サイエンス

痛みを感じない、骨折知らずの強固な骨を持つなど突然変異で生じる「超人」のDNAを医薬開発に活用するという試み

By US Air Force

世の中には「痛みを感じない人」や「異常なまでに高密度の骨を持つ人」など、突然変異で生じた常識外れの特性を獲得する人がいます。そのような「超人」の特性を医薬品開発に活用しようとする動きが製薬会社を中心に広がっています。

These Superhumans Are Real and Their DNA Could Be Worth Billions - Bloomberg Business
http://www.bloomberg.com/news/articles/2015-07-22/these-superhumans-are-real-and-their-dna-could-be-worth-billions

スティーブン・ピートさんは、肌にガラス片が突き刺さっても熱いストーブに触れてもまったく痛みを感じないという特殊な体を持っています。これは「先天性鈍感症」というDNAの変異によって生じる特殊な症状で、世界でもわずかに数十人だけが持つ特性だそうです。このような通常では考えられない特性を持つ人は他にもおり、ティモシー・ドレイヤーさんはたとえ骨折した状態でも歩行可能なほど高い骨密度の骨格を持っています。

近年、遺伝子研究の進歩に伴い、ピートさんやドレイヤーさんのような「特殊な能力」は、DNAに生じるわずかな違いが原因であることが分かってきており、このDNA情報を研究することで、新薬が開発できると期待されています。つまり、ピートさんの特性を研究することでモルヒネのような中毒性とは無縁の鎮痛剤が開発できたり、ドレイヤーさんの特性を研究することで骨粗鬆症の患者の骨密度を高める新薬が開発できたりすると考えられているのです。

By Micah Baldwin

新薬開発にDNA情報を活用するという手法は広く普及しており、世界的な製薬会社は遺伝子研究の実績がある会社や研究所を次々と買収するという動きがあります。例えば、製薬会社のAmgenは2012年にアイスランドのバイオテクノロジー企業DeCode Geneticsを4億1500万ドル(約500億円)で買収していますが、買収の最大の目的はDeCode Geneticsが持つDNA研究資産であり、格安のDNA検査キットを販売する23andMeと共同で蓄えてきた、ユーザーのDNA情報のデータにあると見られています。これらのDNA情報を解析・研究することで、新薬の開発につなげるというわけです。

1990年から2003年までの間に合計で30億ドル(約3600億円)という巨額の費用をかけて解析されたヒトゲノムですが、2015年現在では、ヒト1人のゲノムの配列をスキャンするのにかかる費用は1000ドル(約12万円)と、検査費用は劇的に低下しました。このため、その患者用にカスタマイズされたパーソナルな医薬品の開発なども今後は大きな市場になるとも見られています。

Googleが支援する遺伝子解析サービス「23andMe」が顧客の遺伝子情報で新薬の開発へ - GIGAZINE


前述した通り、常人離れした「特性」を備える人の遺伝子情報を解析する試みが製薬会社で盛んに行われていますが、皮肉なことにその成果が「超人」たちに還元されることはありません。そもそも痛みを感じないという特性は、病気の発現をわかりにくくするというリスクを抱えており、また異常に高い骨密度を持つという特性は骨の成長が止まらないというリスクも抱えるため、それ自体が「病気」と認定されてもおかしくない症状です。

しかし、製薬会社が開発したい薬とは大衆に効用があるため多くの販売が期待できる薬であり、少数者にだけ効果がある薬は儲からないため開発するモチベーションが極めて低いという構造的な問題があります。つまり、製薬会社が骨粗鬆症の骨密度を高める薬を開発することがあっても、骨密度の高すぎる「超人」の症状を緩和する薬の開発をすることはほとんどないという悲しい現実があるというわけです。

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in サイエンス, Posted by darkhorse_log

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