電撃提携を結んだトヨタとテスラの関係を終わらせた両社の文化的衝突とは

By Toyota UK

2010年、今や世界でもトップの自動車販売台数をほこるトヨタとアメリカ・シリコンバレーを拠点とする新興自動車メーカーのテスラは共同で電気自動車(EV)を開発して販売することに合意しました。その2年後には、トヨタの既存車をベースにしたEVである「RAV4 EV」が発売されることになり大きな注目を集めたのですが、2014年にはテスラが共同プロジェクトを終了することを発表しています。両社の間でどのような問題があり、提携は解消に至ったのか、その詳細が明らかになっています。

How Tesla-Toyota Project Led to Culture Clash by Opposites: Cars - Bloomberg
http://www.bloomberg.com/news/2014-08-07/how-tesla-toyota-project-led-to-culture-clash-by-opposites-cars.html

2010年、テスラモータースの会長兼CEOを務めるイーロン・マスク氏はトヨタの豊田章男社長を招き、同社が販売するテスラ ロードスターのドライブを楽しんでいました。豊田社長のフットワークの軽さを象徴するようなエピソードだったわけですが、両者は一気に意気投合。数週間後には両社の提携が発表され、トヨタはテスラに対して5000万ドル(当時のレートで約45億円)を出資し、ちょうど閉鎖されることになっていたトヨタとゼネラルモータースの合弁工場だったNUMMIを4200万ドル(約38億円)で売却することを発表しました。

さらに、両社はトヨタが販売していたRAV4にテスラのEV技術を搭載した電気自動車「RAV4 EV」を共同で開発・販売することを明らかにしました。自動車業界の巨人が、自動車業界の中では最も新しい部類に入るスタートアップ企業と手を組んで車両を開発するという試みが関心を呼びました。実際に2社が共同開発したRAV4 EVは街を走るようになるわけですが、結果的にはトヨタとテスラの提携は必ずしも「成功」と呼べるものではなかったとされています。

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提携の際に両社が設定した販売目標台数は2600台であったのに対し、実際に販売されたのは2000台を下回る約1900台というもの。これは、通常のRAV4に比べて約2倍にも達する5万ドル(約450万円)という価格がつけられたこと、そして販売エリアがカリフォルニア州に限定されたことが不振の原因だったとされています。

しかし、実際にその根底にあったのは両社のエンジニアの間に存在した摩擦であると当時の事情に詳しい人物は指摘し、夢あふれる提携のプログラムが急激に解消に向かったことを語ります。この一件以降、トヨタはEVの開発からは距離を置くことになり、マスク氏が疑問を唱えている燃料電池自動車へとシフトする姿勢を見せています。

◆企業文化の衝突
この一件についてインテリジェンス・オートモーティブ・アジアのマネージングディレクターであるAshvin Chotai氏は「手を組む2つの企業が互いに成功しているからといって、その提携までもがうまく成功するということにはなりません。業界内における現状を脅かす者が現れ、しかもその最大手と手を組もうとするようなケースにおいては、その提携はさまざまな複雑な問題に直面する運命にあるといえます」と語り、企業同士の協力の難しさを語ります。

両社による提携の結果、双方が抱える弱点が浮き彫りになりました。トヨタは、テスラが持つ企業としてのスピード感を学び取ろうとしていたのですが、思惑どおりにことが進んでいるとは言いがたく、今後数年の新車開発ペースは従来どおりのスピードにとどまると考えられています。また、一方のテスラも今後の成長に欠かせない生産能力の弱さを露呈することになっています。

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2010年に両社の提携が発表された際、テスラのマスクCEOはこの提携を「歴史的」な出来事と表現し、豊田社長も「未来の風が吹いている」と語っていました。この提携でテスラが得たものは「破格の価格で購入した生産工場」と「業界最大手との提携という信用力」、つまり「お金」でした。一方のトヨタにおいては、リコール問題で業績を落としていた北米での勢いを取り戻すチャンスだったことに加え、提携時に5000万ドル(約45億円)だった株式は今や10倍以上の7億ドル(約700億円)にまでふくれあがっており、提携自体は不調に終わったものの、結果としては実りあるものとなったと言うことができそうです。

トヨタの北米事業を統括するJim Lentz氏は「豊田社長がマスクCEOと力を合わせることになった時は、『これはバッテリー(EV)だけの問題ではなく、自動車業界に参入してくる起業家による小さなスタートアップ企業との連携ということだ』と思っていました」と当時を振り返って語ります。

