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「Appleはメディア操作用に匿名のSNSアカウントを持っている」など、Appleの広告戦略のこれまでと今後

By Anthony Sigalas

人びとの間でAppleが支持を集めている理由は、製品やサービスの質の高さはもちろんですが、その広告やイメージ戦略の巧みさでもあると言われることがあります。Apple関連の情報を専門に扱う9to5Macは、そんなAppleの広告戦略について9個のキーワードを用いて解説しています。

Seeing Through the Illusion: Understanding Apple’s Mastery of the Media | 9to5Mac
http://9to5mac.com/2014/08/29/seeing-through-the-illusion-understanding-apples-mastery-of-the-media/

◆1:Appleのイベントと一般の目に入ることのない「白いブックレット」
ここ数年は9月に行われることの多い新製品発表をはじめ、Appleが開催する各種イベントの多くは緻密な準備と当日のマネジメントが行われていることが知られています。たとえば、過去の発表イベントでは、会場内で突然意識を失って倒れる人がいたのですが、PRチームによる迅速な対応が行われた結果、キーノート講演は一切中断されることなく進められ、特に現地にいなかった人はその出来事にまったく気付かないままの人も多かったはず。このように、さまざまなイベントが始まる前にはあらゆるハプニングの可能性が検討され、何が起こっても進行が妨げられないように綿密な準備が練られています。

By Ben Miller

開催にあたりPRチームのメンバーは、「キーノートイベント全体は一つの『生産工程』のようなものであり、それぞれの流れを完全に理解しなければならない」とたたき込まれ、照明の雰囲気やスクリーンの配置具合、誰がどこに座るか、などの細かい部分が事前に全て検討され、決定されることになります。また、当日の会場には、一般のジャーナリストに紛れてAppleの社員が密かに配置され、波乱が起こるリスクを限りなく低くする役目を与えられています。

さらにこの準備は、イベントの数週間前から開始されています。PRチームやマーケティングチームは各種報道の動向を見守り、何が期待されているのかを随時把握し、少しずつ情報をリークしながら情報をコントロール。開催一週間前には、当日の進行や人員配置、バックアップ体制などが記された「白いブックレット」がPRチームのメンバーに渡され、長時間にわたる会議が行われることになるとのこと。会議終了後にブックレットは回収され、すぐさまシュレッダーにかけられて情報が漏えいしないように廃棄されるという徹底した対応がとられています。

◆2:Infinite Loop 3番地を拠点とするPRチーム
他のメーカーとは異なり、AppleはPRおよびコミュニケーションの戦略を全て自社内で行っているのが大きな特徴といえます。会社そのものの規模に比べるとPRチームの規模は非常に小さく、クパチーノのApple本社にはおよそ30名、そして世界各地に散らばり、イベントを取り仕切ったり資料の翻訳、プレス対応を行うスタッフが数十名いるだけというコンパクトなものとなっています。


本社のすぐ近く、クパチーノ・Infinite Loop 3番地に位置するPRチームはさらに小分けの部門として「Momentum」「Mac」「Corporate Communications」「iPhone」「iPad」「iTunes」「Events」の各チームに分かれています。これは、およそ10年前は「Mac」「Music」そして「Corporate Communications」の3つだけだった時代から状況が変化し、iPodやiPhone、そしてiPadの重要性が高まるにつれ、拡張されてきたという歴史があります。

この中で、「Momentum」チームはApple製品をポップカルチャーに融合させるという目的が与えられたチームとなっており、主なスポーツリーグのチーム運営にiPadを導入したり、セレブにApple製品を使ってもらうことでブランドの露出と価値を高める役目を担っています。また、発売前の製品がテレビなどに露出するようなケースにはMomentumチームが一役かっているとのこと。

