メモ

19世紀末に書かれた暗号とその歴史に関する書物「Cryptography」

by Dennis Amith

「「メッセージを暗号にして他の人間にわからないように伝達する」という方法は非常に古くから存在し、重要な機密を守ったり自分のプライバシーを守ったりする目的で行われてきました。古くは古代ギリシャやスパルタの兵たちが、スキュタレーというバトンに巻かれた暗号を用いて、作戦中の通信を行っていたとのこと。そんな暗号について記された1898年の書物「Cryptography : or, The history, principles, and practice of cipher-writing(暗号:暗号化または歴史・原則・実践)」です。

Cryptography: or the History, Principles, and Practice of Cipher-Writing (1898) – The Public Domain Review
https://publicdomainreview.org/collections/cryptography-or-the-history-principles-and-practice-of-cipher-writing-1898/

「暗号:暗号化または歴史・原則・実践」を記したフレデリック・エドワード・フルメという人物は、19世紀中頃から20世紀初頭の人物で、植物学者として知られた教師でした。フルメは植物に限らず民俗学・歴史など多岐にわたる書物を出版していますが、その中の一つであった「暗号」に関する体系的な書物が「暗号:暗号化または歴史・原則・実践」です。

フルメは暗号に関して「神秘的かつ秘密的だ。意味を解読しようとする鋭い知性を引きつけ、人の心を魅了する」と述べており、暗号に対して強い興味を抱いていた様子。フルメは本の中でいくつかの暗号を紹介していますが、The Public Domain Reviewによれば過去の暗号紹介自体にはさほど大きな価値はないとのこと。それよりもフルメが暗号解読者の視点を持ち、暗号解読について持論を展開している点に注目しています。

by future15pic

フルメは暗号解読において、「特定の暗号文に対応する通常の文が発見されれば、暗号は簡単に解読可能だ」としています。暗号文と一般的な文が対応した例として、本質的に同一の文章がヒエログリフデモティック・ギリシア文字という3種類の言葉で書かれたロゼッタストーンが挙げられます。ロゼッタストーンに書かれた3つの文章が同じ内容を指していると判明したおかげで、ギリシア文字に対応するヒエログリフの解読が成功したのです。

さらに、フルメはアルファベットの文章中に最も多く登場する文字が「e」であることを指摘し、アルファベットを別の文字や記号に置き換えただけの換字式暗号であれば、最も多く現れる記号が「e」の可能性が高いとしています。「e」の位置がわかれば「文章中に何度も登場する繰り返しの3文字『○●e』は『the』ではないか?」といった風に推論を展開でき、同じような手法を用いていくことでいくつかの単語が判明し、芋づる式に全てのアルファベットを解読できるとしています。この方法はシャーロック・ホームズの「踊る人形」にも使われるなど、古典的な換字式暗号の解読法として知られています。

by Ryan Somma

また、フルメは「テキストを隠して伝達する」方法についても解説しています。例えばオレンジとタマネギの汁で作ったジュースで紙に書かれた文字は、何もしなければ読むことができませんが、火であぶると読めるようになります。これは汁に含まれた「酢」の効果によるものですが、厳密に言えば暗号ではありません。しかし、テキストを他の人間の目から隠すという目的は暗号と同様。

さらにトリッキーな通信方法として、フルメは「人間の体を使う」ことを挙げています。かつてギリシャでは奴隷が秘密の通信に使用されましたが、その方法に「奴隷の頭をそり上げて文字を刻み、髪が文字を隠すほど長くなったら通信相手の元に派遣する」というものがありました。通信相手は到着した奴隷の頭をそり上げ、頭皮に刻まれたメッセージを読むというわけ。非常に時間はかかりますが、確かにテキストは隠されたままです。

by Jon Wiley

暗号の歴史には犠牲者が付きものだったと、フルメは述べています。暗号化の方法について記した書物で知られる修道士ヨハンネス・トリテミウスは、「黒魔術の秘法について悪魔と通信している」などと非難され、危うく裁判で処刑されかけました。また、17世紀のイギリスにおいてチャールズ1世ら王党派が使った暗号文は議会派に入手され、議会派の数学者ジョン・ウォリスによって解読されてしまいました。その結果としてチャールズ1世は処刑されてしまったのです。

当時、フルメの本によって暗号化の方法が広まることにより、暗号技術が悪用されるのではないかという懸念が周囲から向けられていたそうです。それに対しフルメは。本の最後で暗号化の技術が悪用される危険性を認めつつ、「暗号を研究することによって、暗号を悪用する者に対抗できる。暗号技術に関する知識が何百人という人、または国家の危機を助けるかもしれない」と述べています。The Public Domain Reviewは、「もしフルメが数十年後にドイツ海軍が使用した換字式暗号エニグマを解読したアラン・チューリングの功績を知っていたら、『何百人』ではなく『何百万人』と書いたでしょう」と記しています。

by RubenJ

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in メモ, Posted by log1h_ik

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