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75年前にデジタル革命の扉を開いた世界初のプログラム可能なコンピューター「Zuse Z3」と、次の75年で実現される技術とは?


「0と1」だけで全てを表すコンピューターが人々の生活に深く入り込み、今やコンピューターのない生活など考えられない社会になりましたが、その原形となる機械が作られたのは、ほんの75年前のことでした。当時のドイツ・ベルリンで開発された「Zuse Z3(ツーゼZ3)」は、それまでの計算機とは違う「プログラムを使って制御可能」という機能を備えた計算機で、現代のコンピューターにつながるルーツと言われています。

Konrad Zuse and the digital revolution he started with the Z3 computer 75 years ago | Sci-Tech | DW.COM | 11.05.2016
http://www.dw.com/en/konrad-zuse-and-the-digital-revolution-he-started-with-the-z3-computer-75-years-ago/a-19249238

Zuse Z3は、ドイツの土木技術者であり、発明家でもあるコンラート・ツーゼ(Konrad Zuse)氏によって発明されたマシンで、1941年5月に完成して稼働させることに成功しました。当時は2度の世界大戦が起こる不安定な世界情勢であり、イギリスのアラン・チューリングらが1940年に開発した「Bombe(ボンベ)」や、アメリカで1946年に開発された「ENIAC(エニアック)」などの計算機が発明されていましたが、現在に通じる「二進法」での動作が可能で、かつプログラムを自由に組み替えて動作が可能なZ3こそが現代のコンピューターの始祖であるという意見が多く存在しています。

ツーゼ氏がZ3を完成させた当時は、まだ現代のコンピューターには欠かせないトランジスタは存在していない時代でした。コンピューターが演算を行うためには0と1の信号をスイッチング(オン/オフ)するという処理が必要であり、当時はここに真空管が使われることが多かったのですが、ツーゼ氏は真空管に加えてリレーを使ってこれを実現させています。Z3には2200個のリレーが使われ、その重量はなんと1トンにも及び、プログラムと出力データはセルロイド製のフィルムに穴を開ける「パンチャー」で管理されていたとのことです。

By Venusianer

当時のコンピューター(または計算機)は暗号解読や弾道計算に用いられることが主な目的でしたが、ツーゼ氏が1941年に完成させたZ3は、飛行機の翼に生じる振動「フラッター」の現象を解明することが目的だったとのこと。そんなZ3は1943年の「ベルリン爆撃」で破壊されたのですが、1960年代にツーゼ氏の会社「Zuse KG」によって完全復元され、ミュンヘンにあるドイツ博物館で永久保存されています。

Z3の設計は、ブーリアン演算に基づいて2進法で情報を表すフリップフロップ回路が用いられており、この方式の採用が現在につながる技術の基礎になっているとのこと。「マシン語」やBasic、そして現代のJavaScriptを始めとするプログラミング言語や、巨大なデータベースを管理するアルゴリズムなど、コンピューターの基礎中の基礎がZ3では形になっていました。

まさに、Z3こそが現代のコンピューター技術の始まりの地点と言えるわけですが、そこから始まって飛躍的な進化を遂げるコンピューター技術と、それによってもたらされた社会をツーゼ氏らがどこまで予見できていたのかは確かではありません。トランジスタが発明され、電子回路の高集積化が可能になってことでコンピューターの小型化が飛躍的に進みました。その黎明期には大きな部屋1つ分ほどもあったコンピューターが、現代では指先に乗るほどの小さなチップに集約されることになったことで、コンピューターは「1人1台」をはるかに通り越し、いまや全てのモノがインターネットでつながる「モノのインターネット」と呼ばれる社会が到来しようとしています。

Z3の生みの親であるツーゼ氏は、1995年にこの世を去っています。奇しくもこの年はMicrosoft Windows 95が発売され、爆発的にコンピューターの普及が始まった時代でした。

By Wolfgang Hunscher, Dortmund

「ほんの75年前」には想像もつかなかった社会が実現しようとしているわけですが、それでは「次の75年」で社会に普及する技術はあるのでしょうか。IBMで研究員を務めるアンドレアス・ファーラー氏は「量子コンピューター」こそが次のコンピューター社会の核となるものであると語ります。1982年代に概念が提唱された量子コンピューターは、「0と1」という2つの状態を同時に取れる粒子である量子の特徴を用いた量子ビットを利用するコンピューターで、もし実現すると現在のスーパーコンピューターが数千年かかっても解けないような計算を、ほんの数十秒といった短い時間でこなすことができると考えられています。

また、急ピッチで進化が続いているAI(人工知能)の技術もごく一般的なものになる日がやってくると予測されています。オーストラリア・スインバン大学のマシュー・ベイルズ教授は「きっと将来、『2016年にはなんと原始的なデバイスを使っていたんだろう』と考える日がやってくることでしょう。AIは最も重要なテクノロジーとなります。そして、AIは人類による技術進歩における、最後の最も重要な革命となるでしょう」と語っています。

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in ハードウェア, Posted by darkhorse_log

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