取材

Fate/stay night[UBW]の美術・撮影・演出スタッフが大集結して制作裏話を語った「Fate/stay night[UBW]をつくった。(~ed:完了形)」セミナーレポ


10月10日から10月12日まで徳島市内で開催された「マチ★アソビ vol.15」では、普段は聞けないアニメ関係者のトークイベントがいくつも行われました。10月11日の午後からは「Fate/stay night [Unlimited Blade Works]」の放送終了を記念して、「Fate/stay night[UBW]をつくった。(~ed:完了形)」というテーマでデジタルクリエイター人材発掘セミナーが実施されました。

デジタルクリエイター人材発掘セミナー Fate/stay night[UBW]をつくった。(~ed:完了形) マチ★アソビ
http://www.machiasobi.com/events/dezikuri.html

Fate/stay night [UBW] をつくった(~ed:完了形) (デジタルクリエイター人材発掘セミナー) :: 公益財団法人 とくしま産業振興機構
http://www.our-think.or.jp/?p=292561

会場は、新町川沿いの藍場浜公園のとなりにある、あわぎんホール。


デジタルクリエイター人材発掘セミナーは5階の小ホールで行われました。


開始1時間前から多くの人が列を作って待っています。


通路の角を曲がってまだまだ列が伸びていました。


開場すると店員150名分の席が瞬く間に埋まり、会場後方に追加でイスが並べられていました。


まずはセミナーのために作られた、Fate/stay night [Unlimited Blade Works]の特別ムービーの再生。


昨年のマチ★アソビ vol.13で行われた「Fate/stay night[UBW]をつくる(ing:現在進行形)」に引き続き制作プロデューサーの近藤光氏と、美術監督の衛藤功二氏、撮影監督の寺尾優一氏が講師として登壇。近藤プロデューサーが「眉山山頂で午前中にやったトークステージから移動してきた人はいる?」と聞くと客席から多くの手が挙がり、「みんな猛者すぎるよ!」と講師陣が驚く場面も。


Fate/stay night[UBW]は、前作の「Fate/Zero」制作中には全く話が出ておらず、TYPE-MOON10周年記念のTYPE-MOON Fes.会場で原作者の奈須きのこさんから「ゲームのオープニングムービーを担当したufotableの作るFate/stay nightが見たい!」と言われて企画が始まったそうです。制作決定から絵コンテを作り、具体的にどうやって放送段階の作品にまで落とし込んだかという流れを、配布資料を見ながら説明が行われます。なお、この冊子は寺尾さんのこだわりで、Fate/stay nightのBlu-ray BOXにちょうど収まるサイズになっているそうです。


まずは美術監督の衛藤さんから「美術監督は何をしているのか?」という説明が行われます。アニメの背景のベースとなるイメージボードを1作品につき300~400枚描き、作品の背景の指針となるものを作る仕事で、作品に登場する背景の見本となるものを描いて色を付けていくという作業を行っているとのこと。


寺尾さんの撮影監督としての作業は「いろんな素材を最後にとりまとめること」で、絵コンテが上がった後に「背景」「CG」「作画」に3分割された素材を最終的にすべて集めて調整する仕事。作画は紙の上、背景はデジタルペイントと、作業環境が異なるので、その上にCGをのせると質感の違いから絵としてぐちゃぐちゃになってしまうのですが、Fateであれば「Fateの絵」となるように撮影時に小さな微調整を繰り返してひとつの世界観にしていくというのが撮影監督のミッションとのこと。監督や演出担当とセッションしながら、「この作品の空気感はこういうものかな?」と話して作っていくそうです。


さらに、Fate/ZeroとFate/stay nightのセイバーの召還シーンを撮影前と撮影後で比べる映像が流されました。こちらが撮影前。


こちらが撮影後で、セイバーの金髪や肌の色はFate/stay nightの方が前に出ています。Fate/stay nightは作品の重厚さにキャラクターが正しく飲まれて背景になじんでいて、背景のディテールにキャラクターを合わせるために気を遣っていたそうです。


撮影工程を説明するムービーを再生しながら、寺尾さんは会場のお客さんにアニメの作り方がどれくらい伝えられているのか分からないけれど、好きなものをより深く知ることで、知らずに見た時よりも得られるものがあると語り、「アニメーションの映像を見ていてどういう風に出来ているのか、感動した中身がどこからきているのかを知ったり想像したり感じることでより深く楽しめるのかな」とコメントしていました。

近藤プロデューサーは、現場の大変さはお客さんが知らなくていい部分だけれども、今回のデジタルクリエイター講座のテーマとして「徳島から出て行こう」と相談されていて、会場の中から一人でも二人でも業界に入ってくれたらいいなと語っていました。実際に小中学生向けのデジタルクリエイター養成講座の生徒からufotableに入社した人も出てきているそうです。


