乗り物

頭の動きで運転でき体が不自由でもドライブ可能なレーシングカー「SAM」


不慮のアクシデントで体の自由を失い、ドライブはおろか歩くことさえままならない状態になってしまった元レーシングドライバーが再びレーシングカーに乗り込んでサーキットをドライブするというプロジェクト「SAM Project」が進められており、2014年5月25日に開催されるアメリカ最大の自動車レース「Indy 500(インディ500)」では実際にサーキットを走行する予定になっています。

Arrow SAM Project
http://www.arrowsamcar.com/

ベースとなっているマシンはシボレー・コルベットで、2014年に発表されたタイプC7をベースにしたモデルです。


車体はノーマル状態から大きく変更されていないように見えますが、その「頭脳」には多くのテクノロジーが投入されています。


体が不自由で運転に苦労するドライバーのために、SAMでは主にドライバーの頭の動きを読み取ることで運転を行うことが可能になっています。赤外線反射用のチップを取り付けた専用のキャップをかぶったドライバーが頭を動かすと、目の前に備え付けられた赤外線カメラがその動きを読み取ってコントロール処理を行うプロセッサーへと信号が送られます。


カメラからの信号を受け取ったセントラルプロセッサーは、ドライバーの意思を翻訳してマシンに伝えます。車体に取り付けられたGPS受信機は1秒間あたり100回の位置測定を行うことが可能で、コースアウトなどの危険性を察知して必要な際にはマシンを安全な状態へと導きます。


マシンの操作系は通常の車体と共通のため、セントラルプロセッサーから送られた信号は各部のモーターに伝えられ、実際にハンドルやアクセルやブレーキを操作する仕組みになっています。


運転に必要な頭の動きは以下の通り。頭を左右に傾けるとハンドルが左右に回り、後ろにのけぞらせることでアクセルが踏み込まれます。ブレーキは口の中に入れたセンサーをグッとかみしめて操作します。


このマシンを開発したのは、産業用電子部品製造メーカーのArrowを中心とする開発チーム。メンバーには宇宙機器などの開発を手がけるBall Aerospace&Technologiesライト・パターソン空軍基地の研究所などが名前を連ねています。


そしてシートに収まるこちらの男性が、マシンのドライブを担当するサム・シュミット氏。過去には「世界3大自動車レース」にも数えられるインディ500でトップを走ったこともある元プロレーシングドライバーです。


1964年、ネブラスカ州に生まれたサム・シュミット氏は、レーシングドライバーには珍しく、元ビジネスマンという異色のキャリアの持ち主。大学を卒業後にビジネスの世界で成功を収めながら、セミアマチュアレベルのレースで成績を残していたシュミット氏ですが、最大の目標はアメリカ最大のレースの一つ、インディ500に出場するということでした。

その後、着実にレーシングドライバーとしてのキャリアを積み上げたシュミット氏は1995年、アメリカで人気のストックカーシリーズに参戦してプロドライバーとしてのキャリアをスタートさせます。すでに年齢は31歳という遅いデビューでしたが、プロ最初のシーズンをランキング3位で締めくくり、その年の新人賞「ルーキー・オブ・ザ・イヤー」を受賞しました。

By roger blake

そして1997年、アメリカのフォーミュラカーレーシングの最高峰である「Indy Racing League (IRL)」(現IndyCar)」に参戦。そしてその年には念願のインディ500への出場を果たします。1999年にはキャリアのピークを迎えます。夢の舞台だったインディ500では一時トップを走る快走を見せたほか、シリーズ第10戦のラスベガス・モータースピードウェイでのレースでは予選で1位を獲得。キャリア初のポールポジションからスタートしたシュミット氏はそのまま同レースを制し、「ポール・トゥ・ウィン」で初優勝を飾りました。

By momentcaptured1

同年のシリーズランキングを5位で終えたシュミット氏でしたが、その初優勝はシュミット氏の最初で最後の勝利となります。翌2000年の開幕前に行われたテストでシュミット氏はクラッシュ。病院に運び込まれたシュミット氏は5週間にわたって人工呼吸器を必要とするほどの重傷を負います。クラッシュから生還したシュミット氏でしたが、事故の影響で身体の四肢にまひが残り、レーシングカーをドライブすることはおろか、歩くこともかなわない状態になってしまいました。

それでもレーシングへの情熱を諦めきれなかったシュミット氏は、同じように事故が原因で体にハンディキャップを抱えながらも、F1シリーズの最前線で活躍するウィリアムズF1チームのオーナー、フランク・ウィリアムズ氏の影響を受け、事故から約1年後の2001年には自らのレーシングチーム「Sam Schmidt Motorsports (現Schmidt Peterson Motorsports)」を立ち上げ、現在に至るまでアメリカレーシング界で活躍を続けています。画像左がシュミット氏で、右は過去にチームに在籍していたアレックス・タグリアーニ

By Wikipedia

これまでにも、ゴールまで残り16周という時点で発生した事故により両足を失ったアレッサンドロ・ザナルディが、事故の翌年に特製のマシンに乗り込んで前年のレースでの残り周回を走りきった、というエピソードがありましたが、四肢の自由を失ったドライバーが再びサーキットを走るというのは前例のない試みです。

シュミット氏はSAMに乗り込み、2014年5月25日に開催されるIndy 500の当日にコースを4周ドライブする予定となっています。また、同レースにはシュミット氏のチームから、元Indy 500の覇者でありF1チャンピオンでもあるジャック・ヴィルヌーヴが本戦への参戦を発表しており、注目の多いイベントになりそうです。

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in ソフトウェア,   ハードウェア,   乗り物, Posted by darkhorse_log

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