実写版『鋼の錬金術師』曽利文彦監督インタビュー、CGや背景への徹底的なこだわり「言葉を重ねるよりもぜひともご覧いただきたいです」


2017年12月1日から公開されている映画『鋼の錬金術師』を手がけた曽利文彦(そりふみひこ)監督に、「国内最高レベル」のCGのことからファンタジーの世界を実写化するにあたってのキャストや背景のことまで、いろいろなことについて質問をぶつけてみました。

映画『鋼の錬金術師』公式サイト
http://wwws.warnerbros.co.jp/hagarenmovie/index.html

GIGAZINE(以下、G):
今回の作品を試写会で全部見ましたが、個人的に最も危惧していた「CGがしょぼいのではないか」という部分は完全にハイレベルで、まったく違和感を感じませんでした。以前の「ベクシル 2077日本鎖国」の際のインタビュー中で「曽利さんは、CGやVFXが高じて映画づくりをするようになった方なんですか?」という質問に対して、「それは、ちょっと誤解がありますね。私はもともと映画好きだし、中学生くらいで映画監督を志望するようになった。映画監督への道筋として、特撮監督から入るのもいいなと考えていたタイプです。学生時代にはPC上でCGのプログラムを組んだりしてましたが、あくまで映画の道に進む手段のひとつとして取り組んでいた」と答えられていて、CGのクオリティについては妥協しなかったのだろうというのがわかります。今回のCGを使ったシーンで最も苦労したのはどのシーンなのでしょうか?

曽利文彦監督(以下、曽):
一番アピールしたいのは、やっぱりアルフォンス(アル)の出来ですね。アルの制作にはとても時間がかかっています。今回の映画の制作の企画から撮影、仕上げまで担当した制作会社のOXYBOTは12年前に立ち上げました。料理を作るのに畑を耕し食材を育てるところからコツコツやってきて、ようやく皆さんにご披露できるのが今回の映画『鋼の錬金術師』です。その中に登場する、アルフォンスという全部CGで出来ているキャラクターこそが、積みあげてきたものの大きな成果です。


G:
アルは全編CGなんですよね。ほんとにCGなのか?と疑いたくなるシーンもありました。

曽:
全部です。アルに関しては、小道具などなにも作っていないので。手のアップから顔のアップまで全部CGのみで描かれています。

G:
ほとんど違和感がなくて、これ着ぐるみ?とすら思う場面もありました。

曽:
そう思っていただけるととても嬉しいです。自分たちですら、見ていてもだんだんCGであることを忘れてしまいます。この実存感というものが映画ではとても重要だと考えています。このリアルを表現するためにずっと開発を行ってきました。ハリウッドはすでにそのリアルを超えて表現する技術を持っていますが、日本はなかなかそこまで到達していなかった。このアルフォンスによって末席ながら同じステージまで上がってきたなと感じています。このアルフォンスをターニングポイントとして、これが実現したと言うことは、この先はもっと面白いと思います。


G:
確かに、今回のアルの動きを見ていると、甲冑なので表情が変わらないにもかかわらず、本当に動きだけでちゃんと演技になっていて驚きました。これはモーションキャプチャ用の演技も、アルの声を担当した水石亜飛夢(みずいしあとむ)さんが担当しているということですが、こんな感じで演技をして欲しいという要望を監督から出したのでしょうか?

曽:
モーションキャプチャって普通は特殊なスタジオで、何台もの赤外線のカメラで撮影を行います。今回採用したのはジャイロが入ったワイヤレスのモーションキャプチャで、データをそのままパソコンに飛ばしてその場で収録が出来るんです。そのメリットは、エドワード(エド)役の山田涼介(やまだりょうすけ)くんと水石亜飛夢くんのお芝居をそのまま普通に撮影しながら、同時にモーションデータも収録できてしまいます。これは屋外でも可能です。