続いては、衛藤さんの作った背景作品が「空の境界」から「Fate/stay night」まで次々と再生されました。


空の境界からFate/Zeroまでは、衛藤さんは写真のような舞台を作りたくてやってきたそうです。ただ、みんなに写真みたいだと言ってもらえても、「自分は写真しか描けないのかな」という思いが生まれていたとのこと。


例えばビルの夜景のシーンでは、奥のビルまで細かく描いていたのですが……


Fate/stay nightでは自分の中の引き出しを増やしたいという気持ちから、絵のディティールを減らしてキャラクターを目立たせるやり方に調整したそうです。空の境界であれば4日くらいかけて描いていたところを、奥の方は点々でぼかして実質1日もかけていないくらいのスピードで作ったとのこと。


以下のシーンも実は1日かかっていないという衛藤さんの発言に、会場からは「おおお……」と驚きの声が上がりました。寺尾さんは「美術のチームは『すばやく描く』ということに特化していますよね」とコメントがあり、プロとアマチュアの違いは時間のコントロールができることで、プロは1日で作業できる時間が限られていると講師陣全員が同意。衛藤さんはFate/stay nightの#00と#01の美術には時間をかけて、最終話はあまり時間をかけなかったけれども#00よりいい感じに仕上がったと語っていました。


Fate/ZeroからFate/stay nightになって美術の手法を変えたところの説明。Fate/Zeroでは紫色で塗られた葉っぱの影まで細かく描いていたそうです。


Fate/stay nightでは影の部分を1つのカタマリとして塗りつぶして処理してるとのこと。アニメでは1秒から2秒で画面が変わってしまうので、明るい面・暗い面を分かりやすくした方が目に残って効果的な場合もあるそうです。背景はキャラクターを立たせるためのものでもあるので、描く前に完成形をイメージして、見せるとこは見せる、見えないところは目が行かないように目立つ部分に光のポイントを当てるようにしている、と解説がありました。


衛藤さんが「Fate/stay nightで一番大変だった」と語る、ロンドンの街並み。


ロンドンの街並みは集中して描いたので、締め切り1日前まで作業をしたそうです。資料がほとんどない中で、奈須さんのロンドン旅行の動画を参考にして完全に手書きで作ったとのこと。情報を取り寄せるのが難しく、作品の舞台となった時代のロンドンでは、実際にはまだ超高層ビルがいくつか建っていないそうです。「ロンドンに連れて行ってくれたらいい写真を撮ってくるのに。あと半年スケジュールがあったらな……」という要望に、近藤プロデューサーからは「未来永劫なさそうだよね」と現実的なコメント。


朝と夕方で光源の方向が全部違うのが大変で、ビルの落ち影を見ると、浅い夕方と深い夕方でも影が変わっている様子が分かるので、ぜひBlu-rayで一時停止して見てほしいとのこと。


次のテーマに移る前に質問コーナーが設けられました。寺尾さんへの質問は「撮影で火花や煙、残像などをどんどん重ねていくというのは理解できたが、それぞれの火花や爆発などはどうやって作るのか?」というもの。

実際に撮影の順番を見てもらおう、ということでバーサーカー戦の作業風景が再生されました。「バーサーカーが大きい武器を速く振ったら土煙が起こるだろう」ということで風圧の素材や煙や土砂を作っていき、100枚ほどのレイヤーを重ねて1枚の絵にしていくとのこと。これまでは回転している煙を作るのが難しかったのですが、渦を巻くような煙のエフェクトを使えるようになったのでバーサーカー戦では多く使っているそうです。煙はCGで作ったり、実際にスタジオのある建物の屋上で煙をたいて撮影したものを加工したりしているとのこと。


オープニングの背景は雲やタイトルロゴで隠れてしまうのですが、実はしっかり描き込んである模様。


作品がまだ始動したばかりで参照できる絵がほとんどがなかったので、何度もリテイクを重ねたそうです。他にも、セカンドシーズンのオープニングでアーチャーと士郎が向かい合っているカットは、背景に合わせてスモークを足していくと士郎がシルエットになってしまうので、上半身だけがよく見える煙を作るために何度も何度も直したとのこと。


近藤プロデューサーは「ufotableは雲がきれいだねって言われるけど、背景で描いたり3Dでやったりいろいろやっていて、最近では背景の質感を3Dに混ぜてくださいというすごいオーダーもある」という話を披露。現在は3Dの素材はデジタル部の人たちが作っているのですが、美術の3Dは美術がやっちゃえばどうか?というチャレンジが始まったところだそうです。