しかし、両社の衝突はすぐに姿をあらわし始めます。当時の開発を知る人物によると、テスラがトヨタに提出したRAV4 EVの提案設計には大きな欠落点があったとのこと。オートマチックトランスミッションを搭載する自動車には、ギヤの動きを強制的に止める「ツメ」が必ず備わっており、駐車時にレバーを「P」に入れた時にギヤをロックして車体が動かないようにする仕組みになっているのですが、テスラの設計からはこの機構が抜け落ちていることが分かりました。テスラの開発陣はすぐに問題解決を図りますが、そのままでは困難と判断してテスラ ロードスターにも搭載していた電磁式のツメを提案しましたが、トヨタは最終的に通常のツメを採用することに決定しました。

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またトヨタは、テスラが提案してきたバッテリー保護用のアンダーパネルの設計も却下し、車体剛性を強化することで安全性を確保するという決断を下しています。

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◆「ブラックボックス」問題
さらに決定的とも言えるのが、両社が「ブラックボックス」と称して門外不出とした車両制御システムの統合問題でした。

テスラの自動車を運転している時にアクセルを離すと、回生ブレーキが作動してバッテリーの充電が行われます。このときに車体は「カクン」と小さな揺れを起こすため、少しの慣れが必要になることがあります。しかしトヨタはこの挙動をよしとはせず、改善の判断を下したのですが、両社共に自社が保有する制御システムの公開には否定的であったため、その道のりは困難を極めたそうです。トヨタは自分のソースコードを公開せず、テスラもしかり。その時お互いが理由としていたのが「これはブラックボックスなので」というものだったそうです。

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上記のような問題に加え、REV4 EVプロジェクトには非常に厳しい締め切りが設定されていました。2010年に豊田社長とマスクCEOが発表してから2012年の販売開始までには2年という期間がありましたが、一般的に車両の開発には5~7年という期間を要する自動車業界においてこの時間は非常に短いものとなっていました。

目標販売数の2600台に対して実際の販売は1902台にとどまったREV4 EVには、リコールを必要とする不具合やプリウスの時に遭遇したようなアメリカ合衆国運輸省による調査が行われることはありませんでしたが、ユーザーの間には不満の声を挙げる人も少なくないとのこと。

2012年にREV4 EVを購入したカリフォルニア・サンディエゴ在住のTony Williamsさんは車両を振り返り「とんでもない悪夢のようなものでした」と語ります。モーターの故障で交換の部品を待っていたところ、修理に30日以上待たされたというWilliamsさんは今でもRAV4 EVに乗っているということですが、はやくニッサンのLEAFに乗り換えてしまいたいと語っています。

By NISSAN MOTOR CO., LTD.

これに対し、トヨタのスポークスマンであるJohn Hanson氏は「RAV4 EVに特有で、車両に共通して多く発生していた問題があるとは認識していない」として、車両そのものに大きな問題があったわけではないと語っています。

◆今後の両社の展望
トヨタとテスラによる共同開発事業が終わりを迎えようとする中、両社はすでに異なる道を歩み始める動きを見せています。テスラは販売が好調なモデルSに加え、2015年には新モデルとなるモデルXを発売する予定で、さらに2017年には小型セダンの「モデル3」がこれに続く予定となっています。

モデルX | テスラモーターズ


一方のトヨタは水素を燃料として電気を生みだして走行する燃料電池自動車(FCV)を次世代の核として見定めて開発を進めています。エネルギーを生みだす燃料を水素にすることで燃料の補給を容易にできること、そして水さえあれば海水からでも燃料を生みだせ、車両から排出されるCO2もゼロというFCVですが、システムが複雑になってしまうのがデメリットとされており、マスクCEOは燃料電池を意味する「FUEL CELL(フューエル・セル)」をもじって「FOOL CELL(フール・セル)」とあざ笑うかのようなコメントを残しています。

FCV(燃料電池自動車)| トヨタ


これに対し、北米トヨタのBob Carter副社長は「燃料電池の可能性を考慮しない者は、その危険を覚悟の上で笑っているのでしょう」とコメントし、「個人的には、まったく気にならない」と語っています。

ただし、両社とも関係を永遠に解消してしまうつもりはないということも見え隠れしています。マスクCEOは株主総会の場でトヨタと「プロジェクトを棚上げにして、数年後には再びカムバックする」という内容の合意を交わしていることを明らかにしています。一方でAutoPacificのアナリストであるEd Kim氏は、両社がまったく別の方角を向いていることを理由に「EVのことが頭にないトヨタがテスラと再びタッグを組むと言う風には考えられない」とする見方もあります。

ハイブリッド車で盤石の体制を築いたトヨタと、そのハイブリット車に続く世代の本命とも見られるEVの最先端を走るテスラの動きは、今後の自動車業界の主導権争いを占う意味でも注目を集めることになりそうです。

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