この複雑な命題を掘り下げるために、癒やしについての科学の分野の枠組みとビショフさんのようなエピソードを調べて共有しようとしました。しかし、癒やしのトピックに関する実証的な研究はほとんどないことがわかりました。オハラ氏らは、癒やしの解釈についてミネソタ大学メアリー・ジョー・クライッツァー博士と大学のスピリチュアル&ヒーリングセンターのセンター長アール・E・バッケン氏を尋ねました。

By JOHN LLOYD

それに対し、クライッツァー博士は「癒やしに普遍的な定義はありません」と答えたそうです。その理由は、心と精神の修復がどのようになるかを十分に正確に定義できないので、物理的な治療と比較しての研究課題として設定することは困難であるから、というもの。クライッツァー博士は、科学者としてこれは歯がゆいことだと語りました。しかし、クライッツァー博士は看護の面から癒やしを定義すると「体と心、そして精神の統一」と定義しているとのこと。クライッツァー博士によると、広い意味ではこの見解の証拠と言えるものがいくつかあるとのこと。

博士が例に挙げているのは、2017年に公表されたウェイン・ジョナス医学博士の研究で、ケガからの苦痛を癒やしにより取り除くが可能ということを確認たというもの。ジョナス氏の著書「How Healing Works」(癒しの仕組み)では、サミュエル統合統合保健プログラム所属のエグゼクティブ・ディレクターでもあるジョナス氏が癒やしの科学を研究し、癒やしの80パーセントが心身のつながりを通して器官で起こると記されていとクライッツァー博士は述べたとのこと。

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オハラ氏らは、より多くの研究を通して、家族の癒やしが可能になり役立つという期待を胸に、ミネソタ大学の代替療法がない等の状況において患者に未承認薬の使用を認める制度「コンパッショネートテクノロジー」のリサーチに研究協力しました。このリサーチの対象には、同大学のコンピューターサイエンス・エンジニアリング学部、看護学部、そしてスピリチュアル&ヒーリングセンターのデータも加えられました。個人の名前と個人情報を削除した5000万件のオンラインジャーナルの記事からのデータセットの分析を通じて、癒やしの恩恵を受けているという根拠を実証するのが目的です。オハラ氏によると、この行動はアインシュタインの名言「数えられるものすべてが大事なわけではない、また大事なものすべてが数えられるわけではない」というものに沿うような行動とのこと。

ビショフさんの家族のような癒やしについてのエピソードは、非営利団体CaringBridgeのウェブシリーズ「How We Heal(どのように私たちが癒すのか)」に記録されています。以下はその一部を抜粋したものです。

◆2度のオリンピック経験を持つ35歳の夫を亡くした若い女性が、腫瘍学の看護師になりました。この女性は他人を助けることが自分の癒しになると語りました。

◆若い男性がシボレーのピックアップトラックで片田舎を運転中に、心臓発作を起こして死ぬ寸前の状態に陥りました。この男性が言うには、その後は常に気持ちが落ち込まないように心掛けていました。すると、またトラックを運転できるまでに回復しました。医者は男性が全快するとは思ってもいませんでした。

◆乳ガンの治療を受けていた24歳の女性が、勤め先の教会で聴衆が神様だけの状態でピアノで思う存分弾いていると、癒やしと平穏がもたらされました。
この女性は、歌を歌うことと祈りを捧げられることが自身に癒やしと平安を与えると語りました。

◆湾岸戦争を経験した男性は、ガンの一種であるメラノーマを患い、片目の視力を失いました。男性はガレージの後ろの壁に「c-a-n-c-e-r」(ガン)と印をつけ、それを愛用のエアガンで狙いをつけて「お前には負けない。お前をやっつけてやる」と言い撃ち続けました。彼はガンを撃ち殺す行動で彼は癒やされました。

How We Heal: A New Series | CaringBridge


オハラ氏によると、このように一度地獄にたたき落とされながらも再びはい上がってきた患者とその家族が起こしたことは、例え起こりえないと思われていたようなことが、実際に「癒やし」の事例として起こりうることを示しているとのこと。オハラ氏は、「私たちの観察した範囲では、癒やしは誰にとっても違っており、その定義は常に難しいものかもしれません。しかし、そのマジックは考えてみる価値があるので、誰しも癒やしの力が届く場所にいると信じることが必要です」という見解を述べています。

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in サイエンス, Posted by darkhorse_log

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