ここでFate/stay night [Unlimited Blade Works]の絵コンテ・演出を担当した白井俊行氏、栖原隆史氏、三浦貴博監督が登壇。三浦さんから見て演出美術は?という質問に、コンテを描いている段階からスタッフの性格や力量も計算してやらないといけないのですがコンテができる前から「こうなるだろう」っていう絵が仕上がっているのがさすがだ、と三浦さん。美術は全部クオリティが高い中で、たまに1枚とんでもないのが混ざっていることがあり、だいたい衛藤さんの作ったものだそうです。

白井さんは、聖杯戦争として最終戦の士郎vsギルガメッシュ戦で印象に残ってるのがギルが聖杯の穴に吸い込まれていくシーンで、想像を超えたものができあがってきたのでびっくりしたとのこと。美術で印象に残ってるのは凛とアーチャーが別れるシーンで、「このシーンのためにUBWを作ってきたんだろうな」と感慨深い気持ちになったそうです。


美術と撮影から監督や演出陣へのコメントとして、衛藤さんはバーサーカー戦で地面に剣が刺さって破片が飛び散るシーンで、「どうせ見えなくなるから描かなくてもいい?」とおうかがいをたてると監督から「ちゃんと描かないとダメ」と言われたエピソードを話しました。三浦さんからは、背景をしっかり描いてほしいけれど、素材を発注しておいたのに実は使わなかったりすることがあり申し訳ないというコメントも。

寺尾さんは、栖原さんから背景のボケ具合の指示が細かいとコメント。1回目のラッシュで「背景のボケ幅を多めに」と言われて調整すると次のラッシュでは「もうちょっと少なく」と言われて、直接作業を見に来てもらうと最初の状態に近い絵が完成してしまい「最初の絵でよかったじゃん!」と思うことがあると話していました。

また、三浦さんたち3人は監督や演出であると同時に凄腕アニメーターでもあるので、最終話近くで突然原画を描き始めてクレジットにも原画担当として名前が載っているそうです。三浦さんは「監督になった人たちの話を聞いていると『おい、そこのシーンよこせ』って言うタイプが多かったのですが、やっぱり自分もそんな風になっちゃいますよ」と語っていました。


続いて寺尾さんが撮影したufotable社内の様子が映し出されました。以下の写真は徳島のufotable cafeを上から撮った図で、左上に写っている部屋が作画部屋とのこと。アニメを作っている時に何度もリテイクを重ねてカット数が何百枚にも到達することを「溶ける」と表現するそうで、例えば教会の前でランサーとアーチャーが戦うシーンは1分くらいのカットで3000枚以上が溶けたとのこと。他にもゲイボルグがギューンと飛ぶシーンは、一般的なアニメ1本分のカット枚数に到達したそうです。


最後に再び質問コーナーが設けられました。「新しい挑戦と前の技術で予定通り作業することのバランスの取り方はどのように取っているのか?」という質問では、寺尾さんから「ここまでは持っていかなくてはならない」と決めて編集に届ける準備をして、あとはダメだと言われるまで調整を進めて、ダメだと言われてもあとちょっと……と編集担当と相談しながら作業していると回答。近藤プロデューサーからはBlu-rayでさらにブラッシュアップしているカットもあるので見てほしいとのことでした。「特にバーサーカー戦はブラッシュアップしている」との話だったのですが、あのすさまじい戦闘シーンがさらに進化しているとは……。

せっかくデジタルクリエイター人材発掘セミナーなので、業界に入りたいという学生の質問が募集されました。「寺尾さんが撮影に興味を持ったきっかけは?」という質問には、撮影監督になろうと思ってなったわけではなく、映像制作がものすごいプロの技術だった時代に、大学に入って誰でも作ろうと思えば実際に映像を作れるという環境が整っていたことがきっかけだそうです。大学には絵描きや役者がたくさんいて、合成技術が使えればいろんな人の協力で映像が作れたことが面白く、Adobe After Effectsで素材を組み合わせる作業が寺尾さんのコアとなっていたそうです。「言葉は後から付いてくるものなので、何か作品を作り始めたらいいと思う」というアドバイスがありました。

次の質問は芸術系の大学に通っている学生から、「毎日絵を描いているのですが、デッサンをなんとかして観察力を磨きたいなと思っていて、衛藤さんは1日にどのくらいデッサンをされていたのか?」という質問。衛藤さんはなんとデッサンをやったことがなく、アニメ会社に入った後に何もない状態から美術を学んで体で覚えたそうです。毎日物を見て瞬時でパース感をとらえるためにはデッサンが必要になってくるとのこと。近藤プロデューサーからは、デッサンを覚えるために絵を描くのではなく、表現したい物を描くべきだと話がありました。


最後に衛藤さんから、「アニメーションはキャラクターが主役だけれども裏方でこうやって苦労して愛を込めて作っていると知ってもらえると幸いです」とあいさつがあり、大盛況のうちに人材発掘セミナーは閉会しました。

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in 取材,   アニメ,   デザイン, Posted by darkhorse_log

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