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Googleが社員教育で実施している「無意識バイアス」の講義を徹底解説


バイアスとは、シンプルに言うと育った環境や文化、経験などさまざまな要素からなるフィルターのことで、意志決定の際に避けては通れません。無意識でバイアスがかかることもあり、正確な判断を下すことを困難にしてしまいます。Googleは業務においてバイアスをかけないことが重要だという企業理念を持っており、社員がバイアスについて理解できるように講義を開いています。その中でGoogleの人事部を対象に行われた講義のムービーが公開されていて、Googleの無意識バイアスに対する対策を伺い知ることが可能です。

Unconscious Bias @ Work | Google Ventures | Office for Institutional Equity
https://oie.duke.edu/knowledge-base/toolkit/unconscious-bias-work-google-ventures

Googleの無意識バイアスに関する講義のムービーは下記から確認可能です。

Unconscious Bias @ Work | Google Ventures - YouTube


Googleの人事部に無意識バイアスの講義を行うのは、同社で人間分析を行うBrian Welle氏です。


Welle氏が最初に取り上げたのは、IT企業を題材にしたドラマ「Silicon Valley」のポスター。このポスターには男性のみで、女性は描かれていません。Welle氏は「このポスターが意味するのは『IT企業のトップを務める人物は男性である』というのが一般的な考えであるということです。実際にアメリカのベンチャー企業およびスタートアップの中で女性がトップを務める企業は全体の11%しかありません」と続けます。つまり、「IT企業=男性」という無意識バイアスがかけられているということです。


では、一体バイアスというのは何なのか、Welle氏はライオンを例にバイアスを説明。ライオンを見たときに「4本足で立っている獣がいる。猫に似ていて、たてがみがある。あれはライオンに間違いない。ライオンは肉食だ。だから逃げる」という思考プロセスから下される「逃げる」という決断はバイアスがかかっていない決定になります。この思考プロセスにバイアスがかかると、ライオンを見た瞬間にライオンと認識し「逃げる」という行動に素早くたどり着きます。


Welle氏によると、バイアスがかかった意志決定は、バイアスがかかっていないときよりも思考プロセスが圧倒的に短い時間で行われますが、バイアスがかかっていない決断は時間がかかる一方で機能的である一面を持ち合わせているそうです。


人間は毎秒1100万にも及ぶ情報を受け取っていますが、毎秒40しか処理できません。つまり、受け取る情報の99.999996%は処理できず、無意識のうちにスルーしてしまっているというわけ。


ここからWelle氏はバイアスに関するテストを社員に行います。テストの内容は画面に表示される単語が男性に関連するなら「左手」を、女性なら「右手」をあげるという簡単なものです。


画面に「夫」と表示されると、社員は左手を挙手。


「妻」と表示されれば、右手を挙げます。これを数回繰り返した後に……


今度は表示されるのが「リベラル・アーツ」に関するなら左手、「科学」に関するなら右手をあげるテストを行います。「エンジニアリング」は右手で……


「音楽」は左手といった具合です。


最後は「女性もしくはリベラル・アーツ」は左手、「男性もしくは科学」は右手という先に出た2つを混合させたテストを行います。みなさんは少し迷う様子を見せながら、左手、右手と挙手。


テストの後にWelle氏は「今行ったのはIAT(潜在連合テスト)と呼ばれるものです」と説明。潜在連合テストとは、人間が無意識のうちにとっている「潜在的態度」を測定するものです。ワシントン大学の研究では、今回とは反対に最後のテストを最初にやってから、次に最初の2つをやる方が早く回答できる、要するに素早く決断できるということが明らかになっています。先に最後のテストを行うと、バイアスの効力が強まるということです。


社員にバイアスがなんたるかを説明したところで、いよいよ講義の本題へ。企業にとって大事なのは多様性であり、Googleも他の企業と変わらず多様性に富んだ企業を目指しています。多様性がある企業とは、性別や国籍、人種、学歴などにとらわれずにさまざまな人材を雇用する会社のことです。Welle氏によると、女性が役員を務める企業は、そうでない企業より約53%も多い利益を上げているとのこと。多様性は、複雑な意志決定や創造性においてとても重要な要素ですが、多様性の長所を打ち消してしまうのが「無意識バイアス」です。


多様性を妨げる無意識バイアスを打ち負かすにはどうすればいいか、Welle氏は解決策となる「1:成功への構造」「2:データ収集」「3:わかりにくいメッセージに対する理解」「4:責任の分配」という4つの方法を提示。この中から1つを実行すると、無意識バイアスを防げるとのこと。


「成功への構造」を理解するには、「成功が具体的に何を意味するのか」を理解する必要があります。


Welle氏はGoogleが行った調査を使って成功の具体的な意味を説明。この調査は、名前以外の要素が全て同じ履歴書で面接に申し込み、企業からどれくらいの割合で返事がくるのかを調べるというもの。ただし、1つはエミリーやブレンダンといった典型的なアメリカ人の名前が、もう1つはアイーシャやタミカなどアフリカ系アメリカ人に多い名前が使用されました。調査結果では、アメリカ人の名前の履歴書は10通に1通の割合で面接実施の返事がきましたが、アフリカ系アメリカ人の名前では15通に1通しか返事がありませんでした。これは、会社がアイーシャという名前の人を拒んでいるというわけではなく、過去から蓄積されたアフリカ系アメリカ人に対する無意識の知識がそうさせているとのこと。


