「Nintendo Switch」発売に向けて任天堂の宮本茂がVRへの懸念やAIについて語ったインタビュー

By Samrat Sharma

任天堂の代表取締役で「スーパーマリオシリーズ」「ゼルダの伝説」の生みの親である宮本 茂氏に、国際ニュース誌TIMEが2017年1月に行われた「Nintendo Switch」の発表会でインタビューを行いました。インタビューで宮本氏は、3月3日(木)に登場するNintendo Switchの新機能「HD振動機能」についてや、任天堂という会社のあり方、宮本氏が考えるゲームデザインや、ゲーム業界にも取り入れられている最新技術の人工知能(AI)やVRについても語っています。

Nintendo Switch: 10 Things Shigeru Miyamoto Told Us | Time.com
http://time.com/4668908/nintendo-switch-miyamoto-interview/

TIME:
任天堂のゲームクリエイターである横井 軍平氏の独自の哲学である「枯れた技術の水平思考」について聞きたいのですが、この哲学が何らかの形であなたのNintendo Switchのアプローチに取り入れられましたか?

宮本 茂氏:(以下、宮本)
会社として任天堂は利用可能なすべてのいろいろな新技術を取り入れます。いくつかの会社は技術をより大切に扱っていて、そのような会社は常に最前線にありたいと思う傾向にあります。一方で任天堂は、技術よりも独創的な何かを見つけることに重点を置いており、私たちだけができることを探しています。そのため、横井さんの特定の哲学をそのままNintendo Switchを取り入れた、ということはありませんが、任天堂としては「楽しめるアイデア」を重要視しているので、そういう考え方は横井さんが確立した哲学のようなものであるように感じます。

横井さんは任天堂の考え方を一歩離れて冷静に観察していました。まだ若いころ、私たちはできるだけ早く前に進みたいという気持ちがありました。そんな時、横井さんは何度も私たちに「よく見る必要がある。一歩下がってすべてを観察するんだ」とアドバイスしてくれました。そんな風に私たちは横井さんからアイデアを形にするという重要性を学んだのです。日本語で常に誰かと反対のことを言いたがる人を「天邪鬼(あまのじゃく)」と呼びます。私たちがやろうとしているのは「天邪鬼」になることではありませんが、もし全員が同じことを言っている場合、私たちは少しの疑いを持って状況を鋭く見定める必要があり、私たちはそうやって成長してきました。

これは横井さんがいつも新技術に反対しているという話ではありません。横井さんは新しい技術を取り入れたいと思うと、ただ1日中じっくり眺めるんです。例えば、横井さんが磁石で浮遊するオブジェクトを手に入れた時、彼は机の上にそれを置いてただ眺めたり、遊んだり、観察したりするのです。そんな人だからこそ、多くの人が横井さんを信頼できたのだと思います。

TIME:
あなたはNintendo Switchの開発には携わっていないと聞きましたが、開発陣から外れてしまうできごとがあったのでしょうか?

宮本:
何かが180度ひっくり返るようなできごとがあったわけではなく、私や竹田玄洋さん、岩田聡さんも開発中にフィードバックをよく挙げていましたよ。私たちが開発陣にフィードバックを与え、必要であれば決断を下すことで、若い社員がより多くのプレゼンを私たちに披露できるようになります。私たちが挙げたアイデアは「良い使い方」に関することで、開発陣との重大なアイデアの衝突はなかったと思います。

むしろ私たちが考えなければならなかったのは開発費の方です。Nintendo Switchを独創的なものにしようとすると、「大変だ!想定よりすごくコストがかかっているぞ。どうやって対処しよう」と思ってしまいましたが、苦戦しながらもチーム一丸となってなんとかなりました。

TIME:
Nintendo Switchに対して、何か岩田氏の考えが反映されているところはありますか?

宮本:
先ほど3人でフィードバックと決断を行っていたと言いましたが、岩田さんはNintendo Switch開発のトップだったので、彼は実に多くの時間をNintendo Switchに注いでいました。Nintendo Switchの「本体をどこにでも持ち運べる」というコンセプトは、ユーザーがネットワークを作ってやり取りできるようにするシステムですが、まさに岩田さんが重点を置いていた部分でもあると思います。なぜなら岩田さんは技術通なので、私たちは楽しく遊べるようにどうやってネットワーク能力やサーバーの技術的な問題を解決するか、というようなことをたっぷり話し合いました。

例えば、私たちがDSでブラウザを使える機能を加えたとき、時間がたつにつれて、サービスがどんどん高度化していきました。そこで私たちは「モバイルデバイスや新しいブラウザをどうやって組み込むか?」ということを考える必要がありました。Nintendo Switchで岩田さんと話し合ったのも同じことで、ハードウェアの中で何ができるべきで、何がいらないか決断する必要があったのです。

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TIME:
Nintendo Switchには「触覚フィードバック(HD振動)」という新しい機能がありますが、より忠実な振動を得られるこの機能を組み込んだのはなぜですか?

