ハードウェア

1960年代のメインフレームに使用された「カードリーダー」を修復する作業とは?


かつて、コンピューターへデータを入力するときには「パンチカード」が使われていました。これは厚手の紙にキーパンチ機で穴を開け、メインフレームの「カードリーダー」にパンチカードを読み取らせて、コンピューターにデータを入力するというもの。古いコンピューターの修復作業やメンテナンスを行っているケン・シリフさんが、1950年代に開発されたメインフレームIBM 1401に使われていたカードリーダーを修復したときのことをブログに書いています。

Repairing the card reader for a 1960s mainframe: cams, relays and a clutch
http://www.righto.com/2018/02/repairing-card-reader-for-1960s.html

今回修復したカードリーダーは、IBM 1401の付属品としてコンピュータ歴史博物館に所蔵されていたもの。IBM 1401は1960年代に給与計算や在庫管理などの業務を行うために運用されたメインフレームで、1万台以上が生産された人気のメインフレームでした。

データなどの記録はパンチカードに穴開けされて記録され、IBM 1401のカードリーダーは1枚80列のパンチカードを1分間で800枚、つまり1秒間で13枚も読み取ることができたとのこと。「差し込まれたカードに開いた80列の穴を認識し、処理済みのカードを中央のカード置き場に積み重ねる」というプロセスを機械的な仕掛けで行っていたと考えると、内部はかなり複雑な機構になっていると想像できます。カードリーダーは機械的な仕掛けのため、たびたび紙詰まりなどの物理的問題が発生したとのこと。問題が発生したときはエラーランプが点灯し、すぐにエンジニアが復旧作業を行っていたそうです。


これがフロントドアを外した状態の、IBM 1401のカードリーダー・キーパンチ機。右半分がカードリーダーで、左半分がキーパンチ機とのことです。カードリーダーは、データを記録したパンチカードが機械の右側から差し込まれ、カードの穴を読み取る金属のブラシの中を通過して機械の中央まで移動し、最終的には画像の中央にあるカード置き場に落ちるという仕組み。機械の左側はパンチカードに穴を開けるキーパンチ機となっており、左下にあるバケツはキーパンチ機が出したパンチカードのゴミを集めるもの。バケツがパンチカードのゴミでいっぱいになると警告灯が光り、エンジニアがバケツの中身を捨てていたそうです。


コンピュータ歴史博物館に所蔵されていたIBM 1401は、数カ月前からカードリーダーがうまく動作しなくなり、「リーダー停止」を示すランプが点灯し始めたとのこと。製造から50年近くが経過したカードリーダーに不具合が出るのは当然ともいえますが、コンピュータ歴史博物館に勤める人々はその問題を解決しようと試みました。

IBM 1401を担当する職員が実験を繰り返したところ、問題はカードリーダーのプロセスにあると判明。単にカードを読み取らせるだけでは何百枚パンチカードを通しても問題なかったのが、入力したデータを出力する外部装置のラインプリンターでデータを印刷させると、最初の3枚は不具合なく処理できたものの、4枚目で必ず「リーダー停止」のランプが点灯したそうです。

カードリーダーは1分間で800枚のパンチカードを読み取ることが可能ですが、ラインプリンターが印刷できるのは1分間に600本のラインが限界。パンチカードの読み取りとラインプリンタの出力を繰り返すと、カードリーダー側とラインプリンター側でズレが生じてしまいます。そのため、カードリーダーには4枚目のカードを読み取るときに遅延が発生するシステムが組み込まれていますが、この遅延がエラーを引き起こしていた模様。カードリーダーの機構が「リーダー停止」を点灯させるプロセスを検証した結果、カード読み取りの遅延を発生させるクラッチに問題があることが判明しました。


カードリーダーは1/4馬力の電動モーターで作動し、モーターは歯車・ベルト・ローラー・カムに動力を供給します。このままではカードの読み込みとラインプリンターによる印刷のズレが生じ、問題を発生させてしまいますが、クラッチによって遅延を発生させることで安定して動作が可能。

高速でカードを読み込むカードリーダーにおいて、クラッチは非常に細かいタイミングで切り替わる必要があります。カードリーダーはクラッチが正常に動作することをチェックする機能を持っており、クラッチの動作がカードリーダーの要求を満たしているときのみ、クラッチが動作するようになっています。今回「リーダー停止」のランプが点灯したのは、クラッチ機構の角度に異常が発生したためクラッチがカードリーダーの要求する動作を行えず、停止したものでした。


メンテナンスの時にカードリーダーのクラッチ角度を確認するのは、「ダイナミックタイマー」と呼ばれる機構。これはオシロスコープの一種で、0度~359度の角度にラベル分けされたプラスチックディスクの背後で、クラッチの回転に連動して回転するネオン球が光って角度を表示するもの。エンジニアはディスクにラベリングされた角度を読み取り、クラッチの角度を測定します。

これによりクラッチの角度が正常な場合と比べて、約5度ずれていることが判明。正常に動作するためにはズレが0度~2度に収まっているべきとのことで、修復メンバーはクラッチの角度を修正する作業を開始します。


調べてみると、カムが歯車と固着していることが発覚。湿気のある倉庫に数十年も保管されていたことが原因で、メンバーは慎重にハンマーでカムをたたき、どうにか歯車とカムを剥がすことができました。そして角度を調整して再度動かしてみたところ、なぜかまたエラーが発生。

原因を調べるため再度ダイナミックタイマーで角度を調べてみたところ、まだクラッチが5度ズレているままでした。「ちゃんと角度を計測してカムを調整したはずなのになぜ?」と疑問に思うメンバーでしたが、どうやらクラッチの角度がずれた原因であるカムは直したものの、最初にズレたカムによって連動する別のカムも角度がズレていたことが判明。カードリーダーは機械的な機構であるため、1カ所に不具合が出ると連動する別の箇所にも不具合が発生することがあります。

メンバーが別のカムも角度を調節し直した結果、カードリーダーは正常に作動するようになりました。


ケンさんはカードリーダーの修復作業に10人近いエンジニアが関わったとして、彼らに謝辞を述べています。また、修復作業を通して旧式のさまざまなカム・歯車・モーターなどの機械を目にすることができ、ソフトウェア的な修復作業とは違った面白さがあったとのこと。

「今回の作業で、カードリーダーのさまざまな機械的システムを理解できました。今後のメンテナンスにも十分活かすことができ、また事前に故障を予防することにも役立ちそうです」とケンさんは述べています。

この記事のタイトルとURLをコピーする

・関連記事
大学生にしてIBM製メインフレームを自宅に設置&IBMにスカウトされた「メインフレームキッド」のニッチな生き方とは? - GIGAZINE

18歳の大学生が重量1トンのIBM製メインフレームを購入してみたらどうなったのか? - GIGAZINE

柔らかな光で数字を表示する「ニキシー管」ができるまで - GIGAZINE

75年前にデジタル革命の扉を開いた世界初のプログラム可能なコンピューター「Zuse Z3」と、次の75年で実現される技術とは? - GIGAZINE

現代によみがえるBluetooth接続のタイプライター型キーボード「PENNA」 - GIGAZINE

in ハードウェア, Posted by log1h_ik

You can read the machine translated English article here.