メモ

国家の中央銀行にまで浸透していた犯罪ネットワークの実態とは

By Eneas De Troya

社会の経済を支える銀行の中でも、特に中央銀行は通貨の安定や国家の金融政策をつかさどる最も重要な役目を担っています。しかしイギリスの中央銀行であるイングランド銀行では、1990年代後半にある犯罪組織によって「汚染」されていたことが明らかになっています。

How A Powerful Criminal Network Infiltrated The Bank Of England - BuzzFeed News
http://www.buzzfeed.com/michaelgillard/sex-lies-and-interest-rates

オンラインメディアのBuzzFeedでニュースを扱うBuzzFeed Newsの取材から、1990年代後半のイングランド銀行ではマネーロンダリングやテロ組織、請負殺人などの犯罪行為に関わる「強大な犯罪ネットワーク」が銀行組織の内部に浸入していたことを示す事実が明らかになっています。さらに、この件について警察やイギリスの保安局(MI5)が情報を明らかにしていなかったことも判明しています。その手口の詳細は「イギリス経済を不安定に陥れる」ことを理由に公表されてこなかったとのことですが、BuzzFeed Newsは独自に入手した極秘の警察資料と事情をよく知る人物への聞き取り取材によってその内容を把握したとのこと。

By www.bankofengland.co.uk

◆組織汚染の発覚
一連の組織汚染は、調査員が1998年に銀行内部に潜入して行った潜入捜査「オペレーション・ベレゴン(Operation Beregon)」によって、その存在が明らかにされました。イングランド銀行に属する金融政策委員会の機密情報を入手して非常に多くの利益を上げている若手相場師をターゲットに盗聴捜査が行われ、犯罪組織の「大規模な資金洗浄」に関わり、銀行内部の機密情報を漏らしていると疑いをかけられていた「あるビジネスマン」の通話内容から組織汚染の存在が見えてきたそうです。

国家機密レベルの組織に犯罪組織の手が入り込んでいたことが徐々に明らかになるこの一連の出来事ですが、恥ずべきスキャンダルに関わってしまった人物を市民や議会、司法による捜査から守るべく、警察やMI5はこの事実の公表を16年以上にわたって避けてきたそうです。警察は、ビジネスマンに内部情報を渡した銀行上層部の人物に対して警告を行っていますが、実際に情報を漏らした人物の特定には至っていません。これまでに誰もこの件で処分を受けてはおらず、ビジネスマンも姿をくらませ続けているとのこと。

By Lionel Martinez

金融政策委員会は月例で委員会を開催し、イングランド銀行の基準利率を決定する機関です。この利率は国内経済のあらゆる側面に影響を及ぼすため、委員会の参加者は機密保持誓約書へのサインを求められるうえ、その内容が世間に公表されるまでは内容について一切触れないことが義務づけられています。調査結果では、情報の漏えいは金融政策委員会のメンバーからではないとする結果に至っています。

しかし、マークされている「ビジネスマン」はイングランド銀行の内部者の妻と性的関係を持ち、公表される予定だった機密情報を一足先に入手して取引市場で勝負に出ていたものと考えられています。このような国家機密レベルの情報漏えいに関する事件ということで、即座に諜報機関・MI5が捜査を引き継ぎ、その詳細はその後長年にわたって機密事項とされることになりました。

By www.bankofengland.co.uk

しかし調査では情報の漏えい元の特定には至っておらず、なんの対応もとられないままこの件はクローズされてしまうに至ったとのこと。その後、調査報告書は長い間機密扱いとされてきたのですが、2015年7月には機密扱いを解除する決定が下されました。しかし2015年7月末の時点では、その内容は公開には至っておらず「ここでも機密をひた隠しにする姿勢が見える」とBuzzFeed Newsは指摘しています。

◆「スーツの男」と情報漏えいの実態
なかなか情報が開示されないこの一件ですが、BuzzFeed Newsは断片的な情報や警察関係者などへの取材から「オペレーション・ベレゴン」の内容を明らかにしています。