宮本:
何はさておき、HD振動機能が完全にオリジナルなものであるという以外に、詳細を話すことはできません。ただひとつ言えるのは、HD振動機能は完全に新しい感覚をユーザーに与えるでしょう。NINTENDO64で「振動パック」を作ったとき、私たちはただコストとパフォーマンスのことを考えていました。コスト効率を求めた結果、私たちは振動のセンセーションを起こすことができたでしょうか?

任天堂には振動に関する機能や性能だけを研究している部門があります。数年にわたって振動部門があらゆる種類の振動をゲームに組み込むべくテストを続けた結果、それは単なる単調な振動ではなく、触感を感じるようになったのです。つまり、スクリーンの上でペンを使うと、それは鈍い振動ではなく、ペン先を滑らせているような触感が得られるのです。

現代のゲームは60fpsがスタンダードになっていますが、もし20fpsのゲームを作ったら怒られてしまうでしょう。インタラクティブなものはなんでもレスポンスのスピードがとても重要であり、仮想現実ではレイテンシによって体験に大きな違いが生じます。HD振動機能もレイテンシに注目しており、ほかにはない独特な体験が得られます。そしてその独特な体験から、さらなる新しいアイデアが生まれると思います。

TIME:
2014年にインタビューを行ったとき、「仮想現実(VR)は人が遊ぶためのベストな方法なのかどうか少し不安を抱いている」と述べていましたが、あれからその考えは変わりましたか?

宮本:
オンラインプレイのVRという観点から言うと、多くの問題が解決されたか、解決され始めていると思います。それは私たちが調査中のことでもあります。しかし、誰かがVRをプレイしているのを見ると私は心配になってしまいます。単なる例えなんですが、もし自分の子どもがVRばかりプレイしていたら、両親は子どものことを心配してしまうでしょう。開発者の観点では、どうやってVRで洗練された短いコンテンツを生み出すか、ということが誰もが直面する問題であり挑戦だと思います。

TIME:
あなたはもともとストーリー重視のゲームファンではなかったという記事を読みました。一方で、「ゼルダの伝説 ブレス オブ ザ ワイルド」というストーリードリブン系のゲームの草分け的なタイトルが任天堂から出ています。ゲームのストーリーに対する考え方は最近どうなりましたか?

宮本:
あなたが言うストーリーをプレイするゲーム、自分自身が冒険に乗り出すような気分になれるゲームをどう開発するかではなく、青沼英二さんと彼のチームの話から始めさせて下さい。それは彼らがゲームにおいてプレイヤーを冒険にのめり込ませるための、ストーリーと事実の独特なバランスを取る方法を見つけたと思っているからです。

私自身はストーリーの重要性を否定していますが、私がストーリーを嫌っているということではありません。私が思うに誰かがゲームをプレイしたあとに、ストーリーが心に残るかどうかが大切だと思います。私はゲームのセットアップにかかる時間を短縮することと、あらかじめ決まったストーリーをあえて説明することの2つは、ゲームを作る上での挑戦だと考えています。ゼルダの伝説で言えば、プレイヤーが登場人物に共感して、ストーリーにのめり込むことは重要だと思います。このゲームをプレイしている時、あなたはストーリーを自分の中で掘り起こし、ストーリーの裏側にある重要なバックグラウンドを見るでしょう。

一方で、私たちはゲームをプレイしたプレイヤーの経験がストーリーそのものだったと思えるようなゲームを作りたかったのです。ゼルダの伝説は2つのバランスを崩すことなく成立していると思っており、私たちが作りたかったゲームを達成できたタイトルだったと思っています。そしてこのゲームでは全員が、本当に異なるアプローチをとることができます。ゲームを完全にやり尽くすまでどれくらいの時間がかかるかわからないほどです。

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TIME:
山内 溥氏は、「クリエイティブを腐敗させないために任天堂は企業理念を持つべきではない」と語ったことがあります。その考えは今日まで受け継がれていますか?

