メモ

なぜ歩きながらだと考えがうまくまとまるのか?

By Ian Muttoo

Appleの故スティーブ・ジョブズは何か重要な話をする時や考えをまとめる際にはとにかく公園や道路など、あちこちをよく散歩していたというエピソードがあるように、なかなか考えがまとまらない時に、ふらっと外を歩いていると良いアイデアが突然浮かんできたりするのは万国共通の体験。そこで、「なぜ歩きながらだと考えがうまくまとまるのか?」についてThe New Yorkerがさまざまな角度から考察しています。

Why Walking Helps Us Think - The New Yorker
http://www.newyorker.com/tech/elements/walking-helps-us-think


ユリシーズ」の作者であるジェイムズ・ジョイスと、「ダロウェイ夫人」の作者ヴァージニア・ウルフは、「意識の流れ」を小説の中で表現した小説家たちです。この2人の作品に出てくる登場人物の足跡をたどると、小説家として後世にまで名を残すジョイスやウルフが、いかに「歩くこと」と「考えること」の間にある深いつながりを活用していたかが分かります。

これはどういうことかというと、ジョイスやウルフは実際に自分の足で町を歩いたあとに、小説の登場人物に同じように町の中を歩かせた、というもの。例えばウルフがダロウェイ夫人を歩き回らせる場合は、過去のロンドンや頭の中にあるイメージのロンドンなどを織り交ぜてその中を歩かせたそうで、これにより作中の登場人物の意識の移り変わりをより繊細に表現できるようになったのでは、とのこと。

他にも、作家のヘンリー・デイヴィッド・ソロー自身の日記の中で「足が動くと、私の考えも流れ始めます」と記述しており、「歩くこと」が「考えること」に良い影響を与えることを直感的に感じていたようです。さらに、トマス・ド・クインシーは、「ウィリアム・ワーズワースの詩には山を歩き、森を通り、公道を歩いている足音が満ちている。そんな彼は、一生のうち18万マイル(約29万キロメートル)は歩いているはず」と、ウィリアム・ワーズワースが歩きながらさまざまなものから詩のインスピレーションを受けていたことを指摘しています。

By Jeffrey Zeldman

作家の多くが「歩くこと」と「考えること」の間にある奇妙な力を活用していますが、これらの間には一体どのような関係があるのでしょうか。

人間は歩くと心臓の鼓動が速くなり、座っている時よりも多くの血が体内を循環することになるので、血中の酸素が筋肉だけでなく体中のあらゆる器官に行き渡るようになり、脳にも酸素がたくさん供給されるようになります。この結果、運動中や運動後に記憶や注意力に関するテストを行うと、座っている際よりもパフォーマンスが向上することが分かっているのですが、これはとても軽い運動でも十分に効果を発揮するそうです。

また、定期的な運動は脳細胞間の新しい連結を増やすことにつながり、脳組織が年齢と共に退化していくことを防ぐことにもつながります。さらに、海馬の量を増やしたり、新しいニューロンの成長を刺激したり、ニューロン間での信号のやり取りを行うレベルを上げてくれたりもするそうで、運動が脳に与える影響がいかに大きいかもよく分かります。

By MR McGill

「体を動かすこと」自体が良いことのように思えますが、運動は人間の考えを変化させることもあり、それが考えごとに適しているとは限りません。運動時に聴く音楽が人間に与える影響について研究している心理学者によれば、人間はハイテンポな音楽を聴くとより速く走るようになり、走ったり、自転車や車などに乗って速く移動したりすると、速いテンポの音楽を聴きたくなるそうです。他にも車の運転手が大きな音でテンポの速い音楽を聴いていると、無意識にいつもよりも強くアクセルを踏んでしまうそうで、運動や移動は無意識のうちに人間のメンタル部分に大きな影響を与えることが分かっています。なので、「自分のペースで歩くこと」以外に、心と体を自然な状態にリセットする方法はない、とのこと。

散歩をすると、歩くペースは自然と自分の気分や調子に合わせて速くなったり遅くなったりするものですが、早歩きや遅く歩いたりを意識的にすることで、自分の考えるペースを自由に変化させることも可能です。

さらに、散歩中は「歩くこと」に集中する必要はないので意識が自由になり、さまざまな考えが浮かび上がるのですが、これは革新的なアイデアや鋭い洞察を見つけることのできる精神状態のひとつであることが研究により明らかになっています。

By "El Gabo" - Davide Gabino

他にも、スタンフォード大学のMarily Oppezzo氏とDaniel Schwartz氏の研究では、「歩くこと」と「考えること」の関係を直接調査しています。

この研究では176人の大学生に創造的思考に関するテストを行ってもらい、その中のひとつでは被験者にタイヤやボタンのようなどこにでもあるものの「型にはまらない使い方」を提案してもらったそうです。このテストの結果は、歩きながら問題を考えた被験者は、座りながら考えた被験者よりも多くの奇抜な使い方を提案した、というものでした。しかし、「歩くこと」が裏目に出る場合があることも判明しており、「cottage(コテージ、カッテージ)、cream(クリーム)、cake(ケーキ)」という3つの単語から共通して連想できる単語を探す、というテストを行った際には座ったまま答えを考えたグループが良い結果を出しましたそうです。なお、この問題の回答は、「cheese(チーズ)」です。

これに対して研究者は、「自由な発想が求められるようなテストの場合、歩きながら回答する方が良い結果を導き出せますが、特定のものに焦点を当てるようなテストの場合は歩きながら答えを考えるのは逆効果かもしれない」と述べています。

By Dennis Wilkinson

他にもサウスカロライナ大学のMarc Berman氏の研究によれば、普通の道を歩くよりも樹木園のような緑のある場所を歩いた方が、記憶テストのパフォーマンスが向上することが分かっています。さらに、注意力には限度があり、何もしないでいても時間と共に注意力は低下していくので、低下を防ぐために緑のある場所を歩くと良い、ということも判明しています。

ただし、都会を歩くことにも良い効果はあるそうで、ウルフもクリエイティブなエネルギーをロンドンの町から得て、サウスダウンズの自然の中で心を休めて小説の執筆にいそしんだと言われています。

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in メモ,   サイエンス, Posted by logu_ii

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