マークされているビジネスマンについては法的根拠を元に身元を明かすことができないため、便宜的に「スーツの男」と呼ばれており、調査ではこの男の行動が明らかにされているとのこと。スーツの男はマネーロンダリングや犯罪行為に加担したことはないとして事件への関与を否定しており、イングランド銀行から内部情報を入手したこともないと主張。男の弁護士も「証拠がなく、電話の盗聴も法の要件を満たしていない」と指摘しています。


しかしBuzzFeed Newsが閲覧できた資料では、スーツの男は北ロンドンに拠点を置く犯罪組織の親玉であるテリー・アダムスなどギャング集団のボス級の人物との関与を示す「莫大な量の情報」が記されていたとのこと。この資料では、ドラッグの流通や国際テロ組織への関与を示す内容や、イギリス国内外での殺人事件へとの関わりを示す内容も含まれていたといいます。1998年に行われた大規模な捜査では、当時51歳だった東ロンドンのギャングと、30歳台である「スーツの男」が主となって強力な犯罪ネットワークを組織したことが示されており、ドラッグの密売やテロリスト集団へ武器の不正売買が疑われています。

さらに、許可にもとづく盗聴捜査からは、ロンドンに住む複数の愛人との通話内容が明らかになっており、その通話相手の一人がイングランド銀行で働く人物の妻であることが明らかにされていたとのこと。スーツの男は犯罪組織で一般社会でのビジネスと金融を担当する立場にあり、調査員によれば「大規模なマネーロンダリングを行っている」ことも明らかにされています。この「スーツの男」は赤いフェラーリや黒いポルシェ、銀色のメルセデスやアストンマーチン、ベントレーといった高級車を乗り回していたのですが、男の弁護士はBuzzFeed Newsの取材に対して「高級車が好きなため」に高価な車を所有していたと説明。さらに、自動車以外にも数々の資産を所有していることもあったようです。

以下の捜査写真には、ベージュ色のコートを手にした「スーツの男」と、左上の写真に写っているテリー・アダムスおよびその関係者である「アダムズ・ファミリー」の姿が収められています。


当初、アダムズ・ファミリーではソリー・ナホムという男がマネーロンダリングを担当しており、宝石取引や一般の商いを通じて資金を動かしていたのですが、1998年11月に何者かによって殺害されています。ナホムを殺した犯人こそが「スーツの男」と考えられており、その後男はアダムズ・ファミリーのマネーロンダリング役を担当することになったそうです。

「スーツの男」の弁護士はBuzzFeed Newsに対し「テリー・アダムスとはなんの個人的な関係も、ビジネス上のつながりもない」と関与を否定していますが、後に数回にわたってアダムスに会ったことや殺害されたナホムとは「腕時計や宝石の売買を通じて知っていた」ことを認めています。

By erik ERXON

さらに調査チームを震撼させたのは、この「スーツの男」がイギリスで最も権威のある金融機関とつながりを持っていたという事実でした。ロンドンにいる愛人との通話記録の内容によると、男はイングランド銀行とその金融政策委員会のメンバーに近い位置にいる愛人と親密な関係にあることが明らかにされたといいます。調査チームでは、男はこのルートから銀行内部の情報を抜き取っていたという見方を示しており、男の弁護士はこれに関しても「そのような情報を入手したことはないし、それに基づいて行動したこともない。さらに、男性はイングランド銀行内部者の妻やパートナーと性的関係を持ったこともない」と答えているとのこと。

これら一連の疑いに対し、イングランド銀行は「警察から潜在的な問題について問い合わせを受けたことはあります。当行はその要請に協力しており、情報漏えいを裏付ける内容は見つかっていません」と関与を否定。ロンドン警視庁は「法廷プロセス以外で進行中の特定の要素についてコメントを行う用意はありません」としつつ、不正があったとする「主張を擁護する」とする立場を明らかにしています。また、オペレーション・ベレゴンを率いた「国家犯罪対策局」の後身である「国家犯罪対策庁」はコメントを拒否しています。

国家・金融の中枢ともいえるポジションにまで犯罪組織の手が入り込んでいたことが垣間見える一連の出来事ですが、その真相はいまだ公表されていないままとのこと。危機管理上の理由や「威信」を守るために公表されていないとも指摘されるこの一件が明らかにされる日が来るのかは不透明なままといえそうです。

By natalie

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in メモ, Posted by darkhorse_log

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