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サイエンス

脳細胞の死滅を止める薬を発見、アルツハイマー病など認知症の進行停止に光

By Vince Alongi

2013年、イギリス医学研究評議会の研究チームが「動物の脳細胞が死ぬのを止めること」に世界で初めて成功し、世界中でニュースとなりました。しかし、この実験で使用された化合物は、副作用として臓器の損傷を引き起こしたため、人間に使用するのは不適切であると考えられました。あれから4年が経過して、同じように脳細胞の死滅を防ぐ効果を持ちながら、人間に安全に使用できると考えられる2つの薬が発見されています。

Experts excited by brain 'wonder-drug' - BBC News
http://www.bbc.com/news/health-39641123


脳細胞の死滅を食い止める薬では、脳細胞に組み込まれた自然な防御メカニズムに焦点を当てています。ウイルスが脳細胞をハイジャックすると、ウイルスタンパク質が蓄積されます。すると細胞はウイルスの拡散を防ぐためにほぼすべてのタンパク質生成を止め、最終的に死滅します。脳全体のニューロンで繰り返されるこのプロセスは、人間を動けなくしたり、記憶に障害をもたらしたりと、さまざまな副作用を引き起こします。多くの神経変性に関わるとみられるこのプロセスですが、これを上手くコントロールすることで広範囲な疾患を治療する可能性が模索されてきました。

そんな脳細胞の死滅を止める薬に関する研究が2013年に発表されました。細胞の防御メカニズムが働くことを防ぐ化合物を使用し、マウスでプリオン病の進行を停止することに成功、つまりは動物で初めて神経変性疾患を止めることに成功しました。このアプローチで神経変性疾患を止めることが可能であることが示されたのですが、使用した化合物が膵臓に毒性のあるものであったため、人間に使用することはできませんでした。しかし、この研究は神経変性疾患に関する研究として「確実に転換点になった」とのこと。

By Neil Conway

2013年の研究以降、1000種類を超える既存の薬物を用いた試験が行われ、その中の2つが脳細胞の死滅を防ぐことで認知症とプリオン病の2つを予防することにつながることが示されました。

脳細胞の死滅を止める薬のひとつは、うつ病患者が服用するトラゾドンと呼ばれるもの。もうひとつは、がん患者向けのDBMと呼ばれる薬。イギリス・レスターに本拠地を置く研究機関MRC Toxicology Unitのジョバンナ・マルッチ教授は、「どちらの薬も記憶障害および脳細胞の麻痺や機能不全を予防しました」「臨床試験で人間にも類似の効果がみられるかを確認してから、資金を投じ、実際に飲むべきです。症状を完全に治癒する可能性は非常に低いですが、病の進行を食い止めることができれば、例えばアルツハイマー病などはまったく異なるものに変わります」と語っています。

ただし、トラゾドンは既成の医薬品ですが、マルッチ教授は「専門家・医師・科学者として、私はすぐに結果を求めないようにとアドバイスします」と語っています。しかし、アルツハイマー病学会に所属するダグ・ブラウン博士は「(トラゾドンは)すでにうつ病の治療薬として利用できるため、研究所で開発される段階から薬局で市販されるまでの過程を大幅に短縮することができる」とコメント。さらに、パーキンソン病学会のデイビッド・デッカー博士は、「これは非常に重要で確固たる研究です。これらの研究結果を人間の臨床試験で再現できれば、トラゾドンとDBMの両方が大きな一歩を踏み出すことになります」と、今後の展開に期待を寄せるコメントを残しています。

By frankieleon

なお、今回の発見に関する研究結果は科学誌のBrainで発表されています。

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in サイエンス, Posted by logu_ii