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520日間のひきこもり生活で「火星」への有人飛行をシミュレーションする実験に挑んだ6人の男たち


Mars-500は、将来的に行われるであろう火星への有人探査のような長期ミッション時に、宇宙船という閉鎖空間での共同生活が宇宙飛行士の肉体や精神にどのような影響を与えるのかを調査するためのプロジェクトです。2010年6月3日から2011年11月4日までの520日間、ロシア・イタリア・フランス・中国から集まった6人の被験者を外とほとんど連絡の取れない閉鎖空間に閉じ込め、実験が行われました。

«Mars-500» project
http://mars500.imbp.ru/

Six Men Spent 520 Days Locked in a Room to See If We Could Live on Mars | Motherboard
http://motherboard.vice.com/read/six-men-spent-520-days-locked-in-a-room-to-see-if-we-could-live-on-mars

プロジェクト「Mars-500」主導の実験は、世界で8番目に大きな都市であるモスクワにて実施されました。実験では520日もの間、世界中から集められた6人の被験者を閉鎖空間に閉じ込め、期間中にどのような影響が現れるのかをグループ・ダイナミックスや個体心理学といった観点から分析しています。

6人の被験者が520日間を過ごした閉鎖空間はこんな感じ。


実験に関する学習やサバイバルトレーニングなどさまざまな訓練を6カ月にわたって受け、一定の水準をクリアした宇宙飛行士が被験者候補となり、ロシア・中国・ヨーロッパという複数の国と地域から集められた候補を心理学的あるいは医学的評価から徐々にその数をしぼることで、最終的に6人の精鋭が選ばれました。選ばれた被験者は左からアレクセイ・シテフ氏(ロシア)、ロマン・シャルル氏(フランス)、アレクサンダー・スモレブスキー氏(ロシア)、スクロブ・カモロフ氏(ロシア)、ワン・ヤオ氏(中国)、ディエゴ・ウービナ氏(イタリア)です。


そして、2010年6月3日からモスクワの研究所内に設置された閉鎖空間の中で実験がスタート。実験期間中、閉鎖空間内の被験者は外部とほとんど連絡をとれないようになり、尿や血の採取検査の際に少しだけ外部の人間と接触できる程度であったそうです。

実験期間の520日間の内訳は、最初の250日間が火星までの飛行、その後の30日間が火星での滞在、残りの240日間が地球への帰還に設定されており、最初と最後のひと月はクルーが宇宙管制センターと無線連絡を取ったり、ビデオメッセージを送ったりすることも可能でした。なお、通信時に発生するであろうタイムラグを計算し、実際の通信時には細かいズレまで演出することで、「無重力」と「放射線」以外のあらゆる要素を再現しています。その他、閉鎖空間内ではインターネットを使用したり電話をかけたりすることもできなかったそうですが、2日に1回閉鎖空間内の写真をアップロードすることは可能で、これらの写真は被験者の家族に送られたそうです。


クルーは朝8時に起きてランニングをして体を動かし、血圧を測定し、その他の健康維持活動を行います。そこから8時間は各クルーが個々の実験作業に取り組みます。例えば、火星の表面ではアクティビティがどのように変化するのかをシミュレーションする実験などが行われた、というわけ。そして夕食後は、各自が自由に時間を使えるようになっていたそうです。

トレーニング時


食事中


被験者の1人であるウービナ氏は実験当時を振り返って「それほど忙しくない時期もありましたが、そういった『退屈な時間』の方が辛かったです。ほとんど退屈しなかったのは、常に何かしらやることがあったからですが、常に何かやることを自分で探し、自分を忙しい状態に置こうと頑張っていたのも事実です」と語ります。

なお、被験者は1年半という期間を閉鎖空間の中で過ごしたわけですが、退屈な時間にはゲームや読書、映画鑑賞などで時間を潰したそうです。被験者6人は特に「Counter-Strike(カウンターストライク)」というFPSゲームが好きで、頻繁にプレイしたそうで「(カウンターストライクは)僕らがとても好きだったゲームです。奇妙なことに、他のゲームをプレイしようとしてもどれもしっくり来ないんだ」とウービナ氏は述べます。

自由時間にまったりくつろぐこともあれば……


他クルーとの親交を深めることもあった模様。


そしてなぜかみんなでセッション。とても奇妙な光景です。


ウービナ氏は実験期間中にガブリエル・ガルシア=マルケスの著書を全て読破するという目標を立てたそうですが、全て読むことはできなかったそう。この経験から「長期にわたる宇宙飛行で最も良いのは、短中期的な目的を立てておくことです。自分自身をその目的にコミットさせて忙しい状態に置いておけば、成功したあかつきには達成感を得られます。この達成感こそ、最も価値のあるものだと私は気づきました」とコメント。

被験者の中には睡眠に関する問題を抱える人も出てきましたが、ウービナ氏は特に問題を抱えることなく、楽しくポジティブに閉鎖空間内での生活を過ごせたそうです。実験期間を楽しく過ごしていたウービナ氏でも「対処が難しい」と感じる問題も存在したそうで、「私は世界から外れました。同僚は素晴らしい人たちでしたが、見ず知らずの人に会ってみたくなったし、外に出て夜遊びしたいとも思った」と、ほとんど代わり映えしない生活と人間関係が耐えがたいものであった、としています。

250日の宇宙探査のあと、被験者たちは火星に到着。その際には閉鎖空間の外で記者発表会が開かれました。


記者発表会では、準備されていた仮想火星の地表を歩くアレクサンダー氏とディエゴ氏の様子がモニターに映し出されました。


Mars-500のウェブサイト上にはプロジェクトを行う上での10個の主要な科学に関する目的が書き連ねられています。実験の目的としては、「生命維持装置のテスト」から「クルーの健康状態や仕事容量を予測する方法の調査」までさまざま。プロジェクト中に行われた実験の中で最も成功したものの1つが、フリードリヒ・アレクサンダー大学エアランゲン=ニュルンベルク主導で行われた、食事に関する実験です。

被験者の食事の詳細に至るまで正確な情報を知る必要がある実験は、通常、数週間のモニター期間を設けて食習慣を観察したり広範囲な追跡調査を行ったりする必要があるので非常に困難です。しかし、Mars-500では被験者の食事が完全に管理されており、身体検査も毎日行われていたので、完璧なサンプルを大学に提供できました。実験ではクルーの食塩摂取量を徐々に減らしていき、これにより起きる影響などが調査されており、塩分バランスが人間の血圧と新陳代謝に影響を与えることが判明し、当初予測していた影響よりも非常に興味深い実験結果が得られたそうです。

実験中の被験者の食事はこんな感じ。


「520日の実験期間後に閉鎖空間から外に出た経験は、これまでの人生の中で最も不思議な経験でした。通常の生活に慣れるには、恐らく数ヶ月の時間がかかりましたし、この経験から別の世界にやってきたかのような感覚に襲われました」と、ウービナ氏は520日の実験期間を終えたあとの心境について語っています。

Mars-500で使用された閉鎖空間内の写真は以下から閲覧可能。閉鎖空間だけでなく、その中で暮らしていた6人の被験者の様子も見られます。

MARS-500 VR-tour


なお、520日間に及ぶ実験に参加した6人の被験者には300万ルーブル(約730万円)の報酬が支払われたそうです。

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in メモ, Posted by logu_ii

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