国際宇宙ステーションの中で「宇宙育ち」の微生物のDNA解析に始めて成功、火星探査の実現に向けた大きな一歩に


国際宇宙ステーション(ISS)の中で採取され、そのまま宇宙空間で培養された微生物からDNAを取りだし、DNAシークエンシングを行って微生物の種類を特定するという試みが成功していたことが明らかにされました。この結果は、宇宙空間の中で微生物の採取と種別の特定を完結させることに成功したということを意味し、今後人類が月や火星に向けて歩みを進める上で非常に重要な進歩となっています。

Genes in Space-3 Successfully Identifies Unknown Microbes in Space | NASA
https://www.nasa.gov/feature/genes-in-space-3-successfully-identifies-unknown-microbes-in-space

Astronauts Identify Mystery Microbes in Space for the 1st Time
https://www.space.com/g00/39254-astronauts-sequence-microbes-dna-in-space.html

この「偉業」を成し遂げたのは、NASAの宇宙飛行士として国際宇宙ステーションに滞在しているペギー・ウィットソン宇宙飛行士とNASAの専門家たちによるチームです。ウィットソン氏はヒューストンの管制センターとやり取りを行いながら微生物のDNAシークエンシングを行い、その生き物が「何であるか」を突き止めることに成功しました。


NASAのジョンソン宇宙センターによる以下のムービーでは、実際の作業の様子や、その結果が意味するところが解説されています。

Sequencing the Unknown - YouTube


NASAが微生物のDNAシークエンシングをISS内で成功させたのは2016年のことでした。これは非常に大きな功績ではありましたが、この時に使われた微生物は地球上で用意され、ロケットで打ち上げられた微生物でした。つまり、NASAの科学者も宇宙飛行士も、その「答え」が何であるかを把握した上での試みでした。


DNAシークエンスによって生き物の種類を判定することは、今後の宇宙開発においても非常に重要な技術です。そのため、NASAでは「ISSの中で採取された得体の知れない微生物が何であるかを、ISSの中だけで解明する」ための取り組みを進めてきました。


NASAの微生物学者、アーロン・バートン博士は「私たちは今回、ISSの中でサンプルを採取して実験するという大きな試みを実施しました」と語ります。


実際にウィットソン氏とともに実験を行ったサラ・ウォレス博士は「目指したのは、ISSの機内だけで『サンプル採取から最終的な結論を出す』というところまでを行えると示すことでした」と試みの狙いを振り返ります。


ISSの中で実際の作業を行ったのがウィットソン氏。実験は2017年8月21日に実施された模様。


今回の試みは、NASAのプロジェクト「Genes in Space-3」の中で行われたもの。ウィットソン氏が手に持つ2枚のプレートには、まだ正体のわからない微生物が培養されています。


プレートには微生物を培養したコロニーが形成されており、ウィットソン氏はガラス越しに作業を行います。とはいえこの微生物は、別の宇宙飛行士から採取されたものとのこと。宇宙飛行士に指でプレートを触ってもらい、そこに付着した微生物を大きく培養することで今回のサンプルが作られているので、安全性の面では問題はなさそう。ただし、実際にそこにどのような微生物がいるのかは、実際に調査してみるまで誰もわかりません。


この試みには、実際に誰でも手に入れられる実験器具が使われています。DNAの培養にはminiPCRと呼ばれる装置が用いられました。これはおよそ10万円程度で手に入れられる装置で、しかも生まれはKickstarterのプロジェクトというのも興味深いところ。


また、DNAシークエンシングにはMinIONと呼ばれる装置が用いられています。こちらはスターターキットが10万円から50万円程度で入手できる製品となっています。


これらの装置を使うことで、研究室レベルのDNA検査がいまや閉鎖された宇宙空間で実施できるようになったという、画期的な出来事です。


ウィットソン氏と地上のチームはまず、微生物からDNAを取りだし、検査に使えるレベルにまでDNAの断片を増幅します。


そしてついにDNAシークエンシングの開始、という段階で難題が降りかかります。2017年の夏はアメリカを複数の超巨大ハリケーンが襲ったのですが、DNAシークエンシングを行うその日、ジョンソン宇宙センターがあるフロリダに「ハリケーン・ハービー」が接近しました。実験は地上のチームと共同で進めることになっていたため、この状況ではまともな結果を残すことは難しくなってしまいます。


そこでNASAは、アラバマ州にあるマーシャル宇宙飛行センターの協力の下、地上からISSのウィットソン氏にアドバイスを送るという作戦に切り替えました。


ウォレス氏は自宅待機のまま、マーシャル宇宙飛行センターにつながった携帯電話からISSのウィットソン氏に声で確認を取り、指示などを行うことになったそうです。


超巨大ハリケーンに襲われようとも、ISSで行われる化学実験には何ら影響はなかったとのこと。


そしてその結果、複数のDNAパターンが確認され、微生物の種別を確認することに成功しました。


ウォレス氏は「『すごい、いま世界で初めての『正体不明生物の宇宙DNAシークエンスを行っているんだ』と思っていました」とその時の様子を振り返ります。


とはいえ、まだこの結果が本当に正しいものであるかを確認するというチェック作業を行わなければなりません。実際に検査された微生物のサンプルは地上へと持ち帰られ、地上の設備を使ってもう一度DNA検査が行われます。


チームの一員であるサラ・ストール氏は、生化学検査を1回、DNAシークエンシング検査を2回実施して確実性を調査。すると、ISSで導き出された答えは地上での答えと完全に一致することが確認されたそうです。


今回の試みにより、地上からの物理的な援助を行うことなく、宇宙空間で生物のDNAシークエンシングを行って正しい結論を導き出せることが確認されました。この技術を活用することで、今後実現が期待される火星への長旅において宇宙飛行士が正体不明の病気にかかったとしても、DNAシークエンシングを行うことでその原因を突き止められる可能性が非常に高くなるため、また一つ宇宙開拓の扉が開けられたということになります。

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