◆3:戦略「Art of Deep Background」とプレスのコントロール
PRチームの仕事の一つが、メディアでの自社製品の扱いをチェックすることです。ブログやSNSをはじめ、タブロイド紙などでどの有名人がApple製品を使っているかチェックしたり、有名ブログのライターがAppleについて何を書いてるかをチェックするのですが、この際にスタッフはソーシャルメディアのアカウントを匿名で作成してネット上の動きをモニタリングしているとのこと。ここで得られた内容はAppleの重役に定期的に報告され、世の中でのAppleのカバー率を把握するのに使われています。もしその現状が思わしくない場合には、あらゆるチャンネルを通じて知名度アップのための施策を行い、時には著名なニュースメディアを使って情報を発信し、てこ入れを行うこともあるとのこと。

By Ben Adamson

以前にロイターがAppleを「視覚障害者コミュニティのチャンピオン」と評しながらも、クックCEOの過去の発言を引用して「取り組みはまだ不十分でもある」という記事を掲載した際に、Appleはロイターに対して記事の修正を非公式に打診するもロイターはそれを拒否。するとAppleのPRチームはブロガーを集めてロイターに反論する記事を書くように仕向け、結果的にAppleの主張を世間に浸透させたという経緯がありました。

◆4:PRチーム「君主」の離脱
ジョブズ時代からAppleのPRチームを率いてきたケイティ・コットン氏は、仕事に関しては非常に要求が高い人物として知られていました。自らのチームスタッフにも非常に細かな管理を行っていたことでも知られており、ジャーナリストからは「君主(Tyrant)」と呼ばれて恐れられていたほど。しかし一方でその手法や人柄を好意的に受け止める人物も存在していました。


コットン氏はまた、ジョブズ氏の手法の多くを受け継いでいたことでも知られ、「ミニ・ジョブズ」と呼ばれることもあったほど。それだけに、ジョブズ氏がこの世を去ってクック体制に移行する際には「コットン氏はAppleを去るだろう」と多くの人が予想したと言います。そして実際、ジョブズ氏の死から3年後にコットン氏はAppleを去ることに。表向きの理由は「家族と過ごす時間を増やすため」というものでしたが、クック氏が従来のジョブズ路線からあえて距離を置く方向性を持っていたことが本当の理由であると受け止められています。

◆5:チームを率いる二人のリーダー
Appleからの離脱を発表した約一か月後、コットン氏は18年にわたってPR活動を率いてきたAppleを去ります。退職後に仕事のポストをオファーする企業も多かったとのことですが、全て断ったとのこと。そして、コットン氏の方針として自身の仕事を受け継ぐ後継者は指名されていませんでした。そこでクック氏は暫定のトップ体制として、長らくチームに携わってきたスティーブ・ダウリング氏とナタリー・ケリス氏の2名をPRチームのトップに据えたのですが、この体制は現在も暫定で継続されたままになっています。

左は新たにチームを率いているダウリング氏、右上が前リーダーのコットン氏、そして右下がケリス氏。


ジャーナリスト出身のダウリング氏は「コットン氏よりも頭がいい」と評価されることも多く、クック氏も高い評価を持っている様子。クック氏も会議でダウリング氏の発言を参考にすることが多いとされており、両名の距離は近いものがあるといえそうです。

一方のケリス氏は主にiPhone関連のPRを担当。その手法は前任のコットン氏に似ているとも評されているのですが、「コットン氏が去った後のポストを埋める『コットン2世』」というドラマ的視点で見られることもあるといい、従来とは異なる方針を示しているクック氏との方向性に相違があるのは明らか。「クック氏がAppleのPR手法に新風を入れるのであれば、ケリス氏が登用されることは考えにくい」とする声も聞こえてきます。

◆6:揺れる帝国「マップ」問題から「Beats」買収
Appleにまつわる問題はさほど多く残されていませんが、iPhone 4の際に発生したアンテナ問題はジョブズ氏が「他社の端末でも発生しうる問題である」と発言したことからも大きな問題となり、これが原因で責任者が退社したと言われる騒動に発展しました。一方のクック氏は同様の問題に対しては素早い対応をとって問題が炎上することを防ごうとする傾向が見られます。