無意識の知識による影響、つまりバイアスをなくすにはどうすればいいか、Welle氏は「無意識のバイアスに打ち勝つには、会社の成功とは何か、履歴書を送ってきた人が会社に何をもたらすのか、をしっかりと理解する必要があります。履歴書から会社の成功に関して余分な部分を削除してください。例えば、名前は重要ですか?重要ではありません。住所、学歴も関係ありません。学歴についてはGoogle独自の社員調査で『学歴が仕事のパフォーマンスに影響を与えない』ということが判明しています。人事部の社員がよく気にするのは『最終学歴の学校を卒業した年』ですよね。卒業した年から年齢を予測することがよくありますが、年齢は仕事のパフォーマンスに関係ありません。結果として履歴書でみるべきことはほとんどないんです。履歴書に書かれていることをベースに質問を考えるのではなく、会社として最も重要なことを理解して質問を考えるべきです」と話します。


なお、Welle氏の言う「履歴書に記載されている卒業した年」とは、アメリカでは年齢差別が違法なため、履歴書に年齢を記入することがなく、採用担当者は「最終学歴の学校を卒業した年」から応募者の年齢を予測することが通例だそうです。

無意識バイアスをなくすためにGoogleは「構築された面接」というのを実施しています。これはGoogleが近年試している面接の方法で、「人材を募集している業種が何なのか」「その仕事をこなすには何が必要なのか」という2つのポイントをベースに面接の前に質問を作成し、面接希望者全員に同じ質問を問う、というもの。ロボットのようだと批判されることがありますが、Googleの調査では、事前に用意せずに自然な流れで質問する面接が、会社の成功に直結する結果をもたらさないことが判明しているとのこと。構築された面接は、無意識バイアスの効力を弱めて、会社で成功する人物を雇うのに最も適しているそうです。


無意識バイアスをなくすための2番目の方法は「データ収集」です。


人事部では社員の勤務評価を作成することがありますが、作成時にバイアスをかけないためにはデータ収集が重要です。例えば、男性と女性が一緒にプロジェクトをやってもらい、その勤務評価を人事部が作成するとします。1つのグループは役割分担が明確に決められていて、役割に対するデータを算出可能です。


もう1つのグループは2人で協力してタスクをこなしていきます。2人が個別に何をしたかはデータで残らないため、人事はデータ以外の要素で勤務評価を作成。


2つのグループに対する勤務評価を算出すると、個別にタスクをこなしたほうは男性・女性のポイント差はほとんどありません。しかしながら、データが残らなかった後者では、女性の方が男性よりも大きくポイントを下げています。


これはGoogleの社内調査のデータで、Welle氏は「後者のグループにおける女性のポイントの低さは、無意識バイアスが大きな影響を与えた結果だと言えるでしょう。無意識バイスの効力を弱めるには正しいデータに基づいた意志決定がとても重要なのです」と話します。


3番目は「わかりにくいメッセージに対する理解」ですが、一見何のことかはわかりません。


Welle氏は「わかりにくいメッセージに対する理解」を、Googleが社員に行った「社内で接する5人の社員をリストアップする」というアンケートの結果を使って説明。下記の画像はエンジニアのアンケート結果をマッピングしたもので、無数の青い点が線でつながっているのがわかります。Welle氏によると、青い図の中心にいる人ほど、多くの情報を収集でき、かつ、影響力が高くなるとのこと。


上記の調査結果に緑色の人事と、赤色の営業の結果を加えると、下記の図のようになります。図を見ると、エンジニア・人事・営業が接触する面が少なく、部署を超えたつながりを持てていないことがわかり、これは企業にとってプラスになりません。


Welle氏によると、同じ部署の社員や知っている人としかつながらないのは、バイアスの一種がかかっているからとのこと。これを解決するには、自分が知らない社員とからんだり、違う部署を訪れてコミュニケーションをとったりすることが必要。共有スペースや食堂で面識のない社員とコミュニケーションをとるのも1つの手段です。


最後は「全員が責任を持つ」という方法です。


「全員が責任を持つ」とは、1人が独自の判断で意志決定を行わないということ。そのためには、「バイアスにかかっていないか社員同士で確認」「自分の意志決定を他人に評価してもらう」「ミーティングを行い大勢の人間の意見を意志決定に反映させる」ということが重要。このプロセスの処理には、独断で決定するよりも時間がかかりますが、やるに値するそうです。


これにてWelle氏の講義は終了です。Welle氏の講義は人事部向けに行われたものですが、無意識バイアスについてとても分かりやすく説明していて、いかに普段の生活でバイアスをかけない判断力が重要なのか、そしてバイアスをかけないことがいかに難しいのか、よく分かる内容になっていました。

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in メモ,   動画, Posted by darkhorse_log

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