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盗まれた「5億円のストラディバリウス」にまつわる犯罪の実録

By Doug Miller

2014年1月に500万ドル(約5億円)の価値を持つストラディバリウスが盗まれるという事件がアメリカで発生し、すでに犯人が逮捕されていますが、犯人の逮捕に至った事件の経緯や、美術品レベルの価値を持つ楽器を所有することにまつわる犯罪の実録がVICE Newsでまとめられています。

The $5 Million Violin and the Telltale Taser: Inside an Epically Stupid Crime | VICE News
https://news.vice.com/article/the-5-million-violin-and-the-telltale-taser-inside-an-epically-stupid-crime


ミルウォーキー交響楽団(MSO)の主席バイオリン奏者フランク・アーモンド氏は、2014年1月のある零下の夜にウィスコンシン・ルーザラン大学の公演を終えて帰路に就いていました。時間は午後10時をまわったころで、アーモンド氏がバイオリンを載せるため自動車の助手席のドアを開けたところ、黒い帽子をかぶった女性に発射式スタンガンであるテーザー銃で撃たれて昏倒させられました。

意識を取り戻したアーモンド氏が車内を確認したところ、iPad1台と5万ドル(約500万円)の価値を持つ19世紀に作られた弓が2本なくなっていたほか、普段の演奏に使っていた500万ドル(約5億円)の価値を持つ1715年に作られたストラディバリウスが盗まれていたとのこと。しかし現場にはテーザー銃を撃つと同時に発射されるバーコード付のシリアルナンバーが記載されたタグが残っていたため、警察はすぐに36歳の理容師アラー容疑者が持ち主であることを特定。アラー容疑者は警察に対して「テーザー銃は盗まれた」と供述します。

By hradcanska

その4日後、アラー容疑者の知り合いのW・Dさん(仮名)は、アラー容疑者の理容店で散髪を受けて自宅まで送ったところ、アラー容疑者が窃盗事件に関与していることをW・Dさんに告白。その当時、MSOはストラディヴァリウスの返還に10万ドル(約1000万円)の賞金をかけていたため、翌日にW・Dさんは知り得た全てを警察に通報。すぐさまアラー容疑者およびテーザー銃のシリアルナンバーを放置した実行犯の女性Salah Salahadyn容疑者が逮捕され、500万ドル(約5億円)のストラディヴァリウスは、犯人の初歩的なミスによって無傷で無事に返還されました。犯罪組織による犯行ではなかったものの、巨額の価値を持つ楽器を1人で持ち歩いていることを知って犯行に及んだということです。

ストラディバリウスとはアントニオ・ストラディバリ氏が1700年~1725年の「黄金期」に製作した1000本のバイオリン・ビオラ・チェロを指します。中でも2本のバイオリンは最上級の作品として知られており、1つは1716年製作の「Messiah(メサイア)」で、イギリスのアシュモレアン博物館に収蔵されています。もう一方はアーモンド氏が盗難に遭った1715年製作の「Lipinski(リピンスキー)」となっています。

By ZakVTA

450本残存するストラディバリ・バイオリンの中で、5億円もの値が付く理由について専門家は、「17世紀の変わった気候条件が木材に関係している」「ストラディバリ氏秘伝レシピによるニスによるもの」などの推測が出ていますが、プロ演奏家が現代の楽器と引き比べた結果「大差なし」と判断していたりと、巨額すぎる価値については論争が絶えません。

2014年7月には美術品オークションハウスサザビーズでバイオリンよりはるかに少数のストラディバリ・ビオラの非公開入札が行われるなど、美術作品として扱われています。5億円もの価値のバイオリンを警護もなしで持ち歩いていたアーモンド氏は犯罪者から見れば「絶好のカモ」だったというわけです。


元芸術作品泥棒のポール・ヘンドリー氏によると、「ほとんどの闇ディーラーはあまり知られていない作品だけを取り扱います。国際的に知られた盗品の高額芸術作品は、贋作の可能性も含めて扱いにくいため『頭痛の芸術作品』と呼ばれます」と説明しており、5億円のストラディバリウスの全うな買い手はゼロであるとのこと。しかし、ロバート・ウィットマンFBI元捜査官は「実際価格の10%でも売れたら良しとする犯罪者が多いのも事実です」と話しており、高額なストラディバリウスが狙われる危険性について警告しています。

アメリカで常勤の「芸術巡査」として働くロサンジェルス市警察のDon Hrycyk氏は、過去20年間の中で、盗難にあった8本の貴重なバイオリンのうち7本を取り戻した経験を持っています。彼の経験によれば、大規模な高額楽器専門の盗品買取組織は存在しないそうですが、「高額な楽器が盗難に遭った際は報奨金がかけられますが、窃盗の誘因となる可能性があります」と指摘しています。

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in メモ, Posted by darkhorse_log

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