G:
別撮りというわけではないんですね。

曽:
別撮りじゃないんです。ナチュラルにお芝居してリアクションして、その動きをそのままデータ収録もしているので、それを元にアルフォンスのCGを作っています。

G:
それであんなに動きが合うんですね。CGのアルの動きと周りの役者さんの動きとをどうやってあんなに合わせたんだろう、と疑問に感じていました。

曽:
ケンカのシーンで動きがぴったりあっているのはそのおかげですね。そういう意味では効果は抜群でした。結果はご覧いただけるとすぐにわかると思います。

G:
確かに見たらわかりますね。いろんな映画のモーションキャプチャを見ましたが、そのようなものは今まで見たことがなかったので驚きました。

曽:
ハリウッドだとアニメーターが腕に自信を持っていますから、あのようなCGでもモーションキャプチャを使わず、手付けでやってしまいます。それはそれですごいんですが、ところどころ加速度の部分がズレているように感じるときもあります。重力も加速度だし、たとえばパンチするときの動き、よける動作、このタイミングが合うのはモーションキャプチャのおかげだと思っています。アニメーターによる手付けだと、CG単体の動きも、CGと実写の連動も、この加速度部分を合わせるのが大変だと思います。


G:
それであのエドとアルの格闘シーンがとてもド迫力になってみえたのですね。

曽:
そうなんですよ。その場面も含めてアルは全編CGなんですが、CGのキャラクターと生身の人間とがくんずほぐれつのアクションというのは、結構ハリウッドでもレベルが高い仕事だと思います。

G:
同じようなキャラクター造形としては、演技がずば抜けていたと個人的に感じる、ヒューズ中佐役の佐藤隆太(さとうりゅうた)さんと、ショウ・タッカー役の大泉洋(おおいずみよう)さんが素晴らしかったです。特に大泉洋さんは凄いなと驚きました。

曽:
すごいですよね。ポスターやキャスト紹介などを見て「普通の大泉洋じゃん」と言われているんですけど(笑)、これは狙いです。普通の大泉洋さんから入ってのタッカーなんです。原作ファンの方にはそのギャップの必要性がよくお分かりだと思います。

G:
正直に言って、再現が無理だろうと一番期待していなかったのはホムンクルスの「ラスト」でしたが、全く違和感なかったのでビックリしました。ラスト役の松雪泰子(まつゆきやすこ)さんは素晴らしいハマり方をしていましたが、こういったキャスティングはすべて監督が決めていったのでしょうか?というのも、別のインタビュー中で、エグゼクティブプロデューサーであるワーナーの濱名一哉(はまなかずや)さんが、「本田翼さんやディーン・フジオカさん、松雪泰子さんはみんな僕らが第1志望に挙げていた人たちです。本田さんは原作の大ファンなだけに畏れ多いという気持ちもあったようですが、本当にヒロインにふさわしい独特のかわいらしさが原作にぴったりの役柄になっています」と答えていたので、どういうようにして選んでいったのかな、と気になった次第です。


曽:
本当に自分でお一人ずつ口説いて歩きました。まずアルフォンスのデモ映像を作ったんです。アルがCGで、実存として描けるのか、というところのデモ映像を作って、ここまで可能ですというところをまず原作の先生などに見ていただき、そしてキャストのみなさんにも見せて、これくらいのレベルでやります、安心してこのハードルの高い『鋼の錬金術師』という作品に参加してくださいと打診して、それに賛同して集まっていただいたんです。

G:
一番最初がアルなんですね。最後に出来たのだと思っていました。

曽:
ウィンリィ役の本田翼(ほんだつばさ)さんも、『鋼の錬金術師』という人気作品に携わるということで、やっぱり最初はびっくりされていました。本田さん自身も大好きな作品なだけに迷いもあったと思うんですが、アルのCGを見て安心して参加してくれました。

G:
そういった経緯だったのですね。キャストのことなども含めて曽利監督のことを調べていて見つけたのですが、今Twitter上で「教えて!曽利文彦監督」というすごいアカウントをつくっていらっしゃいますよね。このアカウントはどのような経緯で作るに至ったのでしょうか?


曽:
有名な原作なのでみなさんのご不安もあるし、試写の数も多くないので、公開前からさまざまなチャンネルを通して質問が届いていたんです。それならばということで、ファンのみなさんと試写会をしてティーチなどもやったりしたのですが、試写会はどうしても人数がそんなに多いわけではないので、もっと広くみなさんにお答えした方がいいかなということで。ホームページの1コーナーとして公開までの期間限定としてやらせていただきました。

G:
ではあのアカウントは曽利監督自身がリアルタイムに返信しているというわけではないのですか。

曽:
私の個人アカウントではないというだけで、書いているのは100パーセント自分の文章です。自分で責任持って発信していますし、みなさんのご意見も拝見しています。みなさんいろいろと盛り上がってくれているので、そういうのも合わせて娯楽映画として楽しんでいただければと思います。

G:
以前のインタビュー中で「荒川先生が描いているテーマや芯の部分がズレていなければ、実写のオリジナリティーがあっても許していただけるのではないかと考えました。ですが、芯がブレてしまうと『鋼の錬金術師』ではなくなってしまう」とおっしゃっていましたが、今回の実写化にあたって、アニメでもない、2.5次元的な演劇でもない、実写の映画ならではの表現を目指した部分、実写だからこそコレができたんだというシーンはどこになるのでしょうか?

