取材

海外への際限ない援助に秩序と責任を、必要なのは「啓発」ではなく「対話」では?


残念なことに、貧しい国の人ほど働きません。でも、それで生活ができているなら、誰も責めることはできないでしょう。それだけで解決するのに、私たちは援助を強制されています。海外援助に携われる団体は「世界では4秒に1人、貧困で幼い命が犠牲に」「何もできずに、幼い命を失う悲しみ」と悲劇で寄付を募りながらも、なぜそうなったのか、そして、これからどうしていくのか、当たり前のことは説明しません。日本をはじめとする先進国は選挙によって政権が変わりますが、海外に目を向けると、10年以上政権が変わらない国も普通。リビアやシリアといった長期独裁政権にもODA(政府開発援助)は投入されていました。

こんにちは、自転車世界一周の周藤卓也@チャリダーマンです。合計で7年以上に渡り130カ国を訪れているのですが、海外援助の必要性がどうしても理解できません。貧しい国ほど人と人の距離が近く、子どもたちに囲まれて過ごす生活は羨ましくも感じます。私たちと比べたら生きていくのに苦労するかもしれませんが、だったら彼らが何とかするのが問題の本質。責められるべきは、日本で暮らす私たちではありません。

◆援助が必要な国とは
貧しさは理由を伴って存在しています。物価は安いのですが、不便なことも多いのです。

メキシコの宿では、蛇口が2つあるもののどちらがお湯か分からず苦労しました。印をつければ一目で分かるのに、彼らはそれをしません。ギニアの宿では、電球が切れました。予備などないし、いくら待っても音沙汰なし。そこら辺にある電球を拝借しようとすると、ようやく動いてくれました。ジャマイカのバーガーキングで頼んだオレンジシュースが出てきたのは20分後。確かに注文は立て込んでいたものの、キレのない従業員の動きじゃ仕事は進みません。貧しい国の人ほど働かないし、効率の悪さが目立ちます。

安いから汚い宿なのか、汚い宿だから安いのか……。


「ゴミはゴミ箱に」と当たり前のこともしません。街にゴミが溢れた状況なら、病気にもなりますって。ゴミ箱がないなら作ればいいし、分別すれば生ごみは肥料に、可燃物は燃料に変わります。こんなのは明日からでもできること。でも、それをしないのは人々の意識の問題でしょう。きれいな水を確保できません。だからといって、雨水を有効には使わないんですよね。タンザニアの宿でスコールが降ったというのに、渡されたシャワーの水は茶色でやるせなくなりました。

モーリタニアの安宿から見た隣の家の屋根。


道端にごみが散らばるマリの首都バマコ。


でも、いいじゃないですか。ハンバーガーを60秒で、牛丼をワンオペで、作る必要がないんですよ。

◆現地の知恵
魚を与えるのではなく、魚の釣り方を教える」というのは援助で引き合いに出される言葉。でも、意欲がない相手に教えても何も変わりません。海外でハッとさせられるのは、現地に生きる人たちの知恵だったりします。アフリカの人は頭に物を載せているのですが、小魚を均等に並べて乾燥させながら歩いていたのには言葉を失いました。ミャンマーの市場で精肉を売っているおばちゃん。吊るされた水の入ったビニール袋は、振り子となって蝿を払う役割を果たします。冬のグルジアでお世話になった家の暖炉は、牛の糞を燃料にしていました。ずっとそうやって暮らしてきたのでしょう。

廃材を用いたチリトリ。


貴重品ロッカーの南京錠が、チェーンに繋がれていました。こうなっていると鍵を開けた後に、南京錠本体を紛失しません。


自転車のチャイルドシートは手作り。


日本ならスーパーマーケットの会計では全自動でお釣りが出てきますし、セルフレジの導入も進んでいます。牛丼屋だと自動販売機で食券を購入してから着席。厨房からベルトコンベアに乗って丼が運ばれてくる間に、ホールの人は別の作業をこなしていました。駅では非接触型の電子マネーの普及で、流れるように改札を進んでいきます。電車に乗るにしても降りる人が済んでから。私たちが列に並ぶのも、誰もが住みやすい社会を作るためではないでしょうか。

日本の郵便局に置かれた便利な道具たち。


ネットカフェのWi-Fi接続の説明。途上国の安宿だと、紙に書いて渡してくれるのですが、分かりにくくて繋がらないことも。


梱包材を軽量化すれば、輸送コストも下がります。


発展している国ほど、仕事の効率を工夫しています。アメリカでクレジットカードを使うと、5秒ほどで支払いが済んで度肝を抜かれました。

◆変化の姿勢
アフリカの旅を終えた南アフリカ。ドバイ経由で日本に帰国するフライトで、隣に座った黒人女性は参考書に手を伸ばしていました。発展している国の人ほど、勉強するようになります。「4人の女子学生がおしっこを燃料にした発電機を開発」「独学で廃材を利用した風力発電機を作り上げた少年」といったニュースも飛び込んできます。世界を変えるのは、そこに住んでいる人たちでしかありません。

実際に現地を旅しても、
巨大樹とオカダがある西アフリカのシエラレオネ、内戦からの復興中のこの国で明るい未来への可能性をみました
ルワンダの新しい国づくり、「ジェノサイドの悲劇」から「アフリカの奇跡」へ
「中米のシンガポール」も夢ではない経済発展で確実に変わりつつあるパナマについて
と、行動を起こしている国はその変化を肌で感じ取ることができます。いくら井戸や学校を作っても、そこに住む人が変わらないと始まらないのです。

