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世界初の「キーロガー」は旧ソ連がアメリカ大使館のタイプライターに組み込んだものだった

By Etan J. Tal

他の国が隠している情報を入手する諜報活動が世界中の国々で繰り広げられているのは公然の事実で、専門の訓練をうけたスパイ(諜報員)があらゆる手段を使って情報の収集にあたっていると言われています。かつての冷戦時代にも熾烈なスパイ活動が繰り広げられていましたが、そんな中で旧ソ連はタイプライターの入力を検知して情報を抜き取る「キーロガー」を使用していたことがわかっています。

How Soviets used IBM Selectric keyloggers to spy on US diplomats | Ars Technica
http://arstechnica.com/security/2015/10/how-soviets-used-ibm-selectric-keyloggers-to-spy-on-us-diplomats/

Soviet Spying on US Selectric Typewriters - Schneier on Security
https://www.schneier.com/blog/archives/2015/10/soviet_spying_o.html

1970年代に開発され「世界初のキーロガー」が仕込まれたと考えられているのは、モスクワの在ソ連アメリカ大使館で使われていたIBM社製の電動タイプライター「IBM セレクトリック タイプライター」。戦争映画にでも出てきそうな外観を持つタイプライターですが、ソ連のスパイは何らかの方法でこのタイプライターの中にキーの動きを検知する極めて精巧な装置を取り付け、機密扱いとされた文書の内容を把握していたことがわかっています。

By Etan J. Tal

このタイプライターは、従来の「ハンマー」の代わりに「ボール」と呼ばれる活字を備えているのが特徴です。この機構のおかげで、文書の作成中にも自由に書体(フォント)を変更できるようになっており、これは現代に通じるDTPの先駆けとも言われています。


ボールが文字を打つところはこんな感じ。可動式のボールと紙の間にはインクを染みこませた「リボン」が置かれ、ボールでリボンを打つことで紙に文字が転写されるという仕組みです。

By Dominika Komender

実際にセントリック タイプライターが動作している様子はこんな感じ。ボールの角度や動きは、電気で動く2本のロッド(棒)によって制御されています。

IBM Selectric Typewriter Mechanism in Action - YouTube


NSA(アメリカ国家安全保障局)が作成した資料(PDFファイル)によると、ソ連のスパイはこのロッドの中に極めて小型化された電子回路を隠すことで、ボールを制御する動きをほぼ完全に感知していたとのこと。この電子回路は外観からは全く見つけることができず、X線検査機を使って初めてその存在が確認できるレベルだったとのこと。

ここで気になるのが、検知した動きをどのような方法で外部に伝達していたのかと言うことですが、ここでも巧みな手段が取り入れられていたとのこと。電子回路には8文字分のバッファ(メモリー)が搭載されており、入力された文字をまずはバッファに蓄積します。8文字分がいっぱいになると、今度は内蔵された発信器を使って蓄積した情報を近くに設置した「リスニングポスト」(受信アンテナ)に向けて送信するというシステムになっており、物理的な接触を一切行わずに情報の抜き出しを行うことが可能になっていたそうです。

さらに、アメリカ側の検知をかいくぐるための仕組みも盛り込まれていた模様。電子回路の電源はリモートでオンオフが可能で、調査が行われる可能性が高まった際には電源を落とすことで沈黙するようになっていたとのこと。さらに、情報を送信する電波が探知されにくいように、一般向けのテレビ放送で使われていた周波数帯の電波を使うという手の込みようだったことも判明しています。

回路の電源は、電池を内蔵したバッテリー型と、タイプライターの電源から給電する「AC型」の2種類が存在していたとのこと。以下の写真はタイプライターの電源スイッチに仕込まれていたスパイ装置用のスイッチですが、拡大鏡を使ってやっと確認できるほどの精巧さになっていたことがわかっています。


この装置は1970年代に開発されており、まず間違いなく「世界初のキーロガー」と呼んで間違いないものとのこと。かつての諜報合戦の激しさを垣間見ることができますが、一方でセキュリティの専門家は「かつてはこのような装置が必要だったが、あらゆる端末がネットでつながっている現代では、もっと簡単に情報を抜き取ることができます」と語っており、インターネット社会でセキュリティ意識を高く持つことの必要性を語っていました。

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in ハードウェア, Posted by logx_tm