曽:
たとえば錬成(錬金術の発動)の表現というものが、原作ではこう、アニメではこうというようにカッコいい表現が存在していますが、それをトレースするだけではつまらないので、実写をやるからには実写でこういう表現もありますよと、新しいものを提示していきたいという思いがありました。同じものを作るのは簡単ですし、みなさんの既視感がある分、安心はされると思うのですが、面白みには欠けてしまいます。錬成していくものを変えたりとか、「真理」が登場する場面も三次元世界の独特な描き方というものをそれぞれやっています。そのため、原作とピッタリ合わせているシーンもあれば、わざとずらしている部分もあって、そのずらしている部分を遊びだと思ってゆとりをもって楽しんでもらえればと思います。2時間という時間の中で筋の通ったストーリーにしたかったですし、初めてハガレンに触れる方には、一本の映画として、物語に軸があり、テーマもぶれていなくて、最後にカタルシスがあるという理想形に仕上げたかった部分もあります。


G:
上映時間は2時間を超えていますが、この上映時間は最初から決まっていたのですか。

曽:
台本の段階で、2時間は超えてくるなというのはわかっていました。ただ2時間30分は長いな、ということで2時間15分を切りたいという目標で、2時間13分くらいですかね。エンドロールが長いので、本編はだいたい2時間ちょっとくらいの映画になっています。

G:
マンガを原作にして実写化するというのは山のように困難なことが多いというのは想像に難くないのですが、実写化するにあたって今回、原作者の荒川弘(あらかわひろむ)さんについて、別のインタビュー記事によると、「原作元にもシナリオは何度も何度も確認してもらいました。撮影中にも現場の都合に合わせてセリフのちょっとした変更があるのですが、全て原作元に確認を取りながら、綿密なやりとりを元に完成した脚本で作っています」とのことでしたが、ほかにも何か、原作サイドに手助けしてもらった点はあるのでしょうか?

曽:
正確に言いますと、荒川先生は細かいことを注文されることは一切なく、わりと自由に任せていただきました。なので出版社さんに確認をとりながら、表現やセリフが世界観を逸脱しないように調整していました。

G:
荒川先生の話だと、映画の第1弾入場者特典として配布される描き下ろし新作エピソード「鋼の錬金術師0(ゼロ)」について、「エドが国家錬金術師の資格を取ってすぐの話で、ここから映画に続く、って感じで描いてみました」ということで、荒川弘さん自身が映画を鑑賞した後に執筆したということですが、これは監督からの要望が先なのか、それとも原作者である荒川弘さんの方から要望があったのか、それとも違うきっかけがあったのか、そのあたりはどういう経緯で描き下ろしてもらうことになったのでしょうか?

曽:
私がお願いしたというわけではないんですが、どこかに望んでいるところもあったと思います。というのも、荒川先生は『鋼の錬金術師』は完結したものだとおそらく思われているので、映画もご覧いただいて「よかった」と気に入っていただいて、そうなるとクリエイター同士、創作意欲がかき立てられる部分がおありだと思うんです。だからファンの皆様に、荒川先生が映画によってホットな状態になっているので、そういったことで0巻というのが生まれてきて、ということは『鋼の錬金術師』をもう一度描くということを、ご本人の中でも許容し始めているのではないかという希望があります。ファンの方々に映画をいっぱい見ていただいて、気に入っていただけたら、荒川先生も「じゃあ」という気になるんじゃないかなと個人的に期待しているんです。そうしたら『鋼の錬金術師』がもう一度動き出すんじゃないかな、と。


G:
これも別のインタビュー中で、濱名プロデューサーが述べていた今回の実写映画化の企画について、「現場取材後には、濱名エグゼクティブ・プロデューサーへインタビューの機会が得られた。濱名プロデューサーはTBSを経てワーナーに入社。実写版「ハガレン」の企画はTBS在籍時代から曽利文彦監督と温めていたものだという。アメリカのワーナー本社でも企画が上がった時期があったが、原作者・荒川弘のこだわりも強く、実写化へのハードルは高かったという。それでも実現した経緯について、濱名プロデューサーはこう振り返る。「監督を筆頭に粘り強く交渉し、我々のクリエイティビティをプレゼンテーションした結果、2015年、私がワーナーに入社してしばらくしたところで原作者さんの了解が得られました」」とのことですが、実際の交渉ではどういった点を重視してプレゼンテーションをし、実写化を勝ち取ったのでしょうか?

