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「受動喫煙と肺がんに関するJTの反論」を国立がん研究センターが完全論破


国立がん研究センターが2016年8月30日付けで出した「受動喫煙による日本人の肺がんリスク約1.3倍-肺がんリスク評価『ほぼ確実』から『確実』へ」という発表に対して、日本たばこ産業(JT)が「本研究結果だけをもって、受動喫煙と肺がんの関係が確実になったと結論づけることは、困難である」と発表しました。このJTの声明に対して国立がん研究センターはあらゆる論点で緻密に反論し、「完全論破」と呼ぶにふさわしい状態になっています。

受動喫煙と肺がんに関するJTコメントへの見解 << 国立がん研究センターについて
http://www.ncc.go.jp/jp/information/20160928.html

事の発端は、2016年8月30日に国立がん研究センターが発表した以下の研究(本研究)です。

受動喫煙による日本人の肺がんリスク約1.3倍 << 国立がん研究センター
http://www.ncc.go.jp/jp/information/press_release_20160831.html


これまで「受動喫煙」がもたらす肺がんリスクは、科学的なメカニズムは明確に立証されているものの、日本人を対象とした疫学研究では統計的な有意性が示されていなかったため、「ほぼ確実」という表現でリスク評価がされていました。なお、国際的な研究では受動喫煙と肺がんの関連性は科学的・疫学的に証明されており、「確実」という表現が明確にされているとのこと。

この「疫学的な証明」という欠けたピースをうめるために行われたのが国立がん研究センターによる本研究です。複数の論文を統合的に解析するメタアナリシスという手法を用いて日本人を対象とした9つの実験から、「受動喫煙による肺がんリスクは約1.3倍である」という統計的な有意性が認められたとして国立がん研究センターはホームページ上で公表。この結果を受けて国立がん研究センターは、「日本人のためのがん予防法」での記述にある「(他人のたばこの煙を)できるだけ避ける」という表現から「できるだけ」という文言を削除して、端的に「避ける」と変更するなど、受動喫煙の防止が「努力目標」であった従来の方針から、「明確な目標」にすべきだと提言していました。

この本研究の結論に反対したのがJTで、以下の通りのリリースを出して「しかしながら、JTは、本研究結果だけをもって、受動喫煙と肺がんの関係が確実になったと結論づけることは、困難であると考えています」と発表していました。

受動喫煙と肺がんに関わる国立がん研究センター発表に対するJTコメント | JTウェブサイト
https://www.jti.co.jp/tobacco/responsibilities/opinion/fsc_report/20160831.html


その理由についてJTは以下の3点を挙げています。

◆1:調査選択の恣意性
1つめは、受動喫煙を受けない集団でも肺がんは発症するものだという意見。さらに今回国立がんセンターによって選択された9つの研究調査の中にも、約5万人の非喫煙女性中の受動喫煙を受けない肺がん死亡者は42人であり、受動喫煙を受けた肺がん死亡者は46人とその差が小さいことを示す研究がある、と指摘します。


これに対して国立がん研究センターは、まず、JTによる「9つの論文を選択し」という表現にかみついています。このような表現は、まるで国立がん研究センターが恣意的に論文を選択したとの印象を与えるので不適当だと、痛烈なジャブを見舞っています。


そして、JTが挙げる「約5万人の非喫煙女性中の受動喫煙を受けない肺がん死亡者は42人、受動喫煙を受けた肺がん死亡者は46人」というデータは、9つの論文のうち、受動喫煙による相対リスクが最も小さい研究を恣意的に選んだものだと反論しています。「国立がん研究センターによる恣意的な選択操作」を臭わせているJTこそ恣意的な選択をしているではないか、というわけです。さらに、リスク評価にあたっては、「1日3時間以上」という受動喫煙の曝露量が多い条件下では男性の肺がんでの死亡リスクが5.29倍に上がるという極めて顕著な結果もあったものの、過大な評価を避けるために中程度のレベルの値をあえて選んだ結果、「1.3倍」という評価を下したものであり、数値には統計学的な有意性があると述べています。


また、JTが挙げる研究でさえ国立がん研究センターが報告するメタアナリシスの下限値を満たしており、他の研究間で矛盾のない結果であるとした上で、「受動喫煙を受けていないと回答した者でも、唾液や尿などの生体指標を調べると、たばこの煙由来の成分が検出されることがあり、受動喫煙を受けていない者に発生する肺がんの一部はこのような誤分類が原因である可能性」があるため、実際の数値は実験で観察された数値以上である可能性すらあると反論しています。

◆2:異なる条件下での統計学的意義
JTは、「今回の選択された9つの疫学研究は研究時期や条件も異なり、いずれの研究においても統計学的に有意ではない結果を統合したもの」と、実験の条件が異なる研究結果の統合であるため統計的な価値が低いと指摘しています。


これに対して国立がん研究センターは、諸条件が異なるからこそ恣意性や取りこぼしを避けるためにメタアナリシスという手法が採られているのであって、本研究では国際的なガイドライン(PRISMA)に基づいて信頼性が担保された状態で行っていると反論しています。


さらに、本研究では「研究時期や条件が異なる複数の研究で、1件を除いてすべて受動喫煙と肺がんとの関連を示す結果が得られており、このことがむしろ、受動喫煙と肺がんとの関連の確かさを示している」と述べ、異なる条件下でも「同一の結果」が得られているという事実こそ、受動喫煙と肺がんとの強い関連性を示唆するものであると、JTの指摘を逆手に取っています。


◆3:異なる結論を導く研究の存在
JTは、「受動喫煙によってリスクが上昇するという結果と上昇するとは言えないという結果の両方が示されており、科学的に説得力のある形で結論付けられていない」と述べています。つまり、国立がん研究センターの出した本研究とは異なり受動喫煙による肺がんリスクはないとする研究があるため、いまだ確固たる結論が出されているわけではないという主張です。


これに対して国立がん研究センターは、世界保健機関(WHO)の下部組織である国際がん研究機関(IARC)はたばこ煙の人に対する発がん性を認めており、米国公衆衛生総監報告書でも因果関係が推定されると結論づけているとおり、権威ある研究機関によって受動喫煙によるリスクは認められていると述べています。


さらにはJTが言う「異なる結論の研究」の中には、フィリップモリスなどのたばこ企業が組織的に干渉した結果生まれた事実がねじ曲げられた信頼に足りない研究があると、たばこ産業側の意図に従って行われる恣意的な研究の存在を痛烈に批判しています。


そして、JTが反論リリースの最後に出した「受動喫煙については、周囲の方々、特にたばこを吸われない方々にとっては迷惑なものとなることがあることから、JTは、周囲の方々への気配り、思いやりを示していただけるよう、たばこを吸われる方々にお願いしています」という意思表明に対しては……


「受動喫煙は『迷惑』や『気配り、思いやり』の問題ではなく、『健康被害』『他者危害』の問題である」とバッサリ切り捨てています。


自身の主張をことごとく否定されたJTが、どのような再反論に打って出るのか、それともだんまりを決め込むのか注目に値しそうです。

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in メモ,   サイエンス, Posted by darkhorse_log

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