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脳とコンピューターで双方向の通信をする「brain-computer interfaces(BCI)」とは?


人間の脳とコンピューターで通信を行う「brain-computer interfaces」(BCI)によって、頭で考えるだけで操作するコンピューターを作り出したり、コンピューターから映像を脳に送り込んだりといった、新しいデータ通信が実現すると期待されています。アメリカ国防総省が多額の助成金を出して研究を奨励するなど、活発化しているBCI研究には、乗り越えるべき多くの課題があります。

The best way of looking at the brain is from within - Inside intelligence
https://www.economist.com/news/technology-quarterly/21733195-hunt-smaller-safer-and-smarter-brain-implants-best-way-looking

脳とコンピューターをつなぐ「brain-computer interfaces」(BCI)は、考えただけでコンピューターを操作できる「脳波コンピューター」だけでなく、脳からの情報を得られることで脳の状態をよりよく知ることができると考えられています。また、人間の知覚を司る脳に対して、コンピューターから信号を送信することで、例えば、失った視力を回復するなど知覚を再現できるのではないかと期待されています。

脳をコンピューターに接続するためには、まずは脳内で起こっていることを理解することが不可欠です。BCIについて神経科学者と議論をすれば必ずと言ってよいほど出てくるのが「サッカースタジアム」の例だとのこと。例えば、スタジアムの外から聞こえる歓声によって、ゲームでゴールが生まれたかどうかを知ることができます。そして、スタジアム上空を飛ぶヘリコプターから、誰がゴールを決めたのかを知ることができます。さらに、スタジアムの最後列で観戦する観客であれば、試合展開などゲームの状況をより詳しく理解できるはず。つまり神経学者によると、スタジアムにたとえられる「脳」の中で起こっていること(ゲーム)を理解するために、脳内の状況を正確に把握する手法を開発するのが肝心だというわけです。

BCIのオペレーションにおいて議論の対象となっているのは「個々のニューロンにどれだけ近づけばいいか?」だとのこと。パーキンソン病の治療では、広範な領域にわたって深部へ電気刺激を与える「脳深部刺激療法」がすでに導入されていますが、例えば、指の動きなど細かな動きを制御するための信号を作るには、個々のニューロンの活動を非常に高い精度でコントロールする必要があると考えられています。脳から高精度の信号を受け取るための方法は、「Electrocorticography」などの「脳表面に電極を置く方法」と、「脳内に直接電極を挿入する方法」の大きく2種類に分けられます。


失った視覚を取り戻すためなどへの活用が期待されて研究が進められるBCIに関して、アメリカ国防高等研究計画局(DARPA)は2017年にBCIの研究を行う6つの組織に対して6500万ドル(約72億円)を供与しました。DARPAが求めるのは「100万個のニューロンからの信号を受け取り、さらにニューロンへ信号を送ることができる高性能なBCIの開発」だとのこと。

脳の信号を読み取る技術において、大きな課題となっているのは「電極を小さくすること」です。そこで、脳内電極の主流となっているのは「小さなワイヤ状の電極」だとのこと。DARPAのプログラムに参加するコロンビア大学のケン・シェパード博士は、盲人のニューロンを刺激して視覚野を再現しようしており、1センチメートル四方に6万5000個の電極を含む脳表面に貼り付けるタイプのCMOSチップを製作中です。また、ワイヤーをメッシュ状にしてポリマーで覆い、内部でポリマーを溶かすとともにメッシュを広げるという方法を使うハーバード大学のチャールズ・リーバー博士のようなアプローチも研究されています。メッシュアプローチでは、従来のワイヤー状の電極を差し込むよりも、身体への侵襲性が低いという利点があるそうです。


脳表面に貼り付けたり脳内に挿入したりする電極には、もちろん電源が必要です。しかし、脳内に電解液が漏れ出るリスクを考えると、電池を使うという選択肢は採れません。そこで、電磁誘導を利用したワイヤレス給電による電力の確保が検討されています。

また、読み取った信号を送信する上で、膨大なサイズのデータを処理する技術も大きな課題となっています。DARPAプログラムに参加するスタートアップParadromicsによると、試作機では24Gbpsの速度でのデータ転送が必要になる見込みだとのこと。ムービーストリーミングのNetflixの最高画質でさえ1時間に7GBの転送量(約16Mbps)であることから、BCIに求められるデータ転送速度のハードルの高さがうかがい知れます。高速転送を実現するために、Paradromicsには情報の品質を損なうことなくサイズを圧縮する方法の開発が要求されています。さらに、データを高速に処理する場合に発生するであろう熱を、脳内でどのように処理するのかも課題として挙がっているそうです。


BCIの研究で電極やチップの小型化が成功すれば、究極的には脳のすべての領域をカバーする「全脳インターフェース」の開発を目指すことになると考えられています。しかし、小さく柔軟なBCIマシンが開発されれば、脳内に浸透しすぎる危険性をどうやっって制御するのかという新しい問題が出てくるとのこと。もちろん、これらの難問をクリアして脳内とデータを送受信できるようになったとしても、そのデータをどの様に処理するかという別の難問が待ち構えています。

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