サイエンス

Photoshopを使ってNASAはどうやって美麗な宇宙や星の画像を作り出しているのか?

by Randi Boice

一言で「写真を撮る」といっても、通常の写真撮影のようにカメラのシャッターをパシャリと切るだけでは完成しないのが宇宙や星の写真。NASAが公開する高解像度の美麗な宇宙写真は、天文学の知識を持ちながらPhotoshopの技術を習得した特別な科学者によって作られているのですが、宇宙写真の作成現場では実際に何が行われているのか、Photoshopの開発元であるAdobeが公開しています。

How Photoshop Helps NASA Reveal the Unseeable
http://blogs.adobe.com/conversations/2015/09/how-photoshop-helps-nasa-reveal-the-unseeable.html

2015年1月、地上約600km上空の軌道を周回するハッブル宇宙望遠鏡が捉えたアンドロメダ銀河の写真が公開されました。巨大な画像の中には1億もの星々が浮かび、画像をズームアップすればするほど、美しい宇宙の様子を細かいところまで見ることが可能です。

美麗なアンドロメダ銀河の画像は以下から確認できます。

Hubble captures most detailed image ever seen of Andromeda galaxy - ABC News (Australian Broadcasting Corporation)
http://www.abc.net.au/news/2015-01-21/hubble-high-resolution-view-of-the-andromeda-galaxy/6027732

これがアンドロメダ銀河の写真。画面左上にあるズームボタンを押していくと……


どんどん画像がズームイン。


以下のように細かい部分まで見ることが可能です。


「宇宙を撮影した写真」と聞くと、カメラやスマートフォンでパシャリと写真を撮影する様子が頭に浮かびますが、上記のような宇宙の写真撮影はそこまで簡単なものではありません。例えば、火星探査機マーズ・ローバーから地球に画像が送られてきた場合、ジェット推進研究所(JPL)の科学者が天文学の知識と画像編集の技術を駆使して、送られてきたRAWデータを人々が見やすい形に作り直す必要があります。

現在、デジタル画像を処理するソフトウェアは山のように存在しますが、実はデジタル画像を処理するツールを初めて開発したのは50年前のJPLでした。そして、JPLの技術はさまざまな進歩を経つつ、現在は一般の人にとってもなじみ深い「Adobe Photoshop」なども画像編集に使用しています。

マーズ・ローバーは走行しながら写真を撮影することとなりますが、火星は地面がデコボコしていることもあり、複数の写真から1枚の大きな写真を作り出すのは簡単ではありません。さらに、マーズ・ローバーは写真撮影を行う上で「フォーカスを合わせること」を最重要事項としており、撮影場所の明るさによって露出を調整することなどは二の次です。そのため、JPLの科学者はPhotoshopで写真を切り抜き、回転させ、シームレスな状態で画像をつなげてから色の調整などを行う必要があります。


マーズ・ローバーのカメラは人間の目と同じような働きをしており、2つの視点で捉えた画像を合成して1枚の画像を作り出します。そのため、3Dカラー写真のようなものはむしろPhotoshopで作りやすいのですが、一方で連続して撮影された何枚もの画像を縫い合わせて巨大な1枚の画像を作るのは、非常に難しい作業となってきます。継ぎ目が明白な写真は視覚的なインパクトがなくなってしまうため、画像編集を行う科学者たちはカメラモデルやタイポイントを利用した特殊な手法で、画像が立体的に見えるように編集していきます。そして限りなく1枚の画像に見えるモザイク画像が完成したら、埃や太陽光による明るさのズレをPhotoshopで調整していくのです。


もちろん、宇宙を撮影した写真において最も重要なのは「美しさ」ではなく「科学的な完全さ」であり、画像処理が行われる前であっても宇宙の画像は魅力的なのですが、Photoshopで画像編集を行うことで、より作品としての仕上がりがアップするわけです。

カリフォルニア工科大学の赤外線処理・分析センターで働くロバート・ハートさんも、天文学の知識とPhotoshopの技術を持つビジュアリゼーション科学者の一人。ハートさんは一日のほとんどの時間をスピッツァー宇宙望遠鏡や広域赤外線探査衛星から届いた赤外線画像の処理に費やします。


科学とアートを同時に実行する役割を担っているハートさんは、「私はサイエンスコミュニケーションのうち、視覚的側面を監督する役割を担っています。多くの作業は宇宙望遠鏡から集められた画像をPhotoshopを使って、一般の人々や天文学者の双方にとって有益な、高品質な写真にレンダリングすることです」と自身の仕事を説明しました。

実際に宇宙望遠鏡から送られてきたモノクロの画像がPhotoshopのレイヤーやコントラスト調整などを駆使することで美麗な写真へと変化していく様子は以下のGIFアニメーションから確認できます。


上記のアニメーション画像を分解すると以下のような感じ。左上が元画像で右下が完成画像。Photoshopの編集を経ることで、単なる雲のようにも見える画像が、星雲の美しい宇宙の画像へと変化しています。


また、以下の3つの画像は一番左がスピッツァー宇宙望遠鏡とハッブル宇宙望遠鏡で捉えられたイメージをいいとこ取りして合成したもの、真ん中がスピッツァー宇宙望遠鏡単体で捉えられたイメージ、右がハッブル宇宙望遠鏡単体で捉えられたイメージ。このように、ハートさんは同じ場所を撮影した別々の2枚の写真を組み合わせて高品質の画像を作ることもあるとのこと。


ハートさんの仕事は、基本的には一般的なPhotoshop職人と同じですが、ハートさんがエアブラシを動かす処理1つで科学的な事実を消してしまう恐れがあるところが大きく異なります。そのため、ハートさんは事実を間違って消去してしまった時に痕跡をたどれるよう、作ったレイヤーは全て保存している、とのこと。「ゴミを除去する」ことと「科学的な事実を残す」ことの線引きが行えることこそが、一般的なPhotoshop職人とは違う、ビジュアリゼーション科学者の役割と言えるわけです。

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in サイエンス, Posted by darkhorse_log

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