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クラフトビール醸造所が10年たらずで6倍に&人気が大爆発した裏側には何があるのか?

by Matan Segev

アメリカではビールの売上げ全体が減少しているにも関わらず、2008年から2016年の間にクラフトビールの醸造所の数が6倍に増加し、被雇用者も倍増しています。未来の小規模ビジネスのモデルとなるほど成功を収めているクラフトビールビジネス成功の裏には、どのような要素が関わっているのかが解説されています。

Craft Beer Is the Strangest, Happiest Economic Story in America - The Atlantic
https://www.theatlantic.com/business/archive/2018/01/craft-beer-industry/550850/

2012年ごろまで、アメリカのビール産業の90%はブルームーンピルスナー・ウルケルアンハイザー・ブッシュ・インベブクアーズの4社が独占していました。しかし、強い企業によって産業が独占されているという事態には弊害があります。これまでの研究で、圧倒的に力のある企業が存在するとイノベーションが起こらなくなり、労働者に害が及ぶことがわかっているためです。事実、経済が拡大しているにも関わらず、2002年から2007年までの間にビール醸造所における雇用は減少傾向にありました。

しかし、その後、2008年から2016年の間でビール醸造所の数は年間120%のペースで増加。アメリカでのビール消費量は減少しているにも関わらず、醸造所は10年たらずで6倍以上の数になり、被雇用者の数も倍以上になったとのこと。

これがビール醸造所の数の増減をグラフにしたもの。2001年から2008年まで減ったり増えたりを繰り返し、2008年に大きく数が減少したものの、その後は驚くほどのペースで増加しています。


ビール醸造所の従業員の数も3万人弱で横ばいだったのが、2017年には7万人近くになりました。


2000年代と比較して2017年のビール消費量は減少しており、価格は50%近く上がっています。これまで産業を独占してきたビール会社の売上が減少していることからも、消費者がより高価で特別なビールにお金を払っているということがわかります。

テクノロジーの発達とグローバリゼーションによって、現代の多くの産業はこれまでよりも効率よく製造が行えるようになりました。しかし、クラフトビールの製造は手間とコストがかかり、少量のビールを造るのに多くの人を要するため、一見すると、クラフトビールビジネスの成功は時流に反するように見えます。

では、なぜクラフトビール産業が急激に大きくなることができたのか?というと、そこには「消費者の好みの変化」と「法律」という2つの側面からの理由があります。

醸造者協会のエコノミストであるBart Watsonさんによると、クラフトビールが人気となった理由には「豊かなフレーバー、種類の多さ、ローカルビジネスの支援」という3つの特徴が見られるとのこと。これはカジュアルレストランやコーヒーショップといった産業でも起こっていることで、「珍しいビール」や「高価なコーヒー」が新たなトレンドとなり、消費者の求めるものが変化したことが理由の1つとして挙げられます。

by Nick Hillier

また、景気後退によって職を持てない状況に陥った人々が、自分自身で起業する必要に迫られたという見方もされています。そして大企業がこれまで無視し続けてきたニッチな市場にフォーカスを当てることで、起業家たちは道を切り開くことができたのです。

そして、アメリカの規制の歴史を見ると、特定のルールの組み合わせがイノベーションあるいは衰退を起こすこともわかります。

20世紀初め、アメリカの醸造所は直営のバーを持っているか、あるいは決まったお店にお酒を卸していました。お店が蒸留所や醸造所とつながっていることから、これらは「tied houses(タイドハウス/特約居酒屋)」と呼ばれました。タイドハウスは垂直統合の状態であることから、価格を下げパトロンを安酒で酔わせてギャンブルや娼婦に走らせるという流れを作り出しており、禁酒運動の大きな敵となりました。

禁酒法を終わらせたアメリカ合衆国憲法修正第21条が出された際、安全な飲酒を促すためにはタイドハウスの垂直統合を禁止する必要があると立法者らは考えました。そして、投票が行われたところ、アメリカ全州の市民がタイドハウスを廃止し、バーと製造者を分離させることに賛成したとのこと。これによって、製造者が卸売りを行う独立した仲買人にお酒を販売し、仲買人が小売店に販売を行うというシステムが作られました。

by Christin Hume

さらに、州ごとにルールが定まっていることに加えて、酒類業を3つのグループに分割することで、アルコール産業は故意に非効率的かつ独占しにくいようにデザインされました。アメリカのビール産業はモラルのバランスを保つための構造になっていたわけです。

現在のアメリカの法律でも、基本的にはビールの製造者が小売店に商品棚を置くことを見返りに贈り物をしたり、自社製品を販売するための棚スペースを購入したりすることは禁じられています。しかし、例外があり、小規模な醸造所についてはスーパーや店舗を作ることが許されています。大企業の行動を制限しつつも、新参者にはチャンスを残す仕組みになっているのです。

ロナルド・レーガンの選挙後、司法省が独占禁止法の規制を緩めると、ビール産業を含むさまざまな分野で統合が始まりました。過去30年間で48カ所もの醸造所がアンハイザー・ブッシュ・インベブとクアーズに吸収されていき、古いシステムの影は消えていったのです。

ただし、30年の間で企業の吸収・合併が進んだ中でも、クラフトビールが革命を起こす土壌は、一部で少しずつ作られていきました。1978年には個人が小規模かつ非商業目的でビールを醸造する行為が正式に認められ、大企業が作るビールとは違う、豊かで複雑なフレーバーを経験した世代が生まれたのです。その流れの中で、1980年代にはちょっとしたクラフトビールのブームが起こりました。この時生まれた醸造所の中には、現在にいたるまでに規模を拡大することに成功したところもあります。

また、直近ではいくつもの州が、クラフトビールの醸造所が直接消費者にビールを販売したり、バーにビールを卸したりすることを認めました。これは小規模な醸造所に対する、あくまで例外的な扱いですが、この例外があることで愛好家向けの小さな会社がファンを増やして起業拡大する、という流れが可能になります。

by Cynthia De Luna

つまり、クラフトビールの人気から学べる教訓は、まず「大企業はイノベーションと雇用創出に向いておらず、小規模な会社が製品の多様性と雇用を生み出す」ということ。そして、「時に消費者はごく個人的な理由から独占企業に背を向け、特に味覚に関わる産業はその変化が起こりやすい」と「効率性が求められる経済であっても、時に非効率的なシステムのデザインが賢明なものとなる」ということです。

小規模なビジネスは小規模だからこそのメリットが存在し、ただちに完璧な経済を築けるわけではありません。大企業には大規模な製造を行い高い賃金の創出とすばらしい才能を引きつけるというメリットがあり、それぞれのサイズのビジネスにはそれぞれの利点がありますが、クラフトビール産業の成功には今後のビジネスモデルとすべき点が多くあると考えられています。

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