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マンガの海賊版は「最新作の売り上げ減少」と「旧作の売り上げ促進」の2つの効果をもたらす

by Will

映画やテレビ番組、音楽、書籍など、世の中にはいろいろな海賊版が出回って正規版に影響を与えています。時には「海賊版も宣伝効果がある」と言われることがありますが、書籍においてもそれは当てはまるのかと調べを行ったところ、旧作においては実際に売り上げが伸びる傾向にあったことがわかりました。

書籍海賊版の売り上げへの影響:日本のマンガをケースとして | 慶應義塾大学 経済研究所
https://ies.keio.ac.jp/publications/7121/


Online Piracy Can Boost Comic Book Sales, Research Finds - TorrentFreak
https://torrentfreak.com/online-piracy-can-boost-comic-book-sales-research-finds/

研究を行ったのは慶應義塾大学経済研究所の田中辰雄氏。作品単位で海賊版がどれぐらい「拡散」されているかを調査して正規版の売り上げに与える影響を調査するとともに、出版社が共同で行った海賊版ファイル削除を自然実験として差分の差分による分析も試みた、というものです。


「海賊版サイト」には、海賊版ファイルへのリンクを集めた「リーチサイト」と呼ばれるものと、海賊版ファイルを置いている「サイバーロッカーサイト」の2種類があります。マンガやアニメの海賊版には業界も頭を悩ませており、2014年から一般社団法人コンテンツ海外流通促進機構(CODA)主導で海賊版から正規版へ誘導する「Manga-Anime Guardians Project」(MAGP)をスタートさせています。MAGPでは主にサイバーロッカーサイトを閉鎖させることを目的としているのですが、今回の調査では、ユーザーは海賊版ファイルを探すときに主にリーチサイトを利用していると考えられることから、リーチサイトを調査対象としています。

研究がカバーする作品は、MAGPが重点削除対象としている集英社・講談社・小学館・KADOKAWAの332作品と、対象には含まれていない162作品。このうち70%は電子化されており、書籍版と電子書籍版は別に集計を行ったため、実験群と対照群の作品を合わせるとトータルは840作品です。

なお、それぞれの作品から、データのサンプルとして「1巻」「中間巻(10巻構成なら5巻)」「直近2巻(10巻構成なら9巻・10巻)」の4冊を抜き出したので、データ量は3360冊分に上ります。

そして、対象作品のうち239作品は2014年までに完結していて、601作品は調査を行った時点では連載が続いていました。

この調査の結果わかったのは「連載中の作品の海賊版は正規版の売り上げを減少させる」「連載が終了した作品の海賊版は正規版の売り上げを促進する」ということでした。

連載が終了した作品で正規版の売り上げが伸びるのは、忘れ去られていた作品を思い出させる広告効果が発揮されたものと考えられています。

このように、海賊版のもたらす効果が不均質であることから、論文では最良の解決法を「海賊版サイトの閉鎖」ではなく「連載中作品の海賊版を削除すること」だと締めくくっています。

なお、同じようなことは音楽の世界でも起きていて、Sudip Bhattacharjee氏らによる2007年の論文「The Effect of Digital Sharing Technologies on Music Markets: A Survival Analysis of Albums on Ranking Charts」では、ファイル共有が有名アーティストのCDセールスの落ち込みを招いたものの、一方で無名アーティストのCDセールスは伸びたことが報告されています。

海賊版の削除はいたちごっこになっているので、YouTubeか、あるいはマンガ図書館Zのように、適切に権利者が収益を得られるようなシステムがあればよいのですが……。

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in メモ,   マンガ, Posted by logc_nt

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