サイエンス

アルツハイマー病に影響するアミロイドβの有益性を突き止めた二人の研究者の奇遇


アルツハイマー病に関係しているアルツハイマー病に関係している「アミロイドβ(アミロイドベータペプチド)」という物質は、これまで、有害以外の何ものでもないと考えられていました。しかし、アメリカの二人の研究者の「奇妙な偶然」から、アミロイドβが脳機能を保護するための重要な役割を担っている可能性が明らかになってきています。

Brain's Ancient Immune System May Play A Role In Alzheimer's : Shots - Health News : NPR
https://www.npr.org/sections/health-shots/2018/02/18/580475245/scientists-explore-ties-between-alzheimers-and-brains-ancient-immune-system

かねてよりアミロイドβ(アミロイドベータペプチド)は、アルツハイマー病に罹患した人の脳に蓄積して大きな斑(プラーク)を作ると脳細胞を死滅させるという有力な仮説があり、「アミロイドβは脳にとって悪い物」というのが医学界の一般的な認識だったそうです。

ハーバード最大の医学研究病院であるマサチューセッツ総合病院の神経科学者のロバート・モイアー氏とルドルフ・タンツィ氏は、2007年のある金曜日の午後の同じ時間帯で休憩を取っていました。モイアー氏は金曜日の午後の1時間ほどを自分の創造的な研究の助けとなるように、さまざまな分野に関する論文を読む時間にあてていたそうです。コロナビールを片手に、その日もオンラインで論文サーフィンをしていたモイアー氏は、「LL-37」として知られる抗菌ペプチドの一つがアルツハイマー病と密接な関係性を持つと知られるアミロイドβと似ているように感じたとのこと。「LL-37とアミロイドβは瓜二つに見えました」とモイアー氏は語ります。


驚くべきことに、同じマサチューセッツ総合病院の別室でコロナビールの2本目をあけつつ休憩していたタンツィ氏も、アルツハイマー病の原因とされるアミロイドβと免疫システムに関係する抗菌ペプチドとの類似性に気付いたそうです。

重要なことに気付いたと感じたタンツィ氏は、同僚のモイアー氏と議論しようとコロナビールを手に持って、モイアー氏の研究室を訪れて「脳の免疫システムについてどう思う?」と尋ねました。まったく同じタイミングでアルツハイマー病に関係するアミロイドβの免疫システムのような働きについて考えていた二人はさっそく議論を始めたとのこと。二人のアイデアは、「アミロイドβが古くから知られる免疫システムに不可欠だとすればどうか?もしも、粘着性のあるアミロイドβのゴミが、外部からの侵入者を封じ込めて脳を守っているとすればどうか?」という、当時の医学的な常識とは異なるものだったそうです。

二人の仮説は、「アミロイドβは、『牡蠣における真珠』のようなもの」というアイデアでした。牡蠣はとりこんだ有害な砂などが細胞に悪さをしないように真珠層と呼ばれる膜でくるみます。これによって体内の異物を炭酸カルシウムでおおって結晶化したものが真珠というわけです。モイアー氏とタンツィ氏は、アミロイドβが脳に侵入してきた異物を無害化するべく包み込み、それがゴミとなって蓄積することで粘着性のあるアミロイド斑と呼ばれるものなり、アルツハイマー病患者の脳にみられるのではないかと考えました。


それまで、「アミロイドβは悪い、悪い、悪い、悪い……悪い物」という考えが支配的で有益な物という発想はなかったとモイアー氏は語ります。これに対して、大量に作られると脳細胞を殺して認知症状を引き起こす可能性があるものの、そうでない限りアミロイドβは体に良いものと二人は考えたそうです。二人のアイデアは当時の医学界の通説と反対の内容だったため、まったく支持されることはなかったとのこと。そこで、モイアー氏とタンツィ氏はアミロイドβが免疫系の一部であることを証明するための研究にとりかかりました。

2010年に二人の研究チームはアミロイドβが試験管内でウイルスや細菌を殺すことを実証するのに成功し、2016年にはワームやマウスでの実証にも成功しました。「マウスに髄膜炎などの脳炎があった場合、アミロイドをもつ個体は長生きしました。対照的にアミロイドを作らなかったマウスは、感染後、すぐに死にました。アミロイドが感染から保護していることは明白でした」とタンツィ氏は述べています。

これらの研究成果のおかげで、現在では免疫システムとアルツハイマーの関係性について多くの科学者が研究をしているそうです。タンツィ氏は、「アルツハイマー病と脳内のプラークには密接な関係性がありますが、それらは脳を守る免疫システムにも見える」と述べています。本来は脳を守るはずの免疫システムがアルツハイマー病などの原因となっているとすれば、そのメカニズムについては、脳に入ってくるウイルスや細菌などに過剰反応している可能性や、システムの混乱によって健康な細胞が攻撃されている可能性があるとモイアー氏は指摘しています。

モイアー氏は「私たちの仮説のいずれかが正しいとすれば、アルツハイマー病を引き起こす前にプロセスを食い止めることができるかもしれません。これは、10年前の『コロナビールでの乾杯』から偶然生まれたにしては、望外の良い結果になるでしょう」と述べています。

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