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SF作品の同人誌・約1万点がデジタル化されて誰でも無料で閲覧可能に


SF小説好きによる小説好きのための同人誌(fanzine・ファン雑誌)を1万冊以上所蔵しているアイオワ大学が、雑誌の紙面が傷んでしまう前に内容を保存するべく、収集したファン雑誌をデジタルアーカイブ化して誰でも無料で見られるようにウェブ上で公開しています。

Hevelin Collection
http://hevelincollection.tumblr.com/

10,000 zines and counting: a library's quest to save the history of fandom | The Verge
http://www.theverge.com/2015/9/4/9257455/university-iowa-fanzine-fan-culture-preservation-project

アイオワ大学図書館は約100年前からファン雑誌を収集しており、1920年代の三文小説が載った雑誌や、SFドラマ番組「ファースケープ」の打ち切りに対する抗議Tシャツなど、多岐にわたる所蔵品を収めています。2012年には、大のSF好きで多数のSFファン雑誌を収集していたJames "Rusty" Hevelin氏の寄贈を受け、1930年代以降の貴重なSFファン雑誌がアイオワ大学図書館の本棚に加わりました。2014年にはHevelin氏のコレクションが大学の「ファン文化保存計画」の対象となり、古くなった雑誌を保存するために紙面の電子化が進められてきました。Hevelin氏のコレクションは電子化された後にTumblrにアップされており、約1万点の作品を誰でも見ることができます。

ファン雑誌のデジタル化計画に携わっているアイオワ大学図書館のLaura Hampton氏によれば、ファン雑誌を収集している民間団体とアイオワ大学が協力して2015年7月から数多くの雑誌を集めてデジタルアーカイブ化を進めているとのこと。特に、1930年代から1950年代にかけてのSFファン雑誌黄金期の作品収集に注力しているそうです。

以下の写真にうつっているのは、1939年から1940年に作られたSFファン雑誌3点。ゼラチンや寒天を使ったコンニャク版(ヘクトグラフ)の2色刷りで文字やイラストが印刷されています。表紙のイラストは、半裸の女性に何かを注射しようとしているローブ姿の男がタコ型宇宙人に襲撃されていたり(写真左)、鉄のハサミを持つ巨大コウモリが国会議事堂に向かって火を吹いていたり(写真中央)と、1930年代の奇怪な大衆小説の様相が見てとれます。


SF作品の歴史はファン雑誌の存在と切っても切り離せない関係があり、例えば「クトゥルフの呼び声」などで知られる作家のハワード・フィリップス・ラヴクラフトや、「華氏451度」「火星年代記」の作者であるレイ・ブラッドベリ、SF界の御三家とも呼ばれているロバート・A・ハインラインなどは、ファンからの手紙や、SFファンたちの会合を通してSF好きの人々と深く関わってきました。その中でもファン雑誌は数多くのSF作家のデビュー場所でもあり、20世紀後半にはアマチュア作家が名を挙げるための中心地でした。しかし、ファン雑誌の多くはファンの間で流通しているのみに限られ、発行された雑誌の大部分が時の流れと共に失われてしまいます。

ラヴクラフトが寄稿していた1940年代の「The Acolyte」というファン雑誌に使われている表紙イラストは、現代でも通用しそうな白黒のシックなデザイン。


現存する数少ないファン雑誌は、上記のHevelin氏のコレクションのように保存状態がよければ現代でも美しい青と紫のカラーを保っていますが、雑誌の材料に安価な酸性の紙が使われているため、光に当てると数時間で色が消えてしまうそうです。そのため、電子化する際には、できるだけ手早く雑誌を1ページずつめくりながら写真を撮り、作業後は雑誌を再び保管庫に戻しているとのこと。Hampton氏は「ファン雑誌を作った人たちは、少ない予算と限られた設備を工夫して素晴らしい雑誌を発行していましたが、ホッチキスの針がさび付いてしまったり、テープが劣化していたりして、保管が難しくなっています」と語っています。

ファン雑誌には小説作品だけではなく、読者による評価やSFについての討論も掲載されていましたが、1930年代のSF黎明期にはまだSF作品という概念が定まっておらず、時に攻撃的な内容の討論も書かれていたそうです。


また、古い雑誌だけでなく近年発行されたファン雑誌のデジタル化にも障壁があるそうです。1920年代頃のファン雑誌の内容はゴシップ小説や作品のレビューが中心でしたが、近年のファン雑誌の多くは同性間恋愛を描いたスラッシュフィクション作品を含んでおり、「慎重に扱わなくてはいけない領域に踏み込んでいる」とHampton氏は語っています。スラッシュフィクションの作者の大半が女性で、自分の家族や友達に作品を知られたくないためファン雑誌のデジタルアーカイブ化に否定的な立場を取っている人もいるそうです。一方で、「今まで自分の作品が届かなかった年代層にも知ってもらえる」とデジタル化に賛同するスラッシュフィクション作家もいるとのこと。

アイオワ大学では図書館に所蔵しているファン雑誌のほぼ全てをデジタルアーカイブ済みですが、それでも世界中に現存するファン雑誌の一部でしかなく、時が経つにつれて紙面が劣化してしまうという問題もあります。Hampton氏によれば「本に関わる職に就いている人たちにとって、図書保存の問題が一番の悩みの種ですが、正解はその時代によって変化し続けるでしょう」とコメントしていて、今後は現存するファン雑誌を収集しながら、デジタル化したデータを活用する方法を探っていくとのこと。現時点では、撮影したファン雑誌をテキスト化して文章を検索可能にするプロジェクトが予定されています。

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in メモ, Posted by darkhorse_log

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