サイエンス

IBMが人間の脳と同じ構造を持つプロセッサーの開発に成功

By Keoni Cabral

人間の脳をコンピューターに例えることがありますが、実際の仕組みはお互いに全く異なるためにその実情は「似て非なるもの」です。IBMが新たに開発に成功したチップは、人間の脳が持つニューラルネットワークを再現するという既存のコンピューター技術とは一線を画すものとなっており、高い処理能力と高エネルギー効率が実現されています。

Why IBM’s New Brainlike Chip May Be “Historic” | MIT Technology Review
http://www.technologyreview.com/news/529691/ibm-chip-processes-data-similar-to-the-way-your-brain-does/

IBM researchers make a chip full of artificial neurons | Ars Technica
http://arstechnica.com/science/2014/08/ibm-researchers-make-a-chip-full-of-artificial-neurons/

コーネル大学とIBMによって共同研究が進められ、Samsungが28nmプロセス技術を用いて作成したチップの構造を示す図がこちら。チップには64×64個のプロセッサコアが配置されており、それぞれがネットワークで通信を行うように接続されています。その構造は、数千億個とも言われる神経細胞どうしが「軸索」と「樹状突起」によるニューロンによって巨大な神経細胞ネットワークを構成している人間の脳に近いものとなっており、従来のソフトウェアベースで再現されてきたものとは全く別のレベルで脳構造の再現が試みられています。


TrueNorth」と名付けられたチップには54億個以上のトランジスタと約4000個のコアが搭載されており、各コアはそれぞれニューロンのような動作を行います。コアには100キロビットのメモリが実装されており、ニューロンの状態やシグナルの受信元や送信先のアドレスなどの情報が保管されます。また、実際のニューロンのように、接続別のつながりの強さを示す値を保管するようにも設計されているとのこと。各コアは別の256コアからの信号を受け取り、さらに256コアへと信号を伝達できるような構造が形づくられています。

各コアには、別のコアへ信号を送るための「神経スパイク」を発信する通信デバイスが備えられています。各チップはグリッド状に配置されているため、送信先を指定する場合にはX-Y座標と各コアが固有で持つ「ニューロンID」を用いた指定が行われるほか、各コアは乱数生成機能を持ち、人間の脳に存在する確率的なスパイク活動を再現するような仕組みも備えられています。


TrueNorthが形づくるコアは既存のノイマン型コンピュータとは全く別の構造を持つものとなっているため、これまでのソフトウェアは全く使い物にならないのですが、TrueNorthは同じくIBMが開発したCOMPASSと呼ばれるニューラルネットワーク再現ソフトパッケージをハードウェアに実装するというものであるため、実現にあたって大きな問題はなかったとのこと。

TrueNorthは画像や音などの知覚データの解析に威力を発揮すると考えられており、しかも非常に高いエネルギー効率を備えているとのこと。システム全体の作動クロックは1kHzと現代の基準では極めて低いものとなっていますが、各コアは非同期的に通信を行い、処理を持たないコアはアイドル状態に遷移するように設計されているため、TrueNorthの出力密度は1平方センチあたり20mWとなっています。これは、既存のプロセッサであれば1平方センチあたり50Wであることと比較すると文字どおりケタ違いの省電力性能を持っていることになります。以下の図は、基板の左側に実装されたTrueNorthに対して右側のFPGAからデータを送って処理させた際の発熱量を示したもの。両者を比べてみると、まるでTrueNorthは動作をストップしていると感じられるほどの違いが生じているのが見てとれます。


調査チームでは参考となる数値の一例を挙げています。テストでは400×240ピクセル/秒間30フレームの映像を解析させて中に写っている歩行者や自転車、自動車などのオブジェクトを認識させる処理を実施。その際に消費された電力はわずかに63ミリワットだったそうです。

研究チームでは次のステップとして、このチップを元に多層化構造を実現して処理能力の向上を狙っていくとのこと。既存のコンピューター技術の進歩が限界に達しつつあるなかで、TrueNorthのようなニューロンコンピューターがどのような役割を果たせるのか、今後も見守って行きたいところです。

・つづき
IBMの「脳」を模した超省電力チップ「TrueNorth」が着実に進化、ネズミの脳レベルに到達 - GIGAZINE

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in ハードウェア,   サイエンス, Posted by logx_tm