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世界最大の「巨大マゼラン望遠鏡」に使われる直径8.4メートルの主鏡を溶かしたガラスから作る様子


2021年の試験観測開始を目指して製作が進められている巨大マゼラン望遠鏡 (Giant Mageran Telescope: GMT)では、直径が8.4メートルという巨大な円形の鏡を7枚組み合わせることで、疑似的に直径24.5メートルもの巨大な反射鏡を実現することになっています。天体観測に用いるために高い精度が求められ、しかも他に類を見ない巨大な1枚ものの鏡を製造するプロセスは、非常に多くの手間と時間がかけられています。

Watch the Casting of a Giant Mirror for the First Extremely Large Telescope - Motherboard
https://motherboard.vice.com/en_us/article/bj7d3z/mirror-giant-magellan-telescope-extremely-large

巨大マゼラン望遠鏡は、チリ共和国のラスカンパナス天文台に建設されることが決まっている超大型地上望遠鏡で、ハッブル宇宙望遠鏡の後継となるジェイムズ・ウェッブ宇宙望遠鏡と連携して超高精度な天体観測を可能にするシステムの要となる望遠鏡です。

次世代の宇宙観測施設「巨大マゼラン望遠鏡」の建設が開始、そのイメージムービーや画像が公開中 - GIGAZINE


望遠鏡の内部には、7枚の鏡を組み合わせた合成有効口径24.5メートルという巨大な主鏡が設けられ、宇宙から届く光を集めて観測を行います。この鏡にゆがみがあると正確な観測が行えないため、さまざまな補正の仕組みが取り入れられるのですが、何よりも「正確に反射できる鏡を作る」ことが絶対条件である事は間違いありません。そのために、7枚ある鏡は1枚あたり数年という長い期間をかけて作られています。


直径8.4メートルもの円形の鏡は、アリゾナ大学のRichard F. Carisミラーラボに設置されている巨大な炉で作られます。直径10メートルはありそうな鉄製の枠の中に内枠があり、その中にセラミック製の六角形の筒を敷き詰め、さらに六角形の平らなフタを置いて、ガラスを溶かしてそのまま固める型が作られています。


六角形のセラミックタイルが敷き詰められた様子。この上でガラスを溶かし、固めることで巨大な鏡が作られます。ガラス工場などで平坦な板ガラスを作る際に用いられているフロートガラス製造ではなく、固体のタイルの上で作られるのが面白いところ。


原料となるガラスの塊を、タイルの上に手で敷き詰めていくスタッフ。用いられるガラスの総量は、20トンにも及びます。


ガラス工場のように「カレット」と呼ばれるのかどうかはわかりませんが、こぶし大のガラスを並べていきます。


その様子は以下のムービーでも見ることが可能。炉を回転させながらガラスを敷き詰め、最後に反転させながらさらにギッチリと詰め込んでいく様子がわかります。

Glass loading for GMT mirror 5 - YouTube


ガラスを敷き詰めたら、炉のフタを閉めて……


内部に火を吹き込み、セ氏1165度にまで熱して徐々にガラスを溶かします。


ガラスが溶けた状態になると、なんと炉を丸ごと回転。1分あたり5回転というスピードで回転させることで適度な遠心力を発生させ、ガラスの周縁部を厚く・中心部を薄くすることで、仕上がり状態に求められる表面の湾曲を作り出すようになっているとのこと。


ガラスの成形が完了したら、炉の回転スピードを少し遅くして冷却の段階に入ります。ガラスを完全に冷やすまでにかける時間は、3カ月。十分な時間をかけることで、ひずみのないガラスを作り出すことを狙っているようです。

ちなみに、世界各地の反射望遠鏡に使われている主鏡の大きさを比較するとこんな感じで、巨大マゼラン望遠鏡は鏡1枚の大きさでは世界最大規模となる望遠鏡となっています。巨大マゼラン望遠鏡よりも大きな「European Extremely Large Telescope」など巨大マゼラン望遠鏡を上回る規模の望遠鏡も計画されていましたが、予算の問題などで頓挫しているために巨大マゼラン望遠鏡が記事作成時点では世界最大の反射望遠鏡と呼べるものとなっているとのこと。


冷却が完了したら、表面の研磨に入ります。コンピューター制御の研磨機を使って表面を極めて平滑に仕上げるのですが、ここでかけられる時間はなんと1年半。髪の毛の太さの1000分の1という数ミクロンの公差で表面の凹凸をなくしていきます。これは例えば、鏡の直径をアメリカ大陸と同じ大きさに拡大したときに許される凹凸の大きさは、わずか1cmにしかならないレベル。


こうして作られた鏡は、巨大な輸送容器に収められ、厳重な体制でアリゾナ州から海上輸送を経てチリへと輸送されます。

GMT’s First Giant Mirror Segment Starts Journey South - YouTube


2017年11月3日には、全部で7枚ある巨大マゼラン望遠鏡の鏡のうち5枚目の製造がスタート。非常に長い時間をかけて作られる鏡を使い、巨大マゼラン望遠鏡は2021年から本稼働に向けた試験を開始する予定です。

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in ハードウェア,   動画, Posted by darkhorse_log

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