サイエンス

20億年前の地球に存在した「オクロの天然原子炉」に学ぶ原子力エネルギーエコシステムとは?

By Rodrigo Gómez Sanz

大量のエネルギーを創出できる原子力発電は、制御や廃棄物処理の難しさとは切っても切り離せない関係です。エネルギー源としての原子力をいかに活用するかという観点で、自然界が生み出した原子炉である「オクロの天然原子炉」に学ぶことはなお多いと言えるようです。

2 billion-year-old African nuclear reactor proves that Mother Nature still has a few tricks up her sleeve | ExtremeTech
http://www.extremetech.com/extreme/181620-2-billion-year-old-african-nuclear-reactor-proves-that-mother-nature-still-has-a-few-tricks-up-her-sleeve

1972年、アフリカ・ガボン共和国のオクロ鉱床から産出されたウラン鉱におけるウラン235の同位体比が極端に低いことが発見され、かつてガボンを植民地支配していたフランスは、「オクロのウランを秘密裏に核兵器に流用したのではないか?」という疑いがかけられたため、この疑念を払拭するべく調査を行いました。その調査によって、希土類も含めてオクロのウラン鉱床が他の鉱床とはまったく異なる組成比を構成しており、ウラン235の減少は原子炉で起こっている現象とまったく同じことから、「オクロのウラン鉱床はかつて『天然の原子炉』であった」という結論が導かれたのが「オクロの天然原子炉」で、約20億年前から30万年間もの長期間にわたって自律的な核分裂反応が自然状態で起こっていたと考えられています。

これはオクロの天然原子炉の断面図。白い部分がウラン鉱床で、黒い部分が核反応ゾーン。


なぜ自然界に「原子炉」というきわめて特殊な状態が生じたのかについて、20億年前まではウラン中に3%を超える高濃度のウラン235が存在していたことが挙げられています。なお、この値は、現代の原子炉の濃縮ウランのしきい値に近い値であるとのこと。また、ウランは酸素存在下でしか水に溶けないところ、20億年以前においては大気中の酸素濃度が十分高くなかったことが、それ以前にウランが一カ所に集まらなかった原因であると考えられています。

オクロの天然原子炉で創出されたエネルギーは平均で100kWと考えられており、この出力は中規模な太陽光発電で得られるエネルギーと大差ない量であり、原子力発電所から出力される大量のエネルギーとは比べられないほど小さいもの。ただし、オクロの天然原子炉は、太陽光発電で得られるのと同程度のエネルギーを、およそ30万年という長期間、安定的に排出していたと考えられており、絶妙なエコシステムであったと言えそうです。


なお、オクロの天然原子炉が安定的にエネルギーを創出し続けたメカニズムのカギを握るのは「水」であるとのこと。近年の原子炉では、天然ウランを利用するために中性子減速材に重水を用いる重水炉に代わって、減速材に軽水(普通の水)を使う軽水炉が主流となっています。これは高価な重水の代わりに普通の水を使えるためコストが低く抑えられることや、減速材としてだけでなく冷却剤として水を活用できるというメリットがあるためです。オクロの天然原子炉も水を減速材として用いた「軽水炉」として機能していたことが分かっています。

オクロの天然原子炉の「軽水炉メカニズム」は、ウラン鉱床に地下水が染みこんで水が中性子減速材として機能することで核分裂反応が起こるところ、核反応によって発生する熱で地下水が蒸発してしまい反応が停止、その後、ウラン鉱床の温度が低くなると再び地下水が流入して核分裂反応が起こる、というサイクルで延々と核反応が起こったというもの。つまり、核反応を起こす地下水が核反応が生じるとすぐに取り除かれ、一定時間経過後に再び核反応が起こる、という風にちょびちょびエネルギーが創出されていたというわけです。なお、核分裂は、30分間活動した後180分間休止するというサイクルであったと試算されています。

By Dimitar Krstevski

オクロの天然原子炉によって生じた核反応エネルギーは地球を焼け野原にするのに十分な量であることから、仮に同様のメカニズムで長期間・安定的にエネルギーを取り出す原子炉が作れるとすれば、大量のエネルギーが必要な人間社会にとって有益であることは火を見るよりも明らか。

科学技術が高度に発展するうちに、「自然状態よりも優れた状態を人工的に生み出せる」という錯覚を人間は持ってしまいがちですが、人類誕生のはるか大昔の地球に存在していたオクロの天然原子炉を知り、そのシステムを理解することは、危険な放射性廃棄物を地中深くに何千年もの間、保管することを余儀なくされる現在の原子力発電所の在り方を根本的に見直すよいきっかけになりそうです。

この記事のタイトルとURLをコピーする

・関連記事
究極の地熱発電とも言われる「マグマ発電」が実現に向けて前進 - GIGAZINE

「フロート式原子力発電所」で津波にも高い耐性をみせる原発をMITが考案 - GIGAZINE

最新型原子力発電所「AP1000」と東芝とアメリカの関係がよくわかるムービー - GIGAZINE

全世界のエネルギー源を再生可能エネルギーに置き換えたときのコストは? - GIGAZINE

激変する世界のエネルギー事情が簡潔に目で見てわかるレポートムービー2012年版 - GIGAZINE

マイクロソフトのWindowsでシステムを制御しているイランの原子力発電所でエラーが発生 - GIGAZINE

in サイエンス, Posted by darkhorse_log

You can read the machine translated English article here.