宮本:
山内さんは自身の哲学を持たないという一種の個人的な哲学を持っていた人でした。この話の興味深いところは、哲学を持たないことが彼の生き方だったにもかかわらず、彼は会社にとって永続的な哲学をいくつも残したということです。そのうちひとつは「楽しい経験を提供して利益を得ている我々は、楽しいものを作るためだけにお金を使うべきだ」というものです。これは、事業主として目指すべきなのは会社を成長させることではなく、仕事を拡大することだということを意味しています。

山内さんは一貫してこのことを私たちに言い続けたので、多くの仕事をとても簡単にしてくれました。私たちはほかのことを考える必要はなくなり、ただ楽しみを提供し続けるだけで良くなったのです。ほかにも、独創的な考え方、ほかとは異なる考え方を持つというアイデアがあります。これは世界でも明白なことで、もしあなたがほかの人と同じことをしようとするなら、あなたはトップから遠ざかります。もし2番目か3番目を目指すのなら、ほかの人同じことをすればいいのです。つまり、トップになるには多くの努力を仕事に払う必要があるということです。

もしあなたが自分だけの何か、独特の何かをやっていて、スポットライトを浴びた時、すでにあなたは世界で一番になっているでしょう。だからこそ私は楽しいものを作る世界でナンバー1だと感じます。しかし、ナンバー1になるにはリスクを冒す必要があります。もしあなたがほかの人と同じことをしてナンバー1になりたいのなら、あなたはある種のタフである必要があります。そしてもちろん私たちはタフではないので、そんな風に他の人と戦うことはできません(笑)

このような考え方はまさに「エンターテインメント産業やクリエイティブ産業とは何であるか」ということと同じであり、岩田さんはこの考え方をビジネスに結びつけ、企業理念として任天堂の全従業員に伝えられるようにしました。

TIME:
残っている質問は、人間の脳より賢い「スーパー人工知能」についてです。人工知能の最大の進歩のいくつかは、ゲームや優れたゲームデザインに基づいて構築されるかもしれません。しかし、ゲームを元に進歩した人工知能は道を誤ってしまうという懸念があるのですが、もしかすると、あなたがゲームデザイナーとして同じことを考えていたのではないかと思っています。

宮本:
私が言えることは、「AI」や「音声認識」のような一般化された単語を使わないということです。なぜならそれらの技術にはゼロから10まで、初歩的なものから高度なものまで含まれるからです。これは私の哲学です。新しいゼルダをプレイすると、馬や敵が賢いことに気付くと思います。これらはすべてAIを使っています。楽しいものを作る業界でAIを使う時、コストパフォーマンスの話は出てきません。そこで私たちはどんな段階のAIを使う必要があるのか考えなければなりません。人工知能が進歩するにつれて、ビデオゲームで使える範囲も拡大すると思いますが、私は最先端のAIを使うほど大胆ではありません(笑)

音声認識のような分野でも、単純な見積もりだけですべてを使えるようになるわけではなく、やるべきことによってある程度の予測や推測作業が必要になります。一度これらの作業を済ませれば、どのような技術を使えるのか正確に突き止めることができます。例えば、医療分野では私たちには明らかにチャンスがありませんが、楽しいものを作る世界では、どこにどんなチャンスがあるのか推測することができます。そしてそれらのギャップを埋める方法を見つけて、楽しく直感的で簡単に使えるようにできれば、楽しく使いやすい経験を提供できるでしょう。そういう意味では、私たちにはやってみる機会に恵まれていると言えます。しかし、AIは間違いなく私が興味を持っているものです。ロボットやAIはどのようにセンサーをセットするかという類いのものですが、任天堂は間違いなくいろいろなセンサーに興味を持っています。

TIME:
ゲームのことでもゲーム以外のことでも、あなたが今後10年間で成し遂げたいと思っていることはありますか?

宮本:
会社としても個人的にもは、私たちは慎重にモバイル業界に関わってきました。携帯ゲーム機にもコンソールにもなるNintendo Switchのアイデアは、あらゆる可能性に新しい扉を開くと思っています。楽しみの産業では私たちが探索できるたくさんのことがまだまだあると思うので、私は今後10年間でこれらの可能性がどうなるのかについて基準を設けたいと考えています。

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in インタビュー,  ゲーム, Posted by darkhorse_log