ハードウェア

日本でも発売される84インチ超巨大Windows10端末「Surface Hub」誕生までの知られざる事実とは?


Microsoftが公開していたWindows 10搭載の84インチ4Kディスプレイ端末「Surface Hub」の販売価格が1万9999ドル(約250万円)になると正式に発表されましたが、そのSurface Hubはアメリカ・ポートランドで製造されています。Microsoftが公式には一切明らかにしていないポートランドのSurface Hub製造現場について、Fast Companyが取材しています。

The Untold Story of Microsoft's Surface Hub | Fast Company | Business + Innovation
http://www.fastcompany.com/3046819/the-untold-story-of-microsofts-surface-hub

Microsoft本社のあるアメリカ・レドモンドから300キロメートルほど離れたポートランド郊外のウィルソンビルでSurface Hubは製造されています。このSurface Hubを製造するウィルソンビル工場についてMicrosoftは公にコメントすることはなく、取材で訪れたFast Campanyは、敷地内にある道路標示などにも「Microsoft」を示す文字は見当たらなかったとのこと。Microsoftがあえて公にしていないと思われるウィルソンビル工場では、最新鋭の組み立てロボットやクリーンルームなどが導入されており、目下、Surface Hubが黙々と製造されています。


ウィルソンビル工場を率いるのは韓国系アメリカ人のジェフ・ハン氏。ハン氏はかつて、TEDカンファレンスにおいて、複数の指を使ってタッチ操作を行う「マルチタッチ技術」についてデモをしてみせ、技術力の高さを世間に見せつけたことで知られる技術者です。


なお、そのときのTEDプレゼンテーションの様子は以下のムービーで確認できます。

Jeff Han: Unveiling the genius of multi-touch interface design - YouTube


ハン氏はニューヨーク大学で研究をしていた2002年にマルチタッチに関する着想を得て、本格的な研究開発を2005年からスタート。そして2006年2月にはマルチタッチ技術を完成させて、TEDで発表。あまりの技術的完成度の高さに会場の観客から驚きの声と同時にため息が出されるほどでした。

ハン氏がTEDでマルチタッチ技術を発表したのはiPhoneの登場以前のこと。2009年1月にAppleのスティーブ・ジョブズCEOがiPhoneを発表した際に「マルチタッチを発明した」と高らかに宣言しましたが、それよりもはるか以前にハン氏はより高いレベルでマルチタッチ技術を完成させていたというわけです。


ハン氏は2006年にPerceptive Pixel社(PPI)を立ち上げ、マルチタッチ技術を事業向けに販売し始めます。PPIの高い技術力は数々の賞を獲得。特に2008年のアメリカ大統領選挙の報道で、テレビメディアがPPIのタッチディスプレイを採用して票獲り合戦の様子を解説したのを機に、マルチタッチ操作できる高性能ディスプレイが大きく普及し、拡大するマルチタッチディスプレイの市場をリードして高い収益性を上げることに成功しています。

そのころ、Microsoftもタッチ操作できる巨大なディスプレイの研究に取り組んでおり、2007年には40インチの画面サイズでテーブルに内蔵され、タッチ操作できるWindows Vistaマシンを発表しています。当時、Microsoftのスティーブ・バルマーCEOは、Windowsを中心とするソフトウェアに特化した巨大企業をハードウェア企業としても育てるという壮大なビジョンを持っており、その中で生まれた「テーブルPC」はホテル、カジノ、携帯電話ショップなどに導入する計画でしたが、結局、日の目を見ることなく開発が打ち切られました。


マルチタッチ技術を武器に世界中を席巻するiPhoneを見たハン氏は、単なるマルチタッチ操作可能なディスプレイの将来性に疑問を抱き始めます。さらに、販売するデバイスの設計・開発から製造・販売に至るまで、すべてを行える垂直統合を希望し始めたとのこと。ハン氏が高い技術をより広く世間に普及させたいと考えていた頃、PPIの高い技術力を認めたMicrosoftから買収の提案を受けることになります。

