サイエンス

ラウンドアップ除草剤の発がん性を否定するための論文作りに製造メーカー・モンサントの科学者が大きく関与した可能性


世界で最も売れていると言われる除草剤「ラウンドアップ」の主成分は発がん性を有する、とする国際機関の発表に反論するために、ラウンドアップの製造メーカーのモンサントが、独立した専門家による委員会の作成した反論目的の論文に大きく関与し、その関連性を疑われないよう隠蔽していたという実態が裁判の中で明かされています。

Monsanto Was Its Own Ghostwriter for Some Safety Reviews - Bloomberg
https://www.bloomberg.com/news/articles/2017-08-09/monsanto-was-its-own-ghostwriter-for-some-safety-reviews

モンサントが1970年に開発したグリホサートを主成分とする除草剤「Roundup(ラウンドアップ)」は、植物の種類を選ばずに除草効果を発揮する非選択型の農薬で、1974年の発売以降、農家だけでなく一般家庭でも広く使われています。


なお、ラウンドアップは強力なため作物そのものを痛めることから、モンサントはラウンドアップ耐性をもつ遺伝子組換え作物の種を開発して、ラウンドアップとの併売を強力に推し進めています。

しかし、ラウンドアップが人体に有害ではないかという疑問の声は製品化以降つねにあり、モンサントは、第三者による科学的な検証により安全性が確認されていると、主張してきました。モンサントによるラウンドアップに対する安全性の主張は、以下の記事で確認できます。

ラウンドアップの疑問にお答えします。 脇森部長のラウンドアップ除草剤講座(前編) | モンサント・ジャーナル


そのラウンドアップの安全性について、危険だという声が大きくなったのは、2015年にWHOの下部組織の国際がん研究機関(IARC)が、グリホサートについて「おそらく人に対する発がん性を有する」とする「グループ2A」という評価を下したのがきっかけです。この発表は、ラウンドアップが世界中で一般的な除草剤として使われている大ベストセラーであることから大きな反響を呼びましたが、論文の根拠となるサンプル数の小ささなどに対して科学的な妥当性がないとする研究者の反対意見が多数出されるなど、グリホサートの発がん性については議論が紛糾しています。

モンサントはラウンドアップの安全性を証明してIARCの発表に反駁(ばく)するべく、コンサルタント会社Intertek Group Plcと契約した上で、研究者などからなる専門家委員会を立ち上げました。2016年9月、専門家委員会は、科学誌Critical Reviews in Toxicologyに「完全にモンサントなどの利害関係者から独立して書かれた論文」として、IARCがデータを見落として誤った解釈をしているという内容の論文を発表していました。なお、IARCはこの調査委員会の論文に対して、データに不備はないと再反論しています。

ラウンドアップの発がん性を巡っては、2015年にラウンドアップが原因でがんを発症したという原告が、モンサントに対して損害買収請求訴訟をカリフォルニア州の連邦裁判所に提起していました。この訴訟の原告側弁護士が、2017年8月上旬に、証拠として訴訟に提出したモンサントの電子メールと内部文書を発表しました。


この内部文書によると、モンサントのウィリアム・ヘイデンス博士ら複数の科学者が、外部の専門家によって提出された論文の草案の整理や内容編集に大きく関わっていたとのこと。これに対してモンサントのグローバル戦略担当副社長のスコット・パーリッジ氏は、「モンサントは論文の整形のみを行っており、専門家らの結論を変更するような実質的な関わりを持っていません。利害関係者による『文言の選択』は理想的とはいえませんが、科学的な内容を変えるものではありませんでした」と述べています。

また、内部文書によると、モンサントの主席毒物学者のドナ・ファーマー博士がグリホサートの副作用に関して書かれた2011年の論文の共同著者から名前が削除されたことも明らかになっているとのこと。この論文は、グリホサートの有害性に関する主張への反論として出されたもので、ファーマー氏の名前を論文に出さないことで、モンサントによる関与を否定する狙いがあったと考えられます。


ラウンドアップの人体に対する有害性を示す主張に対して反論する論文の作成に、モンサントによる影響力が大きく及んでいたとするならば、「ラウンドアップが有毒でない」という主張で常に挙げられていた、「独立した第三者機関による科学的な検証」というモンサントによる定番の主張は意味をなさなくなりそうです。

なお、カリフォルニア州は2015年9月からラウンドアップの主成分のグリホサートを有害な化学物質に認定するとモンサントに通知しており、モンサントはこの内容を争って、裁判所に差止訴訟を提起していました。モンサントの訴えは棄却され、2017年6月26日に、カリフォルニア州はグリホサートについて2017年7月7日から発がん性物質のリストに加えると発表されています。発がん性リストに掲載されたことから、カリフォルニア州で販売するグリホサート系農薬のパッケージには発がん性に関する警告表示が義務づけられることになります。モンサントは依然としてこの処分を争っています。

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in サイエンス, Posted by darkhorse_log

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