シエラレオネの優れた衛生観念。


バイクにヘルメット着用を強制したルワンダ。事故で命を落とす人が減ることに繋がります。


パナマのバス停で運賃を徴収する人は、このような小銭ホルダーを完備していました。


◆援助の必要性
アフリカの幼い兄弟が写った写真を使って募金を訴えていたNPO団体に「なぜ1人では飽きたらず、もう1人生んだのでしょうか?」とメールで質問すると「なぜでしょうね」という回答でした。「産まないという選択肢がなかったのでは?」とまるで他人事。きっと、幼い兄弟は更に増え、更なる援助が必要になっているでしょう。子どもをたくさん産まない私たちが、他人の子どもを育てる義務はありません。それなのに、海外援助に携わる多くのNPOは寄付金控除の活用を訴え、間接的に全体に負担を強いてます。

活力があるのは素晴らしいのですが、「無制限に支えていく」のも違います。


ODAに関しては、アラブの春で民衆デモからが発生したエジプトのムバラク(30年間)、リビアのカダフィ(42年間)、チュニジアのベン・アリ(23年間)、イエメンのサレハ(33年間)といった長期独裁政権にも使われていました。その国の国民が望むなら口を出す話でもありません。ただ長期政権になればなるほど、汚職や腐敗が蔓延するのでは?分かりやすくいえば「北朝鮮に援助が必要か」という話です。つい最近だと、西アフリカのブルキナファソでクーデターが発生。27年にも及ぶコンパオレ政権に幕が下りました。

今なお続く長期政権にもODAは投入されています。

・ウズベキスタンのカリモフ大統領→1991年から現職(23年間)
・カザフスタンのナザルバエフ大統領→1991年から現職(23年間)
・スーダンのバシール大統領→1989年から現職(25年間)
・ウガンダのムセベニ大統領→1986年から現職(28年間)
・ガボンのボンゴ大統領→1967年から2009年(41年間)、2009年からは息子が現職。

だからといって変化が伝わってこない、これらの国々へ援助は本当に必要なのでしょうか?


マラウイでは、独裁傾向が見られたムタリカ元大統領に対し、欧州諸国は援助を止めます。この援助停止と、主要農産物であるタバコ価格の下落によって、私が訪問した時には現地通貨マラウイクワチャが暴落して、経済は混乱していました。程なくしてムタリカ元大統領は心臓発作によって急死。その後を継いだバンダ前大統領は、政府専用機の売却や自らの給与を削減することによって、援助国との関係を改善させます。場合によっては、このような圧力も当然でしょう。

子どもたちは元気だったマラウイ。


NPOにしても、ODAにしても、援助が必要な原因を突き止めることなく、援助に対する責任を求めることなく、その場しのぎの対応を続けているように見えます。子どもを育てられない環境ならば、子どもを増やさない努力が必要では?「傷んでいた道路の補修を行いました」……それでは、次はどうなるのでしょう?

日本の国旗が描かれた給水塔。


◆啓発ではなく対話
なのに、彼らは啓発には力を入れます。私たちが何も知らないとでも思っているのでしょうか。

最近では「なんとかしなきゃ!プロジェクト」という、途上国援助への理解を求めるイベントが行われています。運営には独立行政法人国際協力機構(JICA)も名前を連ねていました。著名な方々も参加し世界各地を訪れているようですが、当り障りのない応援のコメントには疑問です。報酬は出してないものの、旅費を出しているという話ですので当然でしょう。事務局に尋ねてみても「それぞれの旅費については公開しておりません」といった返信でした。

なんとかしなきゃいけないのは、私たちではなく現地の人たちでは?

なんとかしなきゃ!プロジェクト
http://nantokashinakya.jp/


ODAも、調べれば調べるほど謎が深まるばかり。入札に名前の上がるコンサル会社のホームページを覗いてみると、事業内容の大半が官主体の海外プロジェクト。そればかりで経営が成り立つはずはありませんが、公的事業の割合が公開されているわけでもなく、ただただ首を傾げるばかりです。外務省、JICA、NPO、コンサル会社で完結してしまう閉ざされた世界が構築されています。援助する側にとって都合のいいことは、積極的に公開されますが、そうでない情報となる場合は、どうやって確認したらいいのでしょう。例えば、青年海外協力隊の方が、赴任地で事故に遭って亡くなっていたとしても、公表する義務がなければ誰も知ることもなく、原因も対策も明らかにされることもなく、同じことが繰り返されるかもしれません。

食事にしても、出版にしても、宿泊にしても、民間だと何もかもがレビューされる時代となりました。だからこそ貴重な税金が投入される海外援助にも、たくさんの意見が反映されるべきではないでしょうか?ODAの実施案件には評価報告書が公開されているのですが、閉じた世界で完結していて異論を挟む余地がありません。

事業評価 | 事業・プロジェクト - JICA
http://www.jica.go.jp/activities/evaluation/index.html


そもそも海外援助より、ケニアで食品会社を成功させた佐藤芳之氏や、ウガンダで繊維工場を営んでいた柏田雄一氏のように、利害関係がはっきりするビジネスの方が現地の発展に繋がると思うのですが……。アフリカの奥地で銀行の役割を果たすのは、民間の携帯キャリアだったりします。

消費税増税が議論に上がる今だからこそ、このような記事を書かせて頂きました。皆さんは何を考えますか?

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in 取材, Posted by logc_nt

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