曽:
それはやはりアルフォンスです。それが大きかったと思います。それ以外も、割とアニメ寄りのビジュアルで、実写化したらこういうものという映像をお見せして。映像にはそういう強さがありますよね。OXYBOTにはこのくらいの制作力がありますというところで、荒川先生も賛同いただいた感じだったので。

G:
やはりそのあたりの実物を見せたというのは大きかったと。

曽:
そうですね。やはり言葉とか文字だけでは心が動かないと思うので。

G:
実際に鑑賞してみると、各シーンの背景がすさまじく、調べてみると、イタリアのピエンツァ近郊、ヴォルテッラ、世界遺産のシエナやフィレンツェなどで撮影、さらに「イタリア国鉄の協力により、現存する100年前の貴重な機関車を実際に走らせる」というようにして海外でのロケがかなり多かっただけのことはあるという感じなのですが、海外ロケでの苦労や発見はありましたか。

曽:
重視したのは機関車へのこだわりです。自分の感覚では、『鋼の錬金術師』といえば機関車というイメージがあったので。ヨーロッパの、それも時代ものの機関車をどうしても使いたかったんです。それで探し当てたのがイタリアのトスカーナ地方で、観光で2シーズンだけちょこっと走るだけの汽車です。それを一日貸し切りで撮影しました。1年に2回のシーズンしか使わない線路なので、機関車が行ったり来たりできるんです。

G:
ではあの機関車はすべて本物の機関車なのですか。

曽:
ノンCGです。車内のシーンも、イタリアの100年前の機関車なので、まるで『鋼の錬金術師』の世界観にピッタリなんです。それを使って撮影して、通常は窓の外の映像を合成するのですが、この映画では実際に走った本物の景色です。


G:
それであんなに背景がスゴいのですね。

曽:
普通に撮影して、普通に使っているんですよ。駅も本物の駅なので、それを全部使って撮影して、機関車も中で普通にお芝居を撮影して、上からドローンで追いかけているという状態でした。やっぱり本物の迫力というものがあるんですよね。『鋼の錬金術師』の世界観が、本物の機関車が撮影できたことにより表現できている。ヴォルテッラという町も、ほぼ町をあげて協力してくれたので、本当に素晴らしかったです。

G:
最後に、映画をすでに見た方に対してメッセージなどお願いします。

曽:
正直、みなさんご不安な中で見ていただいて、なるほどと思っていただけるところも多々あると思います。原作をご存じない方は娯楽映画として楽しんでいただけると思います。この映画はオープニングのアクションシーンなど、見れば見るほど面白いところがありますし、大きなスクリーンが似合う映画になっていると思います。今回はIMAX4DXもありますから、ぜひ何回もご覧いただけると嬉しい限りです。


G:
確かに、YouTubeの予告編を見たときと衣装の雰囲気が全然違いました。リアル感というか実存感というか。

曽:
大画面仕様なので、ファンの皆様には大画面で確認いただきたい。普通の映画館でご覧になった後、「じゃあIMAXでも見てみるか」という価値があると信じています。アクションも音響も、IMAXはやっぱりスゴいですね。オリジナルの制作サイズも、最近の実写映画作品は2Kというサイズで作っていますが、今回は2.5Kで制作しているので、面積的には1.5倍ぐらいの解像度を持っています。まさにIMAX向きです。

G:
やはり映像面にスゴく凝っているのですね。

曽:
今までの日本のこういうジャンルの映画の中では一番解像度が高く、手間暇かけて作っていますので、それは言葉を重ねるよりぜひ劇場でご確認いただければ嬉しい限りです。どうぞよろしくお願いいたします。

G:
お話ありがとうございました。

映画『鋼の錬金術師』本予告【HD】2017年12月1日公開 - Youtube

©2017 荒川弘/SQUARE ENIX ©2017 映画「鋼の錬金術師」製作委員会

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