メモ

ストリーミング動画の流れによって曲がり角を迎えるMPEGについて「MPEGの父」は何を思うのか?


最も成功した動画標準フォーマットの「MPEG」が、インターネットコンテンツの急拡大の流れを受けて、GoogleやNetflixが主導するオープンフォーマット「Alliance for Open Media」に取って代わられようとしています。MPEGをこれほどの巨大な規格に成長させたレオナルド・キャリリオーネ氏が、自身のブログで「MPEGの危機」について考察しています。

2018/01/28 – Leonardo Chiariglione | Blog
http://blog.chiariglione.org/2018/01/28/

MPEGは、最初の動画フォーマット「MPEG-1」が誕生した後、1992年にデジタル音楽向けの「MP3」、1994年にデジタルテレビ放送向けの「MPEG-2」、1998年にインターネットムービーのための「MPEG-4 Visulal」、2001年に携帯電話向けの「MP4」、2003年にムービーのビットレートを軽減するべく「AVC」、2013年にインターネットストリーミングムービーのための「DASH」「MMT」などが生み出されました。この30年間を振り返れば、キャリリオーネ氏が作り上げてきたMPEG規格によってデジタルメディアが成長してきたことがわかります。

MPEG規格委員会をほぼ一人で管理運営してきたキャリリオーネ氏。「誰が音楽をタダにした?:巨大産業をぶっ潰した男たち」では、キャリリオーネ氏が「MPEGは人間と世界との架け橋になるものだ」と述べ、特許から一銭の収入も得ていないという事実について触れられています。


何十億の人にデジタルメディアを手軽に利用できるようにしたMPEG規格は、その後に登場した多くの独自規格の「ロイヤリティフリー」製品によっても崩されることはありませんでした。

キャリリオーネ氏によると、ロイヤリティフリー製品よりも大きな影響をもたらすようになってきたのは、MPEG標準規格への開発に関心を持たない「Non Practicing Entiries(NPE)」と呼ばれる企業だったとのこと。独自に映像技術を開発するNPEは、自社の持つ知的財産権からより多くの利益を引き出そうとする戦略に変更してきたそうです。この動きに対して、キャリリオーネ氏はISOの規格策定作業において、MPEG内にロイヤリティフリーの標準である「Option 1」とこれまで通り規格を独占しない開放的な政策(FRAND)を採る標準である「Option 2」の2トラック制を導入することで対応しました。

MPEG規格委員会は、2013年にAVCと同等の品質を半分のビットレートで実現する「HEVC」を承認しましたが、従来のH.264と異なり、コーデック(圧縮アルゴリズム)に関するアルゴリズム特許を持つ企業をとりまとめる「パテントプール」が、「MPEG LA」「HEVC Advance」「Velos Media」の3つに分かれているという複雑な状況に陥っています。中でも「Velos Media」はライセンスを公開しておらず、さらにはライセンスを公開しない上にどのパテントプールにも所属しない特許所有者もいる状況だとのこと。


特許権者がちりぢりになって存在することはHEVCの本格普及の妨げになることは明らかなため、危機感を感じたキャリリオーネ氏は1年前にISOの上層部に問題提起したものの、いくつかのNPEによって妨げられたそうです。

その中で最も大きな存在は、GoogleやAmazon、Microsoft、Firefox、Netflixなどが共同で推し進めるロイヤリティフリーの次世代コーデック「AV1」を開発する「Alliance for Open Media」です。HEVCでは3つの主要なパテントプールが存在することで、権利関係の処理が複雑なだけでなく各団体からの請求によってライセンス料が割高になる危険性があることから、高画質のムービーコンテンツをオンラインで提供しようとするIT企業が、HEVCとは別のロイヤリティフリーのムービーコーデックとしてAV1を開発しています。そして、従来はAlliance for Open Mediaとは距離を置いていたAppleが2018年1月に加盟したことで、AV1は次世代コーデックとして業界標準となる最有力候補にのし上がってきています。

このMPEG(HEVC)にとって危機的な状況の中、キャリリオーネ氏は、Option 1によるロイヤリティフリーの選択肢を導入すること、ちりぢりになった特許権者をパテントプールにまとめMPEG標準の開発プロセスをより合理化することなどの打開策を提案しています。

キャリリオーネ氏は、ISOにおいて最も低い階層のワーキンググループにMPEG委員会を位置づけたという「緩いガバナンス」がMPEG成功に寄与してきたと述べつつも、同時に、その緩さがHEVCでの権利関係の複雑化を招いたと考えているようです。AV1への流れは避けられないことをキャリリオーネ氏は覚悟していますが、Alliance for Open Mediaによるロイヤリティフリーのコーデックの登場によって、企業は新しいコーデックを開発する意欲を失ってしまい、MPEG時代のような次々と新しい技術が導入されて性能が上がっていくという状況は訪れないのではないかと指摘しています。

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