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RPGの元祖「ダンジョンズ&ドラゴンズ」が殺人・レイプ・自殺の元凶であるという社会パニックを呼んだ経緯とは?


アメリカのTactical Studies Rulesから1974年に発売され、世界初のロールプレイングゲームでもあるテーブルトークRPGが「ダンジョンズ&ドラゴンズ」です。幾度となく新しいバージョンが発売され、オリジナルの発売から約42年が経過した2016年時点でも新しいバージョンがプレイされているダンジョンズ&ドラゴンズですが、発売当初はゲーム内容が悪魔崇拝につながり、若者による殺人や自殺に関係しているとしてアメリカで大きな論争が巻き起こりました。いかにしてダンジョンズ&ドラゴンズが子どもに悪影響を与えるゲームとしてアメリカで認知されていったのか、その経緯をまとめたムービーをRetro Reportが公開しています。

Dungeons & Dragons: Lessons from a Media Panic | Retro Report - YouTube


ダンジョンズ&ドラゴンズが悪魔崇拝と関連していると非難される原因となったのがジェームズ・ダラス・エグバート君の行方不明事件です。エグバート君(失踪当時15歳)は、1979年に当時通っていたミシガン州立大学の学生寮から突然いなくなってしまい、心配した両親が探偵に相談しました。


エグバート君の両親が依頼した探偵がウィリアム・ディア氏です。ディア氏は依頼を受けて、エグバート君を探し出すべく実際にミシガン州立大学に出向いて調査を開始。


エグバート君の部屋を調査していると、押しピンが刺されたコルクボードが発見されました。一見しただけでは違和感がありませんが、ディア氏はこれがエグバート君によって残された隠しメッセージだと推測。


押しピンの形はでたらめに並べられたように見えますが……


何と大学の地下に配備された蒸気トンネルでないかと考えられました。他の学生が「エグバート君が蒸気トンネルに出入りしていた」という証言を得られたことも、ディア氏の推理を一押ししていたとのこと。


「1人の学生が蒸気トンネルで行方不明」というだけでニュース性があったためか、エグバート君の失踪事件は瞬く間に新聞で取り上げられます。ディア氏は調査を進めるうちに、エグバート君と蒸気トンネルを結びつける重要なあるモノが存在することを突き止めました。


それがダンジョンズ&ドラゴンズです。


ダンジョンズ&ドラゴンズはファンタジーを題材としたテーブルトークRPGで、ゲームには悪魔や魔女といったダークファンタジー的な要素が登場します。


ダンジョンズ&ドラゴンズはプレイヤー全員が駒をボードの上で動かすというボードゲームとは違い、各プレイヤーがスコアをメモしながら頭の中でストーリーを組み立てるという、想像力を要するゲーム。この想像力を要するゲーム性と魔女や悪魔と言ったダークファンタジー的な要素が、子どもの思想に悪影響を与えているのではないかと当時の大人たちは考えており、探偵のディア氏もその1人でした。


「現実世界を離れてファンタジーの世界にいき、殺人や首切りといった行為を行う。これが健康なゲームと言えますか?どう解釈すれば健康なゲームになりえるのでしょうか?」と、2016年現在のディア氏は述べています。


ディア氏は「エグバート君が蒸気トンネル内でダンジョンズ&ドラゴンズをプレイしていた」と推測し、ダンジョンズ&ドラゴンズがエグバート君の失踪に何らかの影響を与えていたと考えました。「1人の学生が、教育上よろしくないと考えられているダンジョンズ&ドラゴンズを蒸気トンネル内でプレイし失踪した」という推測は話題性が十分あり、多くの新聞がエグバート君の失踪事件をダンジョンズ&ドラゴンズに絡めて報じました。報じたメディアの中には「ダンジョンズ&ドラゴンズの犠牲となったエグバート君」と、かなり偏向的なものもあったとのこと。しかしながら、全く別の場所でエグバート君が発見されたという連絡がディア氏のもとに入り、蒸気トンネル内の捜査は打ち切りとなります。


エグバート君の失踪した理由が明かされることはありませんでしたが、もともと心を閉ざしたような少年であり、失踪事件の後、数カ月後に自殺してしまいます。


その後、ディア氏はダンジョンズ&ドラゴンズがエグバート君の失踪事件に関係していると主張する本を執筆。ダンジョンズ&ドラゴンズの制作に関わり公式ガイドブックの編集を行ったティム・カスク氏は「彼が本を出版したのは単に金儲けのためだ」と批判しています。


