サイエンス

幼少期のトラウマは大人になってからも健康や財産面に悪影響を与え続けることが明らかに

By Phil Dragash

肉体的もしくは精神的に衝撃的な出来事を経験すると、人は心に心的外傷(トラウマ)を負います。最新の研究によれば、幼少期に抱いたトラウマは大人になってからも当人に悪影響を与え続けるようで、その範囲は健康・財政・教育レベル・BMIなどさまざまであることが明らかになりました。

Welcome to the 1958 National Child Development Study - Centre for Longitudinal Studies
http://www.cls.ioe.ac.uk/page.aspx?&sitesectionid=724


Childhood trauma affects the health and wealth of middle-aged adults | The Verge
http://www.theverge.com/2015/2/2/7962467/childhood-trauma-midlife-adulthood-study

この研究は米国科学アカデミー紀要(PNAS)で発表されたもの。研究を行ったのは、French Institute of Health and Medical Researchの科学者であるミシェル・ケリー・アーヴィング氏を含む研究チームで、イギリスで行われている1958年生まれの1万7000人を対象とした追跡調査「National Child Development Study(NCDS)」のデータを分析することで、幼少期のトラウマと成人の健康状態のつながりを解き明かしています。

アーヴィング氏と同僚たちはNCDSのデータから、16歳までの間に「まともな食事が食べられなかった」ということや「身体的な虐待を受けた」などのトラウマを負った経験がある7000人分の情報を収集し、彼らが23歳から33歳の間にどのような生活を行っていたのかを調査しました。調査の結果、人は幼少期に経験した高いレベルのストレスを大人になるまで引きずっていることが判明、さらに幼少期のストレスは健康に関する意志決定や財産・教育レベル・BMIにまで間接的に関わっていることが分かりました。

By Alejandro Giacometti

幼少期のストレスやトラウマが人間の成長にどのような影響を与えるかを調査した研究は、これまでにもいくつか存在していました。1990年代中頃からアメリカ疾病予防管理センターが主導で行っている、有害な幼時体験に関する研究(Adverse Childhood Experiences Study)では、1万7000人の成人から過去の「虐待」「育児放棄」「家庭崩壊」などに関する情報を集めています。この研究によれば、幼少期に嫌な経験をした子どもは、大人になってアルコール中毒や心臓病のような慢性病に苦しんでいるそうです。

これらの研究結果から、幼少期のトラウマやストレスが大人になってからも大きな影響を与えることは明らかですが、「不健康な行動やBMI、社会経済的地位などでしかそれらの影響は見られない」と語る科学者もいます。しかし、幼少期のトラウマと大人になってからの健康状態や財政状況などの間にある生物学的なつながりの理由が明らかになっていなくとも、ストレスは長くそれを抱えた本人の神経や内分泌、免疫系に影響を与え続けることは明らかである、と今回の研究結果は示唆しています。

By Michael Bentley

「私はこの研究が重要なステップになると考えている」と語るのは、ノースカロライナ大学のThe Center for Developmental Scienceにて博士研究員として働くジェイミー・ハンソン氏。ハンソン氏は2014年に幼少期のストレスが脳にどのような影響を与えるのかについての研究を発表した人物です。ハンソン氏は今回明かされた研究について、「我々は、ストレスが健康に良くない影響を与えることを知っています。また、5歳の時に受けたストレスが、25歳の頃の意志決定に影響を与え、その意志決定により50歳の頃に脳卒中のリスクに悩まされるということは大いにあり得ます」とコメントしています。

「小さな頃に見たホラー映画やサスペンスドラマのワンシーンがいまだに忘れられない」という人もいるかと思いますが、そういったトラウマの影響力は想像以上に絶大なようです。

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in サイエンス, Posted by logu_ii

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