デザイン

バイオハザードのマークはどのようにデザインされたのか?

by Tony Webster

細菌やウイルスなどの有害物質が、実験室や病院から外部へ漏れ出して引き起こる災害を「バイオハザード(生物災害)」と呼び、有害物質の存在について警告するためのシンボルマークが制定されています。このシンボルマークが一体どのように作られたのかを、デザインや建築について語るラジオ番組「99% Invisible」が解説しています。

Biohazard: Iconic Symbol Designed to be “Memorable but Meaningless” - 99% Invisible
http://99percentinvisible.org/article/biohazard-symbol-designed-to-be-memorable-but-meaningless/


バイオハザードのシンボルマークが統一される以前は、危険物質の存在を示すマークが山のように存在していて、科学者は危険な試料を用いる際にあらゆるマークを扱う必要がありました。例えば20世紀前半には、アメリカ陸軍研究所は青い逆三角形、アメリカ海軍はピンク色の長方形、国際郵便は紫地に白い杖と蛇を描いたマークを使用していました。そこで1966年に、化学メーカーのダウ・ケミカルに勤めるCharles L. Baldwin氏とアメリカ国立衛生研究所(NIH)のRobert S. Runkle氏が共同で、(PDFファイル)バイオハザードのマークに関する論文を科学雑誌のScienceに投稿し、今日世界中で採用されることとなったバイオハザードのシンボルマークを発表しました。


シンボルマークの制定にあたって、放射能汚染や生物的危険がほとんど目に見えない上に無味無臭のため、危険性を記号化するのは非常に困難でした。また、危険な微生物・ウイルス・毒素の存在を警告するため、視認性の高いマークを作る必要がありました。ダウ・ケミカルでは「危険を示すマークが統一されていないため、実験者が危険物質に侵される可能性が高い」と懸念していて、この問題を処理するために社内のエンジニアとデザイナーが共同で統一マークについて取り組み始め、まずシンボルマークを作るために以下の6つの基準を決定しました。

・注意を喚起できる形状
・他のシンボルマークと混同しにくい、特有かつ明確な形状
・容易に認識でき、思い出すのも簡単な形状
・容易に謄写可能
・どの角度から見ても視認しやすい対称的なデザイン
・さまざまな民族に受け入れられるデザイン


ダウ・ケミカルのチームでは上記の6つの条件を踏まえて、マークの候補を制作し、さらに「覚えやすく無意味なデザイン」を選ぶためにテストを実施しました。Baldwin氏はインタビューに対して、「我々は記憶に残りやすく、なおかつ無意味なデザインを求めていました。そうすれば、人々がマークの意味に慣れることができるためです」と語っています。

テストでは、まず25の都市の市民300人を対象に、バイオハザードのシンボルマークの候補を6種類を見せて、さらにクラフトフーズのキャラクター・Mr. Peanutや、燃料ブランドのテキサコの星マーク、シェル石油、赤十字、ナチスの国章など18種類の有名なマークを見せました。参加者はそれぞれのマークの意味を回答して、プロジェクトチームでは回答をもとに「マークの意味」を点数化。さらに1週間後、プロジェクトチームが作成したオリジナルマーク24種類と既存のマーク36種類の合計60種類のマークについて、参加者に「1週間前に見たマークはどれか」という尋ね、回答をもとに「マークの覚えやすさ」を点数化しました。

6種類の候補の中で最も覚えやすく、他のマークと意味が重ならないということで高い点数を記録したのが、円を三つ葉型に組み合わせたマークでした。このマークは一見複雑なデザインに見え、扉や箱などに謄写するのはやや難しいものの、直定規とコンパスのみで描くことが可能です。


また、三方対称のデザインであることから、箱を上下逆さまに置いてしまっても認識しやすいというメリットもあります。


選ばれたバイオハザードのシンボルマークは、「既存のシンボルマークと似ていない」という点を重視して作られたものでした。しかしながら、日本の家紋のひとつで、歌舞伎役者の坂東三津五郎の家紋「三つ大の字(みつだいのじ)」が、バイオハザードマークに非常によく似た形をしていると指摘されています。


また、バイオハザードマークは、数十年前に考案された放射性標識に形が似ているという指摘もあります。放射性標識は、X線装置やレーザー治療機器、粒子加速器などを示すマークとしてカリフォルニア大学バークレー校で作られました。


放射性標識は、中心の原子から放射線が出ていることを示す非常にシンプルなデザインですが、古代ローマ時代によく似たデザインの盾が存在しています(画像右下)。


Baldwin氏とRunkle氏は論文において「バイオハザードの実質的・潜在的な危険性を示すために、機器、コンテナ、部屋、物質、実験動物にバイオハザードのシンボルマークを使用する」と主張し、バイオハザードという単語を「人間に直接的・間接的な危険をもたらす伝染因子」と定義づけていました。アメリカ軍生物実験室、農務省、国立衛生研究所が6カ月間かけてマークの使用用途について協議し、アメリカ疾病対策センター(CDC)と職業安全衛生管理局(OSHA)がマークを採用したことで、アメリカ国内でバイオハザードの危険性を示すマークとして三つ葉型のシンボルマークが普及しました。


しかし、マークが普及すればするほど、バイオハザードマークが描かれたバッグや小物などが登場し、皮肉にも「危険物質について警告し人命を救う」という本来の効果が徐々に薄れ始めました。


そこでCDCでは危険物質を分類するため、新たに4段階のバイオセーフティーレベルを制定しました。

バイオセーフティーレベル1:健康的な人間には影響しない危険物質。研究所は常に施錠し、関係者のみ立ち入ることができ、施設内での飲食は基本的には禁止。施設自体を隔離する必要はない。
バイオセーフティーレベル2:人間が感染する可能性はあるが、研究所の中では取り扱うことが可能。施設の入退室時や、鋭利な物を使用する場合に、注意が必要。
バイオセーフティーレベル3:吸い込むと重大な病気や死のおそれがある危険物質。取り扱いには保護服が必須で、物質を保管する部屋は無菌室かつカーペット禁止。床、壁、窓、扉は密閉しなければならない。
バイオセーフティーレベル4:人間に致命傷を与え、ワクチンや治療法が存在しない危険物質。高度な訓練を身につけた人間が高圧スーツを着て扱う必要があり、入退室時には気密式出入口を通って、汚染物質を除去しなければならない。

バイオセーフティーレベルが制定されたおかげで、研究者は日常にあふれるバイオハザードマークに混乱することなく、危険物質を扱うことができるようになったとのことです。

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in サイエンス,   デザイン, Posted by darkhorse_log