PPIの買収交渉にはバルマーCEOだけでなくビル・ゲイツ会長も乗り出していたそうで、この事実からMicrosoftがPPIを非常に高く評価していたことは明らか。ハン氏によると、ゲイツ会長は「PPIの技術が(世界中の)空から降り注ぐのをぜひ見たい」と賞賛し、バルマーCEOは自分のオフィスのホワイトボードを捨て去りPPIのディスプレイを導入してみせ、熱心に口説いてきたとのこと。

By Aanjhan Ranganathan

こうしてハン氏はMicrosoftへの合流を決断し、PPIは2012年にMicrosoftに買収・統合されることになりました。奇しくもMicrosoftによるPPI買収の数週間前に、Microsoftは初のハードウェア製品Surfaceを発表して、ハードウェア事業に進出することを正式に表明しています。

当初、Microsoftの一部門として本社内に研究開発環境が置かれたPPIでしたが、Nokiaの携帯部門を買収するなど積極的な構造改革を進めるバルマー氏の方針の下、ハードウェア部門に組み込まれました。しかし、2014年2月にバルマー氏が辞任し、新しくサティア・ナデラ氏がCEOに就任すると、これまでの方針を一新。「モバイル・ファースト」「クラウド・ファースト」を掲げるナデラCEOのもと、ハードウェア部門にあった旧PPIチームは存続が危ぶまれるのかに見えましたが、ナデラCEOの「『モバイルできる端末』に興味はない。しかし、『モバイルできる経験』は新たなビジョンに合致している」という判断の下、巨大なタッチ操作可能ディスプレイを搭載するPC「Surface Hub」の開発にゴーサインが出されました。


PC・スマートフォン・タブレット・Xbox・IoT端末などあらゆるデバイスの統合を目指して開発される次期Windows OS「Windows 10」が、ビジネス用途で利用される巨大なタッチディスプレイ端末「Surface Hub」でも採用されることが決まり、ハン氏率いるSurface Hubチームは人目を避けるようにポートランドに拠点を移動しました。そして、Surface Hubは、84インチの4K解像度ディスプレイを搭載するWindows 10搭載PCで、主に会議室などに設置され内蔵カメラとSkypeアプリを使って遠隔地と会議をしたり、複数人でタッチ操作しながら議論したり、遠隔地の端末と双方向に同期して情報をやりとりしたりする端末として開発されることになりました。

なお、Surface Hubがどのようなデバイスなのかについては、以下の記事を見ればよく分かります。

84インチ4Kディスプレイ搭載の巨大端末「Surface Hub」をMicrosoftが発表 - GIGAZINE


MicrosoftはSurface Hubの開発チームの規模を明らかにしていませんが、開発者の数は数百人であると見られています。その中心的な役割を果たすハン氏はFast Companyに対して、「高慢に聞こえるかもしれませんが、私たちには競争相手はいません。これまでにも大画面タッチスクリーンを持つ製品はありましたが、それらの製品とは別の位置にSurface Hubはあると考えています」と述べています。その理由の一つとして、指によるタッチ操作とペンツールによるタッチ操作を同様に検出できる静電容量タッチセンサーシステムを持つ会社は、ハン氏が知る限り世界に2社のみ。その1つがPPIであり、残るもう1社はSurfaceで採用されたタッチ操作技術を開発するイスラエルのN-Trig社で、Microsoftは2015年5月にN-Trigを買収済みだとのこと。


Surface HubはIntel Core i5プロセッサを搭載する55インチモデルが6999ドル(約86万円)、Intel Core i7プロセッサを搭載する84インチモデルが1万9999ドル(約250万円)となっており、目下、ウィルソンビル工場では組み立てマシンで黙々と製造中。


液晶パネル以外の部材はすべてウィルソンビル工場で製造されており、中国などの海外拠点ではなくアメリカ国内で生産されるとのこと。


ビジネス向けに高い品質が求められるがゆえに開発・製造拠点がアメリカに置かれるSurface Hubですが、ハン氏は「いちいち中国の工場に電話で事細かく指示を送る必要がないので非常に助かります」とジョーク混じりに話したとのこと。


巨大ディスプレイでのタッチ操作を考えて、「スタートボタン」は画面中央に配置されるようです。


Surface Hubは2015年9月に日本を含む世界24カ国で発売される予定。Surface Hubのビジネスシーンへの普及が進めば、ウィルソンビル工場にあるホワイトボードもSurface Hubに置き換えられることになるのかもしれません。

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