By Mike Deerkoski

iOS6/iPhone5のマップ問題の際、クック氏は責任者であったスコット・フォーストール上級副社長を「強いリーダーシップ」を発揮して更迭しました。また、ユーザーに向けて謝罪と問題回避のための対応策を公表しているのですが、この際にはPRチームと綿密に連携をとりながら文章を作成したとのこと。Appleの次期CEOとも目されていたフォーストール氏を切るという決断はクック氏にとっても簡単なものではなかったはずですが、それだけに問題解決に向けての強い意志の表れと見ることはできそうです。

また、「ジョブズ氏の死去とともにAppleの黄金期は去った」とするケイン岩谷ゆかり著の「沈みゆく帝国 スティーブ・ジョブズ亡きあと、アップルは偉大な企業でいられるのか」が出版された際には、クック氏をはじめフィル・シラー氏やエディ・キュー氏らは、反論する声明をPRチームを通さずに個人的に発信するという行動に出ます。この行動に対し、Appleの従業員は「ジョブズ氏のような行動だった」と感じたと語っています。

◆7:発表前レビュー、発表会、そして発表会後レビューでの見せ方
Appleが発表前の端末をレビュー用に一部のジャーナリストに貸し出す際でも、必ずキズや汚れなどがついていないか検査が行われ、完璧な状態で手元に届けることになっているとのこと。以前はごく一部の専門ジャーナリストに限られていたという新製品の発売前レビューですが、現在では一部のニュース系サイトや有名ブロガーにまでその対象は拡大されています。

By Chris Makarsky

またその際にはターゲット層に応じたメディアに対してレビューを許可している様子も見受けられるとのこと。さらに、レビューを担当するためには「Appleの意向に沿った内容」であることが暗に求められ、これに反する場合にはレビューの機会は一切与えられないことが浮き彫りになってきています。

また、発表会後に行われる実機体験コーナーの際にも、端末の横にはかならずキーノートで発表された内容を示す掲示が置かれ、Appleが強調したい点を重点的に見せるための工夫が行われているのもポイントといえます。

◆8:スティーブ・ジョブズ氏と、プレスリリースの背後にあるプロセス
ジョブズ氏がAppleを率いていた頃、あるパートナーとの新しい協定を結んだ際のプレスリリース原稿を見たジョブズ氏は「相手先の名前が気に入らない」ことを理由に書き直しを命じたことがあるそうです。PRチームは仕方なく1からリリースを書き直し、企業の名前を入れた上でなんとか完成にこぎ着けたとのことですが、ジョブズ氏はどんな小さな点でも自分で確認して責任を負っていたことを示すエピソードとなっています。

By Charis Tsevis

また、iPadには「Magical(魔法のような)」、App Storeは「Legendary(伝説に残る)」、そしてiPhoneには「Revolutionary(革新的な)」という形容詞を冠するという戦略を始めたのもジョブズ氏。これらの言葉は単に発表会の際に用いられるのみならず、その後のマーケティングにも取り入れられるという筋の通った戦略が組まれています。また、Appleのリリースは必ず社内の人間が、しかも営業やマーケティング部門ではなくPRチームの人間が担当することがかたくなに守られてきました。

◆9:そして今後の展開は
ジョブズ氏がこの世を去り、コットン氏もAppleを去ったいま、PRチームのメンバーは「よりフレンドリーで、透明性の高い」リーダーのもとでの仕事に期待を寄せていると言われています。クック体制に移行してからのAppleにはさまざまな重役ポストが新設され、環境関連の部門にアメリカ合衆国環境保護庁でチーフを務めていた人物を招き入れたり、小売部門のトップに中国ビジネスに精通した人物を配置するなどの改革を進めています。

写真左に写っているのは、ファンの男性と和やかに記念写真に応じてフレンドリーさを感じさせるクレイグ・フェデリギソフトウェアエンジニアリング担当上級副社長。


現在は暫定ともいえるトップ体制が敷かれているPRチームにも、近いうちに正式にトップが就任するものとみられており、前述のダウリング氏、あるいはケリス氏、さらに社外からも適任とされる人物がピックアップされているとみられます。

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