しかし、エグバート君の失踪事件の後、ダンジョンズ&ドラゴンズの売上は爆発的に増加。事件がゲームの認知度を高め、子どもたちの興味を引いたと考えられます。


爆発的な人気を得る一方で、ダンジョンズ&ドラゴンズの販売を停止させようとする反対派が登場。


長年にわたってダンジョンズ&ドラゴンズや、その影響を調査してきたノースウェスタン大学社会学部のギャリー・アラン・ファイン教授は「キリスト教原理主義者たちはダンジョンズ&ドラゴンズが悪魔崇拝の要素を含んでおり子どもへの影響を心配するべきゲームであると考えました」と話しています。


ダンジョンズ&ドラゴンズはテレビでも「悪魔崇拝・魔女の思想・ブードゥー教・殺人・レイプを教えるゲーム」と取り上げられ、反対派がどんどん増加することに。


ダンジョンズ&ドラゴンズの制作・販売を手がけたゲイリー・ガイギャックス氏は、ゲームに反対する声を何とか抑えようと心理学者を雇ってゲームを分析してもらい、ゲームが子どもたちに悪影響を与えないことをラジオで放送しますが焼け石に水状態。さらに、「レイプの加害者がダンジョンズ&ドラゴンズをプレイしていた」「自殺した高校生はダンジョンズ&ドラゴンズのプレイヤー」など、若者による殺人やレイプ、自殺が起こるたびにダンジョンズ&ドラゴンズを絡めた報道をされ、子どもを持つ親の間でダンジョンズ&ドラゴンズの出版を禁止してほしいという声が増加していったとのこと。


さらには、自殺してしまった子どもの親がテレビで「ダンジョンズ&ドラゴンズをプレイしていたことが自殺の原因。ダンジョンズ&ドラゴンズは暴力的な思想やネガティブな思想を子どもに与える」と発言し、ダンジョンズ&ドラゴンズは大きな批判を浴びることになり、社会全体を巻きこんだ大騒動になったというわけです。


「当時ダンジョンズ&ドラゴンズをプレイしていたのは、週末にダンスパーティーやデートに行かず、オタクと呼ばれるような子どもたちでした。若者が自殺する原因にはさまざまな要素があり、ダンジョンズ&ドラゴンズが自殺の直接的な原因となったことは、私の調査ではありませんでした」とファイン教授は分析しています。


爆発的な人気を得ている反面、反対派も多く存在したダンジョンズ&ドラゴンズはメディアで取り上げられまくり、書籍だけでなくエグバート君の失踪事件を題材にした映画「トム・ハンクスの大迷宮」が若かりし頃のトム・ハンクス主演で公開されました。


SF作家、ブロガー、ジャーナリストの肩書きを持つコリイ・ドクトロウ氏は「ダンジョンズ&ドラゴンズを中心としたメディアや国民の混乱は非常に滑稽でしたね。キリスト教原理主義者がダンジョンズ&ドラゴンズを悪魔崇拝と結びつけたのは本当にばかげていましたよ」と当時を振り返ります。


2016年現在、ダンジョンズ&ドラゴンズを暴力や悪魔崇拝と結びつける声は全くありません。それどころか……


三度エミー賞を受賞したスティーヴン・コルベア氏や、小説家としてピューリッツァー賞フィクション部門を受賞したジュノ・ディアズ氏がダンジョンズ&ドラゴンズの熱狂的プレイヤーだったことから、ゲームが創造性・リーダーシップ能力・交渉能力を育て子どもに良い影響を与えられると考えられています。


「僕がダンジョンズ&ドラゴンズをプレイしているのを見た母親はパニックになって、僕のことをものすごく心配していたよ。でも、私はゲームから情熱や勇気というのを学びました。また、どうやって善悪の判断をするのかという現実の世界でも非常に重要なことを教えてもらいましたね」と話すディアズ氏。


ファイン氏は「多くの人々は、子どもたちが真っ暗の映画館で映画を見ることがどのような影響を与えるのか心配していました。それから30年経過すると、今度はその子どもたちが成長して大人になり、自分の子どもが自由時間に何をしているのか心配しています。セクスティングやいじめといった問題がそれに当たりますね。しかし、これは新しい社会現象ということではありません。ただ単に子どもの自由時間における行動が、新しいテクノロジーの登場により変わっただけなのです」と話しています。


2016年現在、友達とグループを組みコミュニケーションを取るダンジョンズ&ドラゴンズは、子どもを持つ親に歓迎されており、セクスティングやいじめといった現代の社会問題を解決するツールになるのではと期待されています。

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in 動画,   ゲーム, Posted by darkhorse_log

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