この宇宙で最も謎に包まれた現象「創発」とは?取るに足らないものが集まることでなぜ「個体の集合」以上の意味を持つのか

by Jelene Morris

アリのように小さな脳を持つ生き物が集団となることで、単なる「個体の集団」を超えた特性を持ち、複雑な構造の巣を作ったり軍隊を形成して戦ったりできるようになる現象を「創発」と呼びます。絵本「スイミー」も創発の1つの形と言えそうですが、この創発は分子レベルや人間社会などあらゆるところで観察できます。宇宙の根本的な原則とも言える「創発」について、YouTubeの科学チャンネル「Kurzgesagt」が解説しています。

Emergence – How Stupid Things Become Smart Together - YouTube


アリの脳は小さいため、アリは意志を持って行動し、計画を立てることなどはできません。


しかし、複数のアリが集まったコロニーは信じられないほどに複雑な構造を持ちます。


コロニーの中には真菌からなる「農園」がある場所や、幼虫を育てる部屋などがあり……


個体としては力が弱くともアリは軍隊を形成して敵と戦うこともできます。


このように、単体としては取るに足らないものが集団となることで、単なる「個体の集合」を超えた別次元の性質を備えることができる現象を「創発」と呼びます。創発は、アリとコロニーの例に留まらず、宇宙のあらゆるところで散見されます。


例えば「水」も分子とその集合体では別の性質を持ちます。


「濡れている」という状況をクローズアップしてみると、実は「濡れている」ものは存在しません。服が濡れているという状態は、単に衣服の原子の隙間に水の分子が存在するだけです。


「濡れている」ということは、1つ1つの分子が相互に関係しあうことで生み出される、水の創発の形の1つなのです。


そして、創発は何度も繰り返され、層のようになって、次々に新しい「特性」を生み出します。創発が繰り返されることで、単純な個体が最終的に複雑な構造を生み出すことが可能です。


原子が分子を作り……


分子がタンパク質を作り……


タンパク質が細胞を作り……


細胞が内臓を作り……


内臓が1人の人を作る、というように。


そして一人ひとりの人間が集まることで、複雑な「社会」が生まれます。では、創発を繰り返して複雑な物を作るとき、そこにはどんなルールがあるのでしょうか。


アリの場合を見てみます。アリには「働き者」「留守番役」「兵士」「収集役」の4つの役割があり、それぞれが全体の25%ずつ存在すると仮定します。


アリは自分自身がどんな仕事についているのかを体から発する化学物質で仲間に知らせます。2匹のアリが遭遇した時、互いから発される化学物質でおのおのの仕事を確認するわけです。


しかし、アリクイが食べ物を収集する役割のアリをたくさん食べてしまうと、全体のバランスが崩れてしまいます。


放っておけばコロニーで食べ物が不足し、多くのアリが餓死してしまうため、アリの中で役割交代を行う必要があります。「役割交代して食べ物を取りに行かないと!」と仲間に伝えたいところですが、アリはこのような意思伝達を行いません。


アリが行うのは、それまでと同じ、自分の匂いの役割を化学物質として放出すること。


収集役がゼロになると、その化学物質は全くなくなります。そのため収集役の減少が危険なラインになると、兵士や働き者、留守番役といった役割のアリが、バランスが保たれるまで収集役の化学物質を放出し、食べ物を集めるようになります。


この時、個体が起こすアクションとそれに対するリアクションはランダムで、予測することはできません。


原子や分子についても同じことが言え、何百万もの複雑な分子が、複雑な構造を作りだすために相互反応を起こします。人間の細胞も、創発の結果として生まれたものの1つ。


「生命とは何なのか?」という明確な定義をまだ人は導き出せていませんが、それが「無生物」の創発によって作り出されているのは確かです。


そして複数の細胞が違いに相互反応し、何度も創発が繰り返されるこよによって何兆にもなる取るに足らないものから腕や心臓、足など、信じがたいほどに複雑な構造を作り出します。


そして私たちは呼吸を行ったり、食べ物を消化したり、YouTubeのムービーを見たりが可能になるわけです。


心室を収縮させるペースメーカー細胞は、何十億という細胞が集まって正しいタイミングで刺激を生み出すことで心音を作成します。


そしてこの時、ペースメーカー細胞は化学物質による情報を放出することで、近隣の細胞が何をしようとするのかを知り、自分が何を行うのかを決定します。


1つのタスクに複数の細胞が携わっている場合、この相互作用によってタスクが開始され、複数の細胞がシンクロします。


ここには「指令を送る」といった類いのことは存在しません。1つのユニットが近隣のユニットとコミュニケーションし、受け取ったフィードバックに基づき活動が行われるだけです。


そしてアリのコロニーと同じく創発によって作り出されたのが人間の社会であり、国です。国は何か、という問いに対しては「人口」「施設」「国旗」「国家」「都市の集まり」「収める土地」など、多くの答えを返すことができます。


しかし、物理的な物は全て流動的です。施設は変化し、街は作り直され、境界線は引き直され、新しいシンボルによって象徴されます。


国には顔も脳もないので人間に比べて定義しずらいもの。しかし、現実に確かに存在し、世界と相互作用し続けています。


風景を変え、戦争をし、繁栄・衰退し、存在がなくなることもあります。


しかし、そこに「存在する」と言えるのは、国の中でたくさんの人々が生活し相互作用を繰り返しているからです。そして国以外にも、コミュニティ・会社・社会など、意図するしないに関わらず私たちを発端として多くのものが創発されています。


私たちの周囲にある全てのものは、取るに足らない類人猿が集まることによって作り出した、類人猿とは異なる性質をもったものです。このような創発がなぜ起こるのかという理由は明らかになっていませんが、宇宙の根本的な性質として「創発」は存在し続けているのです。

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