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スタートアップ企業が陥りがちな「ビッグディールの罠」とは?

by opus moreschi

創設したばかりのスタートアップ企業にとって、特別な技術力や発想力を生かして大企業との取引を行う「ビッグディール」は、一つの大きな通過点として非常に魅力的なもの。場合によっては「事業自体の買収」を持ちかけられるというビッグディールもあり得るわけで、設立当初から大金での事業売却を目的に発足するスタートアップも少なくありません。ところが、「スタートアップ企業に固執しすぎるのも危険だ」と、個人教師の仲介を行うベンチャー企業Tutorspreeの共同創設者であり、スタートアップ企業に対する少額投資を行うベンチャーキャピタルYコンビネータのパートナーでもあるアーロン・ハリス氏が説明しています。

Big Deals
https://blog.ycombinator.com/big-deals/

「スタートアップ企業にとって、『ビッグディール』ほど危険なものはありません。小さな創業間もないスタートアップにおけるビッグディールは、巨大な企業が多くある契約書のうちの一つにサインするのとは違い、その契約がスタートアップの生死に関わります」とハリス氏は述べています。ベンチャー企業に投資を行うYコンビネータとパートナーシップを結ぶハリス氏は、スタートアップがビッグディールに固執するあまりその身を滅ぼす事例を、いくつも見てきたそうです。

ビッグディールはスタートアップの創業者に対し、緊急で対応しなければならない他の問題から逃げる口実となりがちです。「今はとても重大なビッグディールが大詰めだから、他の仕事に構っている暇はない」となってしまうわけです。加えて、肝心の製品開発に遅れが出ている状態を指摘されても、ビッグディールなしでは製品開発をするメリットもないとして、なかなか改善に着手しないとのこと。

また、スタートアップに資金を投資する投資家たちも、スタートアップがビッグディールに固執する要因となっているとハリス氏は指摘します。投資家たちはスタートアップの創業者に対し、「もしビッグディールが成立したら、いくらでもお金は出す」といいます。投資家にはビッグディールが成立するまでの間だ、何もリスクを背負う必要がないのでこのように声をかけるのは当然ですが、このことがスタートアップに「ビッグディールさえ成立すれば全ての問題は解決する」と思わせてしまうのです。

by Elin Schönfelder

ハリス氏が見てきたスタートアップの中で、ユーザーの金融情報にアクセスして分析するアプリ開発を行うスタートアップPlaidの創業者であるザック・ペレット氏の例は、ビッグディールに固執しない好例だとのこと。

ペレット氏は、「スタートアップを成功させるために、最終的には銀行と直接契約を行う必要がある」と確信していたものの、小規模なスタートアップが2年以内に銀行と直接契約を結ぶのは不可能だということもわかっていました。そこで、ペレット氏は銀行と直接契約に向けた話し合いを開始すると同時に、企業が給与を支払うための口座情報を取得するアプリの開発を行い、少しずつ資金を集めてスタートアップを大きくしたとのこと。

Plaidが十分に成長し、資金も調達出来たところで銀行との契約は成立しました。ペレット氏はいきなりビッグディールが成立して事業が軌道に乗ると楽観視せず、まずはスタートアップが存続することを目的として、わずかな資金調達のためにアプリ開発を行ったのです。「ほとんどのスタートアップは最終的なビッグディールのみを見据え、他のことを放棄してしまいますが、ペレット氏の場合は違いました」とハリス氏は語っています。

by Steven Zwerink

将来的なビッグディールを目標にするスタートアップは、わずかな資金調達や事業成長に注力しません。それらの仕事はビッグディールと比べると、相対的に取るに足らないものと感じられてしまうかもしれませんが、企業とは本来少しずつ着実に進歩していくもの。そうして成長を重ねたスタートアップは、自然な流れにのったままビッグディールの契約を成立させられるのです。

ハリス氏が見てきたあるスタートアップは、あと一歩でビッグディールが成立しかけており、取引先が持ち出してくるビッグディールに必要な条件も、一つ一つはそれほど問題に感じられなかったとのこと。果たして交渉開始から1年後、スタートアップはビッグディールに成功しました。ハリス氏ら投資家たちも「これでゴールだ」と思ったそうですが、契約が実行に移されるために必要とされた最後の要件を、そのスタートアップはどうしても達成できなかったのです。

結局スタートアップはビッグディールを成立させたものの、実効に至らないままスタートアップ自体が潰れてしまいました。ハリス氏は「ここに、スタートアップがビッグディールに固執するべきでない大きな理由が見いだせます」と述べています。

by CafeCredit.com

まず1つ目に、「大企業にとってビッグディールはビッグディールでない」という点。創業間もないスタートアップにとっては今後の運命を左右する大きな取引であっても、十分に成長し事業を展開する大企業にとっては、数多くの取引のうちの一つに過ぎません。大企業が話を持ちかけてきたとしても、それは本当にスタートアップの提携や買収を視野に入れているのか、少しスタートアップの事業に興味があるだけなのかわかりません。スタートアップにとってはビッグディールこそが全てかもしれませんが、大企業にとってはそれほど重大事ではないことがほとんどです。

2つ目に、「大企業は取引開始までのプロセスが非常に煩雑で、関係する部署も多い」という点。取引が進展するごとに異なる部門の関係者が増えていき、スタートアップは関係者全員を納得させる必要が出てきます。その過程で非常に多くの仕様上の要求が出され、対応するスタートアップは時間と経費を使い込むことになるのです。大企業は資本も時間もあるので、ビッグディールに時間がかかっても問題ありませんが、通常のスタートアップにはこれを乗り切る体力がありません。

by The Elite Ayrshire Business Circle

ハリス氏は、スタートアップが往々にしてビッグディールに固執して頓挫することを念頭に置くべきだとし、その上でビッグディールを成功させるために必要なポイントを挙げています。

スタートアップがビッグディールを優位に進めるために有効なのは、創業者やメンバー自身のブランドを使うこと。「スタートアップの創業者は、スタートアップの事業の他に大きな強みを持つべきです。創業者自身の実績をもとにビッグディールに際して大企業から数千万、数億ドルの資金を引き出すような創業者はその好例です。創業者自身にそれほどの実績がなく、大企業との交渉を有利に進められないのならば、ビッグディールに固執するべきではありません」とハリス氏は述べています。

ビッグディールは時として創業者自身に「今自分はビッグディールのまっただ中にいるんだ」と誤解させ、スタートアップを潰してしまうことがあります。上手に自分のブランドを理解している創業者は、外部の力に左右されずスタートアップを成長させることが出来ますが、創業者がありもしないファンタジーを追い求めるようになれば、そのスタートアップは終わりが近いということかもしれません。

by Schezar

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