1100年前のビールを再現して古代文明を研究する「ビール考古学者」とは?

失われた古代文明の研究は、古代の王族や貴族に焦点を当てて行われることが多い中、コロラド大学ボルダー校のトラヴィス・ラップ教授は、当時実際に飲まれていたビールを実際に醸造して古代文明を読み解くというアプローチをとっています。なぜラップ教授は考古学の研究テーマに「ビールの再現」を選んだのか、Great Big Storyのインタビューで語っています。
This 1,100-Year-Old Beer's For You: Recreating Ancient Ales - YouTube
ずらりと並べられたビール樽の脇を、「ブリューワー(ビールの醸造者)」と書かれたTシャツを着た男性が通り過ぎていきます。

ビールを手にしている男性は単なるビール醸造職人ではなく、コロラド大学ボルダー校の考古学教授であり、「ビール考古学者」とも呼ばれてる人物。

古代のビールが作られているのは、コロラド州ボルダーにある「Avery Brewing」というビール醸造所。

醸造所には試飲所も設けられているようです。

Avery Brewingでは何種類ものビールが製造されているのですが、その中の設備を使って古代のビールも作られています。

内部には最新のビール醸造設備があり……




古代のエジプトやペルーなどで実際に飲まれていた古代のビールが作られています。

ビール考古学者のトラヴィス・ラップ氏は、通常の考古学とは異なるアプローチで研究を行っています。古代文化では当時の王族や貴族の生活様式などが注目されるものですが、ラップ氏は「当時の人口で王族や貴族が占める割合はわずかです。私は1100年前の庶民的なパブで、何が飲まれていたのかが知りたいのです」と語っています。

ラップ氏とその研究チームは、古代のビールを現代に再現するという研究を行っており、すでにいくつもの古代ビールが現代によみがえっているとのこと。

タルに刺していたクギを抜いてビールをカップに注ぎ……

ゴクリと飲むラップ氏。現代のビールとは異なる材料や製法で作られる古代のビールは、驚くほどおいしいそうです。

醸造所のバーにはたくさんのビールタップが並んでおり、「古代のクラフトビール」も飲める模様。古代のビールにはあまり炭酸はなく、アルコール度も低めだとのこと。

ラップ氏のお気に入りは古代エジプトのビールで、「仕事が長引いた日の終わりに飲むのがお気に入りです」と話しています。

タンクに黒い粒を投入するタップ氏。ビール醸造に使われるホップには見えません。

古代のビールの材料は現代とまったく異なるそうで、例えばドライイーストや……

さっきタンクに投入していたジュニパーベリー(セイヨウネズ)

ヨモギなどが主な材料とのこと。

「ビール考古学を行う上での大きな挑戦は、『実際に使われていた古代のレシピを定義すること』です。それを現代の設備で再現することは、さらに大きな挑戦です」と語るタップ氏。常に既存の考え方にとらわれないよう気をつけながら、これらの材料をどうやって組み合わせれば、古代人が実際に飲んでいたビールを再現できるか、醸造の手順をどこまで模倣できるか、などを追求しているそうです。

新しいビールを再現するために、タップ氏はいつも3~4カ月かけて古代文明を研究しています。

現在製造中なのは1100年前に飲まれていた「バイキング・ビール(海賊ビール)」とのこと。

「ビールとは時を超えて歴史や文化をのぞくことができる驚きのレンズのようなものだと思います。現代に再現された古代のビールを飲むことで、紀元前8500年前から現代の人々が統一されるように思えるのです」

「現代の人々はここに古代のビールを飲みに来ることができます。古代人が飲んでいたであろう古代のビールを飲むことで、『ワオ、僕らが飲んでいるビールとまったく違うわけではないんだ』ということに気付くでしょう」

「古代のビールを飲むことで古代の文化が現代の文化に移動していく瞬間、それこそがまさに私を魅了するものです」

・関連記事
「5000年前の古代のビール」をスタンフォード大学の学生チームが再現 - GIGAZINE
5000年前の給与明細から給料が「ビール」だったことが明らかに - GIGAZINE
かつて飲まれた「虫入りビール」のレシピが公開、その効用とは? - GIGAZINE
世界のアルコール・お酒の歴史が約2分でわかる「Good Libations」 - GIGAZINE
さまざまなフレーバーのビールを造り出すデンマークのビールメーカー「To Øl」誕生のルーツとは? - GIGAZINE
・関連コンテンツ