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「忘れられる権利」による記事リンク削除と「知る権利」の難しいバランスとは

By David Goehring

2014年5月、EUの最高裁判所に相当する欧州司法裁判所は「私人は時間の経過に伴って現状にそぐわなくなった過去の個人情報に関する検索結果を削除するようGoogleに要求できる」との判決を下しました。これはオンライン上のプライバシー権に関する「忘れられる権利」を認めたもので、削除を希望する場合は所定のフォームを使って申請を行う仕組みが整えられています。

2014年7月には実際に特定のページへのリンクがイギリス版Googleの検索結果から削除され始めたのですが、その対象となったページにはBBCなどの報道機関が掲載した記事が含まれており、「報道の自由を損なうものだ」という批判が投げかけられています。

Google, Merrill Lynch And The Right To Be Forgotten - Business Insider
http://www.businessinsider.com/google-merrill-lynch-and-the-right-to-be-forgotten-2014-7

EU's right to be forgotten: Guardian articles have been hidden by Google | James Ball | Comment is free | theguardian.com
http://www.theguardian.com/commentisfree/2014/jul/02/eu-right-to-be-forgotten-guardian-google

Google takes down links to British journalism under 'right to be forgotten' rule | The Verge
http://www.theverge.com/2014/7/3/5867477/google-takes-down-links-to-british-journalism-under-right-to-be-forgotten

◆BBCによる元メリルリンチ会長に関する記事
2007年に表面化して世界中の金融市場を危機に陥れたサブプライムローン危機は、投資銀行として国際的に幅広い展開を行っていたメリルリンチにも大きな打撃を与えました。BBCのロバート・ペストン記者は、当時の会長であり巨額の損失を発生させた責任をとる形で事実上の解任に追い込まれたスタン・オニール元会長に関する記事を2007年に掲載していました。オニール氏は辞任の際に総額で1億6000万ドル(当時のレートで約180億円)という巨額の退職金を受け取っており、正当な権利であるとはいえ同社を危機にさらした責任者としての倫理観について世論からの猛反発を受けています。

BBC - Peston's Picks: Merrill's mess
http://www.bbc.co.uk/blogs/legacy/thereporters/robertpeston/2007/10/merrills_mess.html


ペストン氏が明らかにしたところによると、EU司法裁判所が下した判決を受けてGoogleは検索結果からこの記事へのリンクを削除することを決定し、ペストン氏にはその旨を通知するメールが送付されました。

Notice of removal from Google Search: we regret to inform you that we are no longer able to show the following pages from your website in response to certain searches on European versions of Google:

(Google検索結果からの削除に関する通知:遺憾ではありますが、貴社のウェブサイトに含まれる以下のページは、欧州版Googleでの特定の検索に対する表示が不可能になったことを通知いたします。)

2007年に掲載されたこの記事は現在でも存在しており、BBCのウェブサイトで閲覧が可能な状態。しかし、世界中ではすでに1兆ページ以上のウェブページが存在すると言われている現在の状況においては、Googleの検索結果から除外されると言うことは存在自体が闇に葬られることと同義と言っても過言ではないため、ペストン氏は「なぜGoogleは私のジャーナリズムを死に追いやるのか」と疑問を投げかけています。

◆Guardianによる元サッカー審判に関する記事
また、The Guardianの記事についても同様の削除が6件行われたことが明らかにされています。そのうちの3件はサッカーのスコティッシュ・プレミアリーグで過去に審判をつとめ、試合での判定について虚偽の説明をしたとして2010年に自ら審判を辞任したドーギー・マクドナルド氏に関する記事となっています。

Referee at centre of Celtic penalty incident escapes with a warning | Football | theguardian.com
http://www.theguardian.com/football/2010/oct/29/dougie-mcdonald-sfa-warning-penalty-celtic


「Dougie McDonald Guardian」というキーワードで検索した結果を比較すると、その違いは一目瞭然です。アメリカ版Googleの検索結果では上位3件にGuardianの記事がリストアップされていますが、イギリス版Googleでは同じ記事は一切表示されず、下位からそのまま繰り上がった結果が表示されているのがわかります。


◆Mail Onlineの4件の記事
イギリス最古のタブロイド紙「デイリー・メール」のオンライン版である「Mail Online」でも同様の削除が行われ、ドーギー・マクドナルド氏に関する記事、イスラム教徒が自身の名前によって航空会社への就職を拒否されたという記事、イギリスのチェーン店「テスコ」の従業員たちが利用客を侮辱する投稿をインターネットフォーラムで行っていたという記事、そして混雑する列車の中で性行為を行って逮捕されたカップルの記事の4件が検索結果から除外されたことが明らかにされています。

Google deletes MailOnline search about lying referee as 'right to be forgotten' kicks in | Mail Online
http://www.dailymail.co.uk/news/article-2678376/Google-deletes-MailOnline-searches-lying-referee-right-forgotten-kicks-European-searches.html


果たして国際金融全体にも影響を与えた事件と、電車内で性行為を行ったカップルのトピックを同じ土俵で語るべきかという疑問が残るところですが、このイギリス版Googleがとった措置に対してメールオンライン氏の発行人であるマーティン・クラーク氏は「図書館の書架に侵入して自分が嫌いな書物に火を放つようなものだ」とコメントしています。

この「忘れられる権利」を認める判決について、当事者となるイギリス版Googleのスポークスマンは「欧州司法裁判所の判決は、個人の『忘れられる権利』と社会の『知る権利』についての難しい判断をGoogleに求めるものである」との声明を発表し、容易な問題ではないことを明らかにしています。

そんなGoogleの苦悩を物語るようなエピソードも起こっています。一度は闇の中に葬られかけていたGuardianのサッカー審判の記事ですが、Googleは再び検索結果で表示することを決定。Googleのピーター・バロン氏は「学習段階にある」として実際の運用について試行錯誤を行っている様子を語っています。

Google 'learning as we go' in row over right to be forgotten | Technology | theguardian.com
http://www.theguardian.com/technology/2014/jul/04/google-learning-right-to-be-forgotten


なお、冒頭で触れたメリルリンチのオニール元会長の検索結果削除に関して、BBCのペストン氏は削除依頼主がオニール元会長その本人であったとする記事を掲載していますが、一方のGoogleはこれを否定してオニール氏以外の人物による申請であることを示唆。オニール氏の社会的立場や何億ドルもの公的資金が投入された経緯を踏まえると、果たしてオニール氏が「私人」であるかという判断には疑問が残るところであり、今後も「個人の忘れられる権利」と「社会の知る権利」との判断には難しい課題がつきまとうことは間違